第三話 独りぼっちの少年
「ご馳走様でした。」
リッカは手を合わせてお行儀よく一礼し、きれいに空になった食器を重ねてもって立ち上がった。
そして台所でカカシの分と合わせて慣れた手つきであっという間に洗い物を片付けた。
エプロンをはずして壁に掛けた時、けたたましく玄関のドアがたたかれた。
「リッカちゃーーん!!おはよ〜!!今日も迎えに来たぜ〜!!」
「おいコウライ、うるせえよ!迷惑だろ。」
「あいつら、すっかり舎弟だねぇ…」
カカシはしみじみ呟き、お茶をすすった。
数日前――リッカの血継限界の血を狙う者が、演習場にいたリッカたちを襲った。しかしそれを呆気なく返り討ちにしたリッカに、あの二人はすっかり魅了されてしまったのだった。リッカの力を隠すつもりはなかったが、この里へ逃げてきた事が外部に漏れることも警戒していた。常に上忍が見張っているとはいえ、思ったよりも早くその事態に襲われたが、助けに出る間もなくリッカ自身が倒したと報告された。どうやらリッカの力は自分が思っていたよりもすさまじいらしく…保護者を任じられた身としては色んな意味で先を案じたことを覚えている。
しかしそれをきっかけに、頼もしい舎弟…いや、仲間ができたことも事実だった。
「行ってきます。」
リッカはカカシを振り返り、カバンをもって部屋を出ていこうとした。
「ああ、気を付けてね。」
カカシはニッコリ微笑み、立ち上がって娘の後を着いて行き、玄関まで見送りに行った。
玄関の扉を開けると、待ち構えていたイブキとコウライが嬉しそうにリッカを見、緊張した面持ちでカカシを見上げた。
「今日も皆で修行かな?」
にっこり、どこか威圧感のある笑顔で言うカカシに、イブキとコウライは姿勢を正して敬礼した。
「は、はいっ!」
「いつもの場所で、いつもの修行です!」
「うんうん。じゃ、今日も暗くなる前にはうちの大事な娘を返してネ。」
「カカシさん…」
過保護な発言に、リッカは少し鬱陶しそうに目を細めた。
「モチロンですっ!ちゃーんと家まで護衛しますから、ご心配なくっ!!」
「うんうん。よろしくネ。」
しかし調子よく返事をしたコウライに、カカシは気をよくして頷いた。
「…じゃあ…行ってきます」
「行ってきますっ!!」
「…失礼します。」
「気を付けてネ〜。」
三人の姿を見えなくなると、カカシは玄関の扉を閉めた。
「なぁなぁ、今日はさ、ちょっと商店街のほうにでも行かねーか!?」
コウライが浮かれた様子で提案すると、イブキが目を細めた。
「修行するんじゃなかったのか?」
「まあまあ、いーじゃねえかたまにはさ!何ならイブキは一人で修行でも何でも行っていーんだぜぇ?そーすりゃリッカちゃんと俺は二人っきりで…」
「カカシさんに殺されるぞ、お前」
ぎくり、とコウライが肩を怯ませたとき、リッカがぽつりと呟いた。
「私は修行に行く。」
コウライは固まり、イブキはふっと一笑した。
「そ、そっかそっか!そーだよな楽しいもんな修行!リッカちゃんがそう言うなら俺も…」
「いいんだぜコウライ、お前ひとりで商店街で遊んできても」
「うっせえ黙れっ!!」
「あっちいけ、クソガキッ!!」
突然怒鳴り声がして、先頭を歩いていたリッカの足元に少年が転がってきた。
横を見ると店先から店主の男が青筋を立てた顔を出し、木の棒を振り回しながら、道に転がる少年に怒鳴りつける。
「テメェに売れるもんなんかねーよ!テメェみたいなガキがうろついてちゃ他のお客さんに迷惑だ、さっさと失せな!」
「……。」
少年は擦りむいた膝を見て、悔し気に店主をにらむ。しかし店主は踵を返し、勢いよく店の扉を閉めた。
リッカは少年に歩み寄り、少しかがんで手を差し出した。
「大丈夫?」
「あ…」
少年はリッカを見上げると、その愛らしい顔立ちに意表を突かれたように一瞬固まり、ほほを赤くした。
「あ、ありがとだってばよ…」
少年はリッカの手につかまり、立ち上がる。見れば、ほとんど同じくらいの年頃の少年だった。
その少年を見て、イブキとコウライは息をのんでいた。なぜなら彼は、親から「絶対に近づくな」と釘を刺されていた、「里の厄介者」ナルトだからだ。
詳しいことは知らないが、過去に里に災いをもたらした孤児なのだとか。
今も彼がいることで、いつ里に危険が及ぶかもわからない。危険だから近寄るな、と、幼いころからうるさいほど聞かされてきた。
リッカはあの父親から、そのことを聞いていないんだろうか?
イブキとコウライはこっそりと目を見合わせた。
「り…リッカちゃん。」
口を開いたのはコウライだった。
「そいつに近づくと危ないぜ、行こう」
リッカとナルトの間に入って言うと、ナルトは怒ったような悲しむような顔をして唇を噛み、急に踵を返して走り去ってしまった。
「どうして危ないの?」
リッカは少年が走り去ったほうを見て、コウライを振り返る。
「リッカちゃん知らないの?昔この里を襲った災いが、あいつに関係してるって噂だよ。その災いは今もあいつに取り付いていて、いつまた危険が襲ってきてもおかしくないんだって。」
「……。」
リッカは納得できない様子で悲しげな顔をしたので、コウライは慌てた。
「…誰がそんなことを言ってるの?」
「え?誰って…里の大人たち、皆だよ。」
「皆?じゃあ…あの子、独りぼっちなの?」
「それは…。」
コウライとイブキは顔を見合わせた。リッカはまた、少年が走り去ったほうを見つめた。
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