どうやら私は、ジーンに引き取られたらしい。
私はジーンに連れ帰られ、店の中の案内や店の奥にある彼女の住まいを簡単に案内され、その日は食事を出されて風呂をもらい、眠りについた。
明日からは、この店の手伝いをして暮らすのだろうか…。だけど、いつまで?ずっとここにはいられない。それに、言葉もわからないし、私は無一文で、何の力もなくて…心細い。まだ、これが現実だという事も、きちんと受け止めきれていない。突然こんなことになるなんて…夢見たこともあったけど、現実になると戸惑いの方が大きい。
ナ・ナル島の夜は静かで、灯りもなく、私はベッドにもぐってもどうにも落ち着かなかった。けれどあの船での疲れのおかげで、いつの間にか眠りに落ちた。
翌朝目が覚めたとき、見慣れない部屋に一瞬の戸惑いを覚えながらじんわりと昨日の事を思い出した。ベッドから出て靴を履いたところで、部屋のドアがノックされる。はい、と返事をすると、ドアはゆっくりと開き、そこにはジーンが立っていた。ジーンは私を見て微笑むと、口元に手を添えて、静かに呟いた。
「うふふ…おはよう。よく眠れたかしら…?」
何を言われているかはわからないため、私は彼女の顔を見つめたまま目を瞬く。ジーンは私を見つめ返し、にっこりと笑みを深くした。
「まずは…お洋服を揃えないといけないわね…。」
やはり何を言われたのか私には見当もつかず、ただ目を瞬いて彼女を見上げるのだった。
***
身支度を整え朝食を済ませると、ジーンは私を連れて店を出た。てっきり仕事を教わるのか、家事でもやるのかと思っていたから、私は何が何だかわからないまま彼女についていく。
ジーンが立ち寄ったのは小さな洋服店で、中には異国情緒あふれるローブやシャツやスカートやマントなどが取り揃えられていた。とはいっても彼らにとってはこれが普段着だから、ここはいたって普通の島の洋服屋さんなのだろう。私はよくファンタジー映画やゲームに出てくる旅人のような服や魔法使いのようなローブを眺め、楽しくなってきてついつい頬を緩めた。
「ヒカリちゃん。」
ジーンが私を手招きする。歩み寄ると、ふわり、と柔らかなローブを体に当てられる。
「あら…素敵。よく似合うわ。」
ジーンは満足そうに微笑むと、そのローブを店主らしき女に手渡した。続けてシャツやスカートも次々私にあてがい、店主に渡していく。…も、もしかして…私の服を選んでるの?でも私、お金持ってないのに…。
「これで、十分かしら…。」
「ありがとうございます。ええっと…全部で5000ポッチになります!」
店主にコインを手渡すジーンを見て、思わずその手を掴んで止めた。
「…どうしたの?」
目を瞬くジーンに、必死で首を横に振る。こんなに綺麗な服を、こんなにたくさん…きっと高価なんじゃないだろうか。こんなもの…買ってもらうわけにはいかない。
「…気にしなくていいのよ。」
ジーンは私の手に自分の手を重ね、そっと撫でると、コインを店主に渡した。そして包んでもらった服を受け取り、ニコリと私に微笑んで店を後にする。
『…あの…』
おずおずと話しかけると、見上げたジーンはとても優しい顔をしていた。
『いつか必ず、お返ししますから…』
深く頭を下げて、言葉が通じないことがわかっていたけれど、私は言った。ジーンは微笑みを浮かべたまま、まるで私の言葉がわかっているように答えた。
「いいのよ…。星の導士様のお役に立てるなんて…光栄ですもの。」
けれどその言葉はやっぱり私にはわからなくて、口を噤んでまた歩き続けた。