馬上
とりあえずの偵察として、北の山賊はレリアナとカサンドラが、南の山賊は私とカレンが偵察に向かうことになった。武器を装備し、厩へ向かう。道中目立たないように、ドラコニクスに乗るのは控えるべきかと考えながら。
厩には不機嫌な女と怯えた顔の女がいた。怯えた女は私を見ると、天敵に出くわした鼠のように奥へ引っ込んだ。不機嫌な女は私を見ると、一層不満げに眉にしわを寄せて、切り株にどっかと腰を下ろした。
「ドラゴン皮の鞍の白馬を用意して。」
女に言いつけると、英語で言ったにもかかわらず、女は日本語でそっぽを向いた。
「わかりません」
「そう。一頭しかいないのに、白馬がどれかもわからないの。」
呆れた声で言うと、女は鋭く私を睨みつけてきた。
「偉そうに!」
「どうした?」
後ろから聞き慣れた声がした。女の目の色が変わった。振り返るとカレンがいて、私たちを交互に見た。
「何かもめ事か?」
「こいつが、私に暴言を」
女がすかさず私を指さして罵る。カレンは片眉をあげて私を見た。私は肩を竦める。
「ですって」
私が言うと、カレンはため息を吐いた。
「私は全て見ていた。審問官は暴言など吐いていない。お前が役割を放棄し、咎めた彼女を侮辱した。お前は彼女が気に入らないだけだ。違うか?」
女は黙り込んでいる。
「そもそも、厩番のお前に暴言を吐いて、審問官に何の利益がある?彼女はそんなに軽率で浅慮な人間ではない。」
「カレン、もういい。行こう」
私はカレンを止め、厩の奥に向かって声をかけた。
「白馬と黒馬、1頭ずつ!ドラゴンの皮の鞍をつけて!」
「はい!」
馬の世話係の男がいつも通り威勢のいい返事をした。すぐに馬が用意された。
「お前の処分はすぐに決める。」
カレンは去り際に、女にそう言いつけた。女は不機嫌そうに厩の奥へ引っ込んだ。入れ替わりに出てきた世話係の男が、並んだ私たちを見て感嘆の声を上げた。
「おお!お二人とも、まるでどこかの国の王子と姫みたいですな!いやあ、眼福眼福。」
すると、厩の中から、ガン!と何かを蹴っ飛ばしたような音が響いてきた。
「や!またか!クソ、あいつめ!」
「どうかされたのか?」
私が尋ねると、世話係の男は参ったと頭をかきながら答える。
「あの女……不機嫌そうな方です。あいつは、本当に気分屋で。言う事なんかちっとも聞きやしないし、思い通りにならないとああやって物に当たるんですわ。もう一人の若い方の女も、根性のない奴でね。女を崇拝しきって言いなりだし、ふたりとも汚れ仕事はしない。隙さえあらば仕事をさぼって飲みに行くし、仮病を使ってまともに仕事にも来ないし……ああいや、愚痴はこのくらいにしましょう。嫌な話をして申し訳ない。」
私はカレンと顔を見合わせ、頷いた。
「親方、苦労をかけてすまない。きっとなんとかして改善させる。まずはあの二人に何らかの処分を与えよう。」
「本当に?いや、お手を煩わせて申し訳ありません。私に指導力があれば、こんなことには……」
「いえ、あなたは何も悪くない。」
渡した世話係の男をまっすぐに見た。
「すぐになんとかする。」
門番経由で厩の女たちの素行調査を騎士に言いつけてから、私たちは馬に跨り、スカイホールドを出た。
「カレン。味方をしてくれてうれしかった。ありがとう。」
「私はいつでもあなたの味方だし、信じている。」
カレンは当然のように返してくれる。私は安堵と喜びで笑みを浮かべた。
「だが、あの女のことは、部下たちから報告されていたんだ。」
「本当に?何を?」
「あなたが私の部下に通訳を頼まれたときに起こったことだ」
私は納得した。確かにあれは報告されても仕方ない。
「彼女たちはなぜああもあなたに対して敵対心を持っているんだ?」
「それは……彼女たちが、自分の価値観に合わないものや思い通りにならない人を、敵だと思うからよ」
カレンは納得したように溜息をついた。
「あまり人を悪く言いたくはないが、それは、狭量だな」
「そうなの、本当に。私も……言いたくはないけど。あの人たちには、本当に悩まされた。スカイホールドに現れた時にはうんざりしたわ。」
カレンが心配そうに私を見たので、私は付け加える。
「でもここにはあなたがいるから、それだけで何でも我慢できるわ」
するとカレンの微笑みがやさしげなものに変わる。
「参ったな。ベッドが恋しくなった」
私は思わず笑った。
「まだベッドを出て半日も経ってないわよ。」
「それが何だ。あなたとなら、毎日だって……」
カレンは言いかけて、顔を赤くして口をつぐんだ。
「それなら、お願いがあるの。」
私が切り出すと、カレンは不思議そうに振り返る。
「渡した鍵を毎日使って。それから毎日一緒に、朝日が昇るのを迎えるの。」
カレンははにかんだ。
「それは素晴らしい提案だ。ぜひ……そうしたい。」
そうして私たちは一度馬を止め、馬上でキスをした。