003


夜、気晴らしついでに買い物に来たコンビニで、青道生を見かけた。
学校でも何度か見かけたことのある1年生の女子。1度見たら忘れられそうもないくらい綺麗な子。
実際彼女はすっごく可愛い女子がいる、と学校中で噂になっていて、俺のクラスでも時々噂されている。さっき廊下で見かけたとか、どこかのクラスの奴が狙ってるらしいとか。

花城さんはドリンクコーナーの前で上の方を見上げ、佇んでいた。何を買おうか、迷ってるのかな?と、思った直後、彼女はケースの扉を開けて、腕を伸ばして背伸びをした。あ…あそこのお茶、一つだけ奥につかえてる。
俺は歩み寄って、彼女の背中に声をかけた。

「ちょっと、いいかな?」
「え…?」

驚いて振り返った花城さんの隣から手を伸ばし、奥につかえているお茶を取り出して差し出すと、花城さんはぽかんとしたかおに微笑みを浮かべた。

「あ…ありがとうございます。」
「全然。青道生だよね?」
「?はい」
「俺も青道なんだ。3年の楠文哉っていいます。」

自己紹介をすると、花城さんははにかんで相槌を打った。俺の下心に気づいているのかもしれない。あわよくばこれをチャンスに仲良くなりたい、なんていう俺の下心に。

「名前は?」

だから本当は知ってるのに、俺は知らないふりをしてそう尋ねた。ちょっとズルいかもだけど、自然な出会いを装いたかった。

「花城…です。1年の…」
「…花城さん。」
「はい。」

だけど警戒されてしまったのか、花城さんはぎこちない笑みで苗字だけを言って会釈した。

「ありがとうございました。」
「いやいや。気を付けてね。」

レジへ向かう彼女にそう手を振って、見送った。
…簡単に仲良くなるのは無理そうだ。気長に頑張るか。




***



「ここ出るよ。」
「どこ?」
「この公式とこっちの応用問題。」
「ゲ〜マジかよ!?俺ここ苦手なのによ〜」
「でも亮介がヤマはったとこ大抵当たるから、助かるよね。」

廊下で亮介と純と今度の中間テストについて話していると、ふと廊下の空気がざわついて、俺は顔を上げた。
すると階段を上がってきた1年生の女子たちが、特別校舎の方へ向かうのを、皆振り向いてみているんだと気づいた。それもそのはず、その中には今学校で一番話題の女の子…花城さんがいた。

「こんにちは。」

すれ違いざま声をかけると、花城さんはちょっと驚いて俺を見上げ、思い出したようにはにかんで、こんにちは、と頷いた。そしてそのまま友達と一緒に3年の校舎を通り抜け、特別校舎に入っていった。

「文哉、今の…」
「花城光と仲良いのか!?」

亮介と純が驚いたように言って、俺は照れ臭い気持ちでかぶりを振った。

「いや。話したことあるだけだよ。」
「ハァ!?いつ!?どこで!?」
「ちょっとね。でも、微妙な感じだけど…」

俺はちょっと首をかしげて苦笑した。あの子にとって、俺がいい印象である自信はなかった。よく知らない先輩か、ちょっとしつこい人…とでも思われてるかもしれない。少なくとも、好意には気づかれてる気がするし、それであの反応なら、今のところあまり望みはない。

「…で どこで知り合ったんだよ!?」
「てゆーか、狙ってるの?」
「ハハハ…ひみつ!」
「吐きやがれ文哉ァ!!」



***



その日の放課後、部活に向かう途中、また花城さんを見かけた。今日2回も見れるなんて、ラッキー…。帰るところなのか、友達と一緒に校門に向かって歩いていく。追い抜きがてら、声をかけようか…いや、でも、さすがに鬱陶しいかな。好かれてないし…。共通点が何もないのが辛い。何かあれば、少しでも一緒に過ごす機会があれば…もっと何かが違っていたかもしれないのに。
そんな風に考えてうじうじしていた俺の横を、誰かが追い抜いて行った。

「ラッキ〜花ちゃん発見!やっほ〜」
「うわ、出た…」
「はっはっは!待たせちゃってゴメりんこ♡」
「待ってないです。」

あれは…御幸?え!?なんで?御幸、花城さんとずいぶん仲がいいな…。

「花ちゃ〜ん俺これから部活なの!スゲ〜キツい練習させられんの!」
「だから?」
「慰めて♡」
「嫌です。」
「御幸テメーは来なくていいぜ、永遠にな」
「あっ待てよ倉持!冗談だろ〜」

花ちゃんバイバイ!と手を振る御幸、フンとそっぽを向く花城さん、御幸を蹴飛ばす倉持に、3人のやり取りを見て笑っている花城さんの友達。
そのずいぶん打ち解けている様子を見て、俺はにわかに焦りを感じた。
花城さんが男から人気なのは覚悟の上だけど、まさか御幸が…。御幸は女子から人気があるし、強敵かも。実際俺もクラスの女子に、御幸との仲を取り持ってほしいと頼まれたことがある。それも2人から。誰かが御幸を好きらしいという噂だけなら、何度も聞いたことあるし…。

それに…花ちゃん、って。そんな親しげな呼び方…。

「御幸先輩って絶対光のこと好きだよね〜。」
「やだぁやめてよ!」
「何で〜?イケメンじゃん!」
「全然イケメンなんかじゃない!」
「えぇ贅沢者〜!」
「実は意識しちゃってるんじゃないの〜?」
「全然してない!」

花城さんは友達にからかわれながら帰っていく。その必死な否定を聞き、俺はますます焦りが滲むのだった。だって、俺はきっと、認知すらあまりされてない…。
なんとかして、花城さんともっと話を…。
でも…一体どうやって?共通点もないし…。

俺は一人悶々と考えながら、部活へと向かうのだった。

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