界王
朝陽が私の肌を白く照らしている。
「ずっとこうしていたい」
私はカレンの胸の中で呟いた。
「……私もだ」
眠たげな声が頭の上から聞こえる。
「でも、起きよう」
私は名残惜しくも起き上った。カレンの腕が私の肩から腕を沿ってシーツの上に落ちる。見ると、カレンは切なげに私を見ていた。その視線はわずかに下に落ち、あわてて逸らされる。まだ遠慮して胸も見られない彼がいとおしくて、頬にキスをした。
「来て。渡すものがあるの。」
優しく腕を引くと、カレンは嬉しそうについてきた。
「何かな。」
私はカレンを衣装室に導く。そこには、いくつもの鎧やマントが飾られている。私が渡り歩いてきた世界の物だ。
「これ。あなたに似合うと思う。着てみて。」
その中の一つ、白い鷹の鎧をカレンに見せた。
「見事な鎧だな。」
「私も着替えるわ。」
私は言い残して、衣装室を出た。そして自室に戻り、顔を洗ってから衣装ケースを開ける。こちらにはローブやチュニック類を仕舞ってある。
青いガーディアンコートを取り出し、身にまとった。白いマントと、鋲着きの黒革のブーツと、円環のサークレットも身に着ける。髪を編み、ちょうど身支度が整うと、衣装室からカレンが現れた。
「どうだろうか。」
カレンは照れ臭そうに言って、はにかんだ。
「よく似合ってる。やっぱり、思った通りだわ。素敵よ。」
ありったけの言葉で褒めると、照れ臭そうにしながらも嬉しそうに笑った。
「あなたも素敵だ。あなたは……青い色がよく似合う。澄んだ海のような、誰からも愛される色だ」
「ありがとう。」
私たちはキスをし、扉へ向かう。
「さて、一日を始めましょうか。」
冗談交じりに言うと、カレンが私の手をしっかりと握ってくれた。
会議室に入ると、既にレリアナとジョゼフィーヌが待っていた。
「あら、あのキザな鎧はどうしたの?すっかり紳士になったわね。」
カレンを見つけたレリアナが面白いおもちゃを見つけたように目を細めて言う。カレンは居心地悪そうにしていたが、まんざらでもないようだ。
「さあ、始めよう。報告が山積みなんだ。」
ひとまず3人に頼んでいた仕事の報告をそれぞれ聞いた。ジョゼフィーヌからは、貴族たちから十分な物資が届いたこと。カレンからは、難民たちの仕事への取り組みの姿勢に改善が見られたこと。そしてレリアナからは、調査を依頼していた北南の山賊についての報告があった。
「今の所、私たちに特別な敵対心はないみたいね。でも、味方というわけでもない。街道を頻繁に使う商人たちの中には、襲われて荷物を奪われた者も少なくないわ。何らかの対処が必要でしょうね。」
「ですが、それほど人員に余裕があるでしょうか?今はスカイホールド内だけでも精一杯ですし……。」
城下に人が増えたことで、治安は不安定になり、警備にさく人員が増えた。ジョゼフィーヌはそのことを言っているのだった。
「そうね。しかも、北南どちらかを叩けば、きっともう一方に背中を取られる。それ以前に、私たちが仕掛ける動きを見せれば、双方の利害が一致するから、一時的に手を組む可能性もあるわ。」
「……人手については、任せてくれ。倫理的にはあまり気が進まないことだが、どうにでもなる。」
「どういうこと?」
レリアナが怪訝な顔をした。私はもう打ち明けるべきかと、会議室の隅に控えさせていたソルを振り返った。
「ソル。」
「はい。」
ソルは私の隣に並んだ。
「彼は、ポーンと呼ばれる存在だ。」
「ポーン?」
「人ではない存在。世界を統べる界王によって生み出され、使命を負った覚者に従う存在。」
私は手を地面に翳し、力を放って人を形作る。見る間に、灰色の光がうごめき、一人の男がそこに作られた。3人の呆然とした目を感じつつ、私は説明を続けた。
「ソルも私が作った。私は、ポーンをいくらでも生み出せる。優れた戦闘力を持ち、私……覚者に絶対的に従う存在。でも、際限なく生み出して奴隷のように戦地へ赴かせるのは、私もしたくない。きれいごとかもしれないけど」
3人が顔を見合わせる。
「彼はルーク。私を一番最初に手助けしてくれたポーン。……ソル、ルークに何か着る物をあげて。」
「はい。」
ソルが会議室を出て行った。扉が閉まる音で、レリアナは我に返ったように口を開いた。
「何を言えばいいかわからないわ。」
酷く狼狽えていた。こんなに冷静さを失っている彼女は初めて見る。
「でも、誤解しないで。失望したわけじゃないのよ。むしろ、あなたの力を畏れてる。同時に、嬉しくも思ってる。だって、これはもう……神の領域だわ。」
「ええ。今目の前で起こったことが信じられません。あの戦いを乗り越えて、もう私を驚かせるものは何もないと思っていたのに。」
ジョゼフィーヌが興奮気味に言った。
「でも、人を増やして大丈夫でしょうか?やっと難民たちの物資が確保できたところなのに。」
「それは問題ない。食事に関しては、ポーンは必要としない。人間……ではないから。彼らの動力源は、私の力なんだ。」
「そんな……力を使って、大丈夫なのか?あなたに何か、危害がないのか?」
カレンの不安そうな顔を見て、嬉しさで胸が苦しくなった。
「大丈夫よ。私は界王。この世界を今保っているのも、私の命。人を生み出すのもポーンを生み出すのも、息をするような感覚なの。そうでなくては、世界を生かしてはいけないもの。」