002


「ねー皆初恋っていつ?」

先輩たちから解放されて席に戻ると、後ろの花城さんの席に集まっている女子たちはそんな話をしていた。

「あたしは中学の時かな〜。サッカー部の先輩!」
「私は幼稚園の時!(笑)」
「はや!(笑)」
「光は?」

ドキン、と心臓がはねた。花城さんの初恋…かぁ。いつ、どんな人に…恋したんだろう。

「…小学生の時かな。」

静かにきれいな声がささやき、皆が興味を惹かれたように息をのんだ。

「へぇーどんな人?」
「知らない男の子。」
「え〜!どういうこと?同じ小学校の人?」
「ううん。確か…道端で見かけて、あっ、かっこいい、って思ったの」
「きゃ〜何それ気になる!どんな子だったのー!?」
「その子は野球をしてて…一番目立ってた。しばらく見てたらボールが転がってきて、その子が追いかけてきて…ボールを拾ったら、ありがとうって言われて」
「少女漫画みたい!!」
「そのあとどうしたんだっけ…。でも、話したのはそれだけ。それ以降会ってもいないし」
「へえ〜〜」

きゃっきゃと盛り上がる女子たちを横目に、男子たちがソワソワしている。

「…俺野球部入ってみようかな」
「やめとけ…うちの野球部めちゃくちゃキツいらしいぞ」

野球…。野球か…。小学生の頃なら、俺もしてたけど…。…い、いや!それが俺なわけないけど!でも、一番目立ってた、ってことは…もしかしてピッチャーかも…。…いやいや!だからうぬぼれちゃダメだって…!!それにボールを拾ってもらったって…俺にはそんな記憶はないし…。…やっぱ別の誰かだよな…。
悶々としていると予鈴が鳴って、女子たちは解散した。…どくどく、心臓が脈打つ。さっきのこと…自然な感じで、謝って…さりげなく話すチャンス…だよな…今…!!

「…あ、あの…」
「ん?」

振り返ると、花城さんは授業の準備をしながら俺を見上げた。うわあ…やっぱりすごく綺麗だな…。

「さ…さっき、ごめんな。変なことに巻き込んで…」
「大丈夫。」

にこ、と小さく微笑んで、花城さんは教科書とノートを重ねておいた。は…話が終わってしまった…。

「でも、びっくりした。」

えへへ、と花城さんが笑って、俺は一気に顔が熱くなった。笑顔……か…可愛すぎ…!

「変な人が先輩で大変だね、東条君。」
「え、あ…はは、そうだな…」
「あんなに馴れ馴れしい人初めて。」
「御幸先輩は、ちょっと…変わってるから…。あ、でも、すごい人なんだよ。選手としては有名で、プロも注目してて、あの人を追いかけて青道に来る部員もいるくらいで…」
「へ〜。」

あ…!これじゃあ御幸先輩ばっかり褒めて、あとで倉持先輩に怒られそう…!!

「あ…あと!もう一人の倉持先輩は、えっと…いい人だし…青道のファーストといえばあの人で、えっと、足が速くて…スイッチヒッターやってて器用で…」
「…ふふ」

俺の顔を見つめて話を聞いていた花城さんが、ふいに小さく笑いだした。

「弱みでも握られてるの?」
「え…。」

そういわれて初めて、確かに俺変なこと言ってるな、と思った。

「はは…そうかも。」
「ふふふ。」

チャイムが鳴り、あ、じゃあ、と断って、前を向いた。
なんだか…花城さんと仲良くなれた気がして、先輩たちにこっそりと感謝した。



***



「花ちゃん元気〜?」
「……。」
「はっはっはっ今日もつれないねぇ!その気の強さ嫌いじゃないぜ♡」
「うざい。」

あれから御幸先輩は廊下で花城さんを見かけるたびにちょっかいをかけてくるようになった。御幸先輩が花城さんに絡むのを、たいてい倉持先輩が近くから睨みながら眺めている。だけど御幸先輩のように堂々と花城さんに声をかける勇気はないらしい…というか、御幸先輩のペースに振り回されている。

「今の先輩誰ー!?」
「知らない。野球部の人らしいよ。」
「知ってるじゃん。」
「名前しか知らないもん。」
「知ってるじゃ〜ん。」
「どうでもいいもん。」
「え〜でもイケメンじゃなーい?」
「いくらかっこよくたって、あんなチャラい人は嫌でしょ。」

女子たちはキャッキャと盛り上がりながら歩いていく。
御幸先輩は今のところ、花城さんにあしらわれているけど…。…そうなんだよな。あの人、イケメンなんだよなぁ。

「…御幸先輩って、花城さんのこと好きなのかな?」

何気なく隣の信二に尋ねると、信二は首を傾げた。

「まー…可愛いし…ああやって絡む女子、花城さんだけだし…そうなんじゃねぇの?」
「あ〜…」

相槌を打ったつもりがため息交じりになってしまい、信二の視線にぎくりとした。

「え…何?東条…お前まさか…」

ニヤニヤニヤ、信二が面白いものを見つけたように俺を見つめ、俺はつい顔が熱くなった。

「な、何!?変なこと言うなよ!」
「まだ何も言ってねーじゃん。」
「そ…!そーだけど…も〜…マジでやめて!」
「へっへっへ」
「悪い笑い方だな〜…」
「だってお前がそんなに取り乱すなんてレアだし」

おもしれー、と小突かれて、俺は何も言い返せずに肩をすくめた。

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