006


「なー花ちゃんなんで試合観に来てくれなかったんだよ〜」
「だから用事があったって言ってるじゃないですか。」
「寂しかったなぁ〜悲しかったなぁ〜」
「うるさいなぁ…」
「明日は来てくれるよね?」
「明日学校なんですけど。」

はっはっは、と笑う御幸先輩と、ため息をついて口をとがらせる花城さん。ほとんど毎日の光景。

「御幸先輩、よくあんなグイグイ行けるよな…」

信二が苦笑いしながら言う。それは違うだろうと俺は思う。御幸先輩はきっとああして、周りに主張してるんだ…花城さんは自分のだと。だから近づくなと。
それに気づいてからは、あの二人を見ているとどうも、俺は胸の奥がチクチクしてくる。

「じゃー夏休み入ったら応援来てくれる?来てくれるだろ?」
「その前に負けるかもしれないじゃないですか。」
「コラ!縁起悪いこと言うな!」



***



「光〜お願い!!」

そしてここ最近毎日、休み時間になるとクラスの女子たちが花城さんに詰め寄ってくる。

「え〜…」
「光なら絶対優勝間違いなしだから!」
「うちのクラスの宣伝にもなるしさ!」
「そうだよ!!」

一際大きな声が教室に響いた。

「光なら絶対絶対絶っっっ対に優勝する!!!」
「………。」

クラスの女子…鷹野さんに両手を捕まえられて、花城さんはちょっと困ったように目を逸らした。鷹野さんは花城さんのことが大好きだ。

「それに優勝者には賞品もあるんだよ!」
「賞品?」
「まず優勝者のクラスに、LHRとかで使えるクラス費1万円!」
「みんなで焼き肉できるよ!」
「…みんなそれ欲しいだけでしょ」
「それからそれから!」

花城さんの呟きをごまかすように話を続ける女子たち。

「ミスコンの優勝者とミスターコンの優勝者は、後夜祭で一緒にダンスするんだよ!」

にわかにクラスの男子たちが花城さんに注目した。花城さんの愛くるしく美しい顔が、ふにゃりと苦そうにゆがんだ。

「…えー何それ嫌だ…」
「えーなんでよー!イケメンの先輩とダンスできるかもしれないじゃん!」
「誰が相手かわかんないじゃん。」
「誰か踊りたい人でもいるの?」

きょとんと、あくまで悪気なく尋ねた鷹野さんに、花城さんは急に顔を赤くした。

「そ、そういうわけじゃないけど…!」
「じゃあいいじゃん〜!ねぇお願い!ミスコンで着る衣装とか、ダンスで着るドレスとか選びたい〜!」
「…司の目的それ?」

…どうやら文化祭の目玉イベント、ミスコンの話らしい。確かに花城さんなら優勝できるだろうな…。
それにしても…文化祭か。部活で全然準備に参加できてないから、忘れかけてたな…。文化祭は夏休み明けだけど…もう準備始まってるのか…。



***



「次…花城!満点!」

おおー!!と教室中に歓声が上がり、花城さんははにかみながら教壇に向かう。

「よく頑張ったな!」
「ありがとうございます。」

花城さんは解答用紙を受け取って、友達に目配せしながら席に着いた。

「光〜これで満点何教科目!?」
「えっと……6個目かな。」
「すっご!天才じゃん!」
「でも数学は満点じゃなかった。」
「それだって1個ケアレスミスしただけじゃん!」
「顔も頭もいいなんて羨まし〜」

なにそれ、と花城さんは笑って流したけど、本当にすごいことだ。花城さんは何でもできる。欠点が一つもない。すごく可愛いし、明るくて優しいし、勉強もできて運動神経もいい。クラスの人気者になるのはあっという間だった。

「光、今回の中間学年1位なんじゃない!?」
「いや〜わからないよそれは…」
「何言ってんの、これだけ満点連発で1位じゃなかったら逆に怖いって!」
「そうだよ光より点数上ってことは全教科満点じゃん!」

花城さんは、どうかなぁ、と首をかしげて笑った。



その1週間後、学年順位が発表され、また教室はちょっとした騒ぎになった。

「え!?1位が…」

黒板に上位30名の学年順位が張り出され、花城さんの名前を探しに集まった女子たちが騒然とした。

「1位が二人いる!!」
「光と同点で…この人名前なんて読むの?B組の…」
「周防…卓…君、だね。」
「すおうすぐる?」

知らないねぇ、と顔を見合わせる女子たち。

「…見に行こう!」

女子は行動に移るのが速い。花城さんを残して、女子たちはすぐに教室を飛び出していった。すおうくーん、と呼ぶ声が廊下から響いてくる。それからしばらくきゃあきゃあ盛り上がって、休み時間が終わる数分前に女子たちが戻ってきた。

「周防君結構イケメン!」

きゃははと盛り上がる女子たちに、まったくもう、と花城さんはあきれたように笑った。

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