007


「倉持先輩何だっけ?」
「えーとね…じゃがりこチーズとプリン3つ。」
「プリン3つも食うの!?あの人…」
「いや…多分増子先輩と沢村の分じゃないかな。増子先輩ってプリン好きらしいよ。」
「え〜あの人そんなことするかァ…?」
「倉持先輩って意外と優しいとこあるんだよ。」
「意外とってお前何気に一番酷くね?」

あはは、と東条が笑ったとき、俺はコンビニの前のポールに寄りかかっている女子の姿を見つけて、おい、と東条の腕を引いた。

「あれ…花城さんじゃねぇ?」
「え?あ…本当だ」

俺たちは何となく立ち止まった。花城さんはまだこちらには気づいてなくて、ペットボトルの何かを飲みながらただ時間をつぶすように車道をぼーっと眺めている。俺は東条と顔を見合わせた。
声…掛けるか?掛けるとしたら東条だ。だって同じクラスだし、席も前後だっていうし…でも俺は話したことないし、そもそもあっちは俺のこと知らないだろうし。
暗黙のうちにそれを東条に訴えると、東条はそれを察したのか、コンビニの入り口…花城さんがいるほうに向かって歩き出した。

「花城さん。」

東条が声をかけた。大丈夫だ東条、自然だ。自然だぞ。
花城さんはこちらに気が付き、東条と俺を交互に見た。

「あ…東条君」

…うん、そうだよな。俺のこと知らないよな。

「今、帰り?」

東条が周りを見渡して尋ねた。今はもう、野球部の練習も終わって俺らはパシられるような時間。当然辺りも真っ暗だ。

「…うん」

花城さんはちょっと苦笑いを浮かべながら、静かに頷いた。その表情からあまり話したくない理由があるらしいことを俺も東条も察したけど、聞かれたくなさそうに花城さんが俯いたから、東条は「そうなんだ」と頷いた。

「じゃあ…。」
「うん」

東条はぎこちなく花城さんと別れ、俺たちはコンビニに入った。

「どうしたんだろな?」

俺は興味をこらえきれずに、お菓子を籠に入れながら東条に話を振った。

「うん…」

東条も店の外の花城さんを見やりながら頷いた。
もう外は真っ暗だし、周りに連れらしき人もいないし、特に用もなさそうなのに、花城さんはまだ帰ろうとする気配はない。本当にただ時間をつぶしているだけのように見える。もうすぐ夜の9時になる。俺らはともかく、女子はひとりで出歩いてたら危ないだろーし、親も心配するんじゃ…。

俺たちが買い物を終えてコンビニを出た時も花城さんはそこにいて、俺たちはまた顔を見合わせた。このまま置いて帰ってもいいものか…せめて無事帰れるか確認してったほうがいいんじゃないか…迎えを待ってるのかもしれないし、家が近いなら送っていくこともできる。…別に下心とかではない。うん。

しかし、行くか?と東条と目配せしたとき、向こうから歩いてきた男が花城さんに目を止めて足を止め、花城さんも男を知っている様子で顔を上げた。
男は俺らと同じ年ごろで、日本人離れしたイケメンだった。ハーフかもしれない。

「何してるんだよ。」

男はため息交じりに花城さんに声をかけた。あんなに可愛い花城さんにそんなふうに話しかける男がいるとは驚きで、二人の関係が気になった。

「…もういい。行くぞ」

何も答えない花城さんに、男はそっけなく踵を返す。

「…もう少ししたら…一人で帰る」

しかし花城さんはうつむいたままぽつりと呟いた。男は振り向き、花城さんを睨んであてつけのようなため息を吐いた。

「我儘言うな。行くぞ。」
「……。」
「ハァ…いい加減にしろよ。」
「…や…」

男が花城さんの腕をつかみ、引っ張った。花城さんは連れて行かれそうになり、俺も東条も無意識に駆け出した。

「は、花城さん!」

東条が呼ぶと、二人は立ち止まって振り向いた。この男、花城さんの知り合いっぽいけど、嫌な感じだ。俺は早くもこの男に嫌悪感を抱いていた。この男から花城さんを助けるような気分でもあった。

「えーと…どうしたの?大丈夫?」
「……。」
「知り合い?」

東条は笑みを浮かべながら花城さんと男を見比べる。俺ならすぐに怒鳴りつけてしまうところだが、東条は友好的に相手を宥めるのがうまい。なにしてんだよ、と怒鳴りかけていた俺は我に返って東条に感心した。

「関係ないだろ。」

しかし男にそれは通用しなかったらしい。男は不愛想に俺たちを睨んで言い返してきた。

「関係なくねーよ。」

これには俺も我慢ならず、言い返してしまった。東条と花城さんの緊張した視線を感じる。男は無言で俺を睨み返した。イケメンのくせに俺よりタッパあって腹立つ。

「友達だから。危なそうな奴に連れてかれそうになってんのほっとけるわけねーだろ。」
「……。」

何か言い返してくるかと思ってけど、男は静かに俺を睨み続け、それから低い声でつぶやいた。

「従弟だよ。」
「……は?」
「俺たちは従姉弟。もういいだろ、部外者は引っ込んでろ。」

「…そうなの?」

東条が花城さんに尋ねると、花城さんは青ざめた顔で小さく頷いた。従姉弟っつっても…こんなにおびえてるのにやすやすと連れていかれるのは納得いかねー。コイツムカつくし。

「ほら。行くぞ」

男の声におびえたように、花城さんは歩き出した。

「花城さん。」
「……。」
「…大丈夫?」

東条が引き留めるように確認すると、花城さんは少し振り向いて、ほんの少し笑みを浮かべたような顔で、頷いた。



***



翌日から、東条と花城さんが話しているのを時々見かけるようになった。あのコンビニでの一見以来仲良くなったらしいけど…。…なんで東条だけなんだよ!俺も一緒にいたのに!!
今も廊下で東条は花城さんと話していて、花城さんが友達に呼ばれて教室に入ると、東条はやっと俺に気が付いた。

「あ、信二…」
「東〜〜条〜〜〜!」
「えっ、何?」
「…何花城さんと仲良くなってんだよ!」

東条はへらりと口元に笑みを浮かべ、顔を赤くした。

「別にそういうわけじゃ…」
「今だって話してただろ!!」
「大した事じゃないし…」
「じゃあ何話してたんだよ!!」
「え…えっと…この間はありがとうって…」
「俺も居たんですけど!?!?」
「あっ、信二にも伝えといてって言われたよ。」
「あーそうかよそりゃどーも!!」

東条は俺を宥めるように変な笑みで受け流した。コイツは時々こうして笑ってごまかす癖がある。

「そうだ、あのあと大丈夫だったか聞いたんだけど…」
「あぁ」
「花城、あの日家の人と喧嘩して帰り辛かったんだって。それで近所に住んでるあの従弟が心配して探しに来たらしいよ。だから大丈夫だって。」
「ふーん…」

それにしちゃあムカつくヤローだったけどな…

「…ってなんで呼び捨てになってんだよ!」
「え?…あ、いや…さん付けって慣れないから、なんとなくそーなっただけだって!」
「東〜〜〜条〜〜〜…!!」

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