012

少し前まで避けられてたくせに、御幸の奴、いつの間に玉城さんと仲良くなってやがって…。

疑問だらけだ。一体いつから、どうやって?
俺の知らないところで、繋がりがあるみたいだし…。

それに、あの凱聖のいけすかないイケメン野郎。マジで彼氏なのか…!?

悶々としながら1年の校舎の自販機に来ると、期待していた女子生徒の姿を見つけて、俺はすぐに胸を膨らませた。しかし…

「じゃあ〜…agreeは?」
「えーと…同意する!」
「正解!じゃあ次…belong。」
「…属する?」
「正解。次行くよ?count!」
「数える!」
「もういっこは?」
「えっもう一個!?え〜何だっけ…」

単語帳を持って出題する玉城さんと、ジュースを買いながら回答する東条。
な…何だあの仲良しっぽい感じ…!?

「あ〜だめだド忘れ…」
「重要である、だよ。」
「あ!そっか!」
「次行くよ〜…」

「と〜〜じょ〜〜〜」

「えっ!?」

ずかずかと歩み寄って東条の肩をつかまえる。どいつもこいつもちゃっかり玉城さんを狙ってやがる…。

「く、倉持先輩…こんにちは」
「おう。玉城さんもこんちは♪」
「こんにちは…。」

玉城さんはきょとんと俺と東条を見比べた。

「よお東条、玉城さんと仲良いんだなァ?」
「え、いや…」

東条が照れて口ごもると、玉城さんはムッと東条を睨んだ。

「ちょっと〜…いやって何?」
「…え!いや違、そういう意味じゃなくて」
「ふーん…仲良くないんだ…友達だと思ってたのにな〜」
「い、いや!仲…仲良いよ!仲良い!」
「本当にそう思ってるの〜?」
「ほんとだって!ごめんって」

な…い、イチャつきやがって〜…!!

「あ、予鈴…!失礼します!」
「失礼します。」

東条と玉城さんは俺に挨拶をして、楽しそうにふざけ合いながら教室に戻って行った。なんか…負けた気分…。




***



「倉持!」

バタバタバタ、と慌ただしい足音を響かせて俺を取り囲んだのは、1年のとき同じクラスだったギャルグループの女子三人組。少し前御幸に、玉城さんと付き合ってるのかと聞きに来た奴らだ。去年は用があれば話す程度だったけど、いつも騒いでいて男をちょっとバカにしていて、あまり良い印象はない。

「ちょっと来て!」
「うわ、なんだよ」

腕を引っ張られて人気のない階段の踊り場に連れて行かれた。腕を引っ張られたことに内心ちょっと腹を立てながら大人しく連れて行かれると、三人は腕を組んで俺を囲んだ。

「…何?」
「…御幸君、あたしたちのこと何か言ってた?」
「は?」

一体何の話なんだか疑問符を浮かべると、真ん中に立っているリーダー的な女子がもどかしそうに眉を寄せた。

「どうなの!?」
「別に何も…ってか何の話?」
「ほんとに!?ほんとに何も聞いてない?」
「だから聞いてねぇって」

名前すら話題に出てない。面倒臭くなって投げやりに答えると、三人は目配せするように顔を見合わせた。

「…じゃあ玉城は?」
「は?」
「倉持、玉城とたまに話してるじゃん。何か言ってた?」
「…だから、何の話だよ?意味わかんねぇ。何が知りたいわけ?」
「いいから教えてよ!」
「何も聞いてねェって!何なんだよ。」

チッ、と真ん中の女子が小さく舌打ちした。舌打ちしたいのはこっちだっつの。

「もういいわ。何も聞いてないなら。」
「…はあぁ!?結局なんなんだよ!」
「あたしらに聞かれたこと御幸君に言うなよ!」

捨て台詞を吐いて三人はバタバタと階段を上がっていく。全く意味が解らん。腹立つ。
でも…なんで御幸と玉城さん?何かあったのか?
これだけ人を混乱させておいて御幸には言うなとか…自分勝手にもほどがある。

イライラしながら教室に戻ると、いつの間にか御幸が席に戻っていた。

「おっ。」

御幸は俺に気が付くと呑気な顔で声を上げる。

「倉持、さっき中田がこれ持って来たぞ。借りてたゲームだってさ」
「あ?あぁ…」
「何イライラしてんの?」
「別に。」

…とにかく、御幸と玉城さん、そしてあの女子3人組の間で何かがあったことは間違いないんだろうな。御幸は特に変わったところはないけど…。
御幸には言うなって言われたし、まぁそれを守ってやるつもりじゃないけど…玉城さんに…聞いてみるかな…。



***



「こんにちは…。」

教室から出てきた玉城さんは不思議そうに俺を見上げた。そりゃそうだよな…特に接点のない男の先輩から呼び出しなんて、下心以外に理由が思いつかない。

「悪いな、ちょっと、聞きたいことがあってよ…。」
「聞きたいこと?」

玉城さんは目を瞬いて、人差し指で自分の顔を指した。

「私にですか…?」

息をのんで、うん、と頷く。…可愛すぎる…!!

「ちょっと来てもらえる?」
「はい…」

不思議そうにしながらも俺の後を着いてくる玉城さん。よかった…と安堵すると同時に、御幸に呼び止められたときはあっさり断ってたなと思いだし、にわかに優越感で胸が膨らんだ。俺、もしかして結構好感度高い?なんて思っちゃったり…。…いや、浮かれるな俺。
中庭に出て人のいないベンチに、座れよ、と勧めて、俺も隣に座った。…隣からすげーいいにおいする…。なんか、甘い柑橘系の爽やかな…。

「…それで聞きたいことって?」

玉城さんの声で我に返った。そうだった。うっかり有頂天になってしまっていた。

「あのさ…。」

俺はあの女子たちの敵意を含んだ態度を思い出した。

「…最近、何か…困ったこととかなかったか?」
「え…?」

きょとん、と目を瞬く玉城さんを見て、ぼっと顔が熱くなった。…これじゃ完全にあわよくば仲良くなりたい男のセリフじゃねーか!特別仲が良いわけでもないのに何で突然悩みなんて聞いてんだよ…不自然すぎる。

「あ、いや、ごめん、聞き方が悪かった…」
「……。」
「2年の女子とさ、なんかあった?」

不思議そうに俺を見ていた玉城さんの顔が、一瞬緊張したように強張った…気がした。

「…なんでですか?」
「や…なんかあったのかなーって…」
「……。」

…ってこれじゃ答えになってねー…。

「…女子に聞かれたんだよ。玉城さんから何か言われてねーかって」
「……。」
「で…俺は何も心当たりねーから…」
「……。」
「何か困ってるなら…俺でよかったら相談に乗るけど」

よし…自然…だよな?内心ドキドキしながらちらりと玉城さんの表情を窺うと、玉城さんは表情さえも静かに沈黙していた。…よ、読めねぇ…。

「特に…何もないと思いますけど」

淡々とした声で玉城さんが呟いた。

「え…でもよ…」
「……。」
「…あ、誰にも言わないぜ?もちろん」
「…でも、本当に…何もないので」

そう断言して、玉城さんは口を噤んだ。
…たぶん嘘だな。俺はこっそりそう思いながら、そっか、と呟いた。

「すみません、次、体育なので…」
「え、まじか。ごめん」

立ち上がってそう言う玉城さんに、俺はちょっと慌てる。玉城さんは微笑を浮かべて首をちょっと振って、失礼します、小さく会釈して去って行った。



***


「おっ!玉城ちゃん」

体育終わりの玉城さんと遭遇して上機嫌な御幸。玉城さんは友達とお喋りをしながら、にこにこ頷いて一緒に歩いてくる。

「え〜じゃあ今日皆でカラオケ行こうよ!」
「さんせーい!!」
「光も来るよね!?」

「…ごめん、バイトで」

申し訳なさそうに苦笑して玉城さんが断ると、友達は皆残念そうに眉を下げた。

「え〜、光の歌聞きたかったな〜」
「普段カラオケで何歌うの?」
「好きなアーティストは?」

「……。」

玉城さんは口元に笑みを浮かべたまま一瞬固まって、言葉に詰まった。

「たっましっろちゃん♪」

突然御幸が飛び出して行って、俺はぎょっとした。玉城さんたちも驚いて顔を上げた時、御幸は玉城さんの背後に回ってぴらりとポニーテールを捲った。

「今日ポニテ?」
「…体育だったからです」

玉城さんはポニーテールを抑えて御幸を振り返って見上げ、ちょっと睨んだ。友達はぽかんとして成り行きを見守っている。

「いつも縛ればいいのに。」
「なんでですか。」
「似合うから♪」
「ほっといてください。」
「俺そういう髪型好きだな〜!」
「先輩の好みとかどうでもいいです。」
「はっはっはっは!かっわい〜」
「もーついてこないで!」

玉城さんが鬱陶しそうに御幸を手で払った時、クスクス、と小さな笑い声が聞こえた。

「御幸君、女の子の髪は触っちゃだめよ。」

通りかかった貴子先輩が、つやつやの黒髪を靡かせて楽しそうに笑いながら言ったのだった。

「そーだそーだ!髪は女の命なんだからな!」
「そーだそーだ〜」

一緒に居た梅本と夏川も面白がるように便乗して御幸をからかった。

「はーい!貴子先輩!」
「コラ!なんで貴子先輩だけなんだよ!」

梅宮が突っ込み、御幸は悪びれずに笑う。
女子マネ3人はそんな御幸に呆れながら楽しそうに笑い合い、そのまま歩いて行った。

「どした?」

いつのまにか黙り込んでいた玉城さんに気づき声をかける御幸。

「…別に。」

御幸を鬱陶しそうに手で払って、玉城さんは駆け出して、俺のすぐ横をぱたぱたと駆け抜けていった。お、俺に気づきもしなかった…。
友達の女子生徒たちも、きゃっきゃと笑い声をあげ、玉城さんと御幸の関係を面白がるように囃し合いながら玉城さんのあとを追いかけていった。

「お前…女子の髪触るとかセクハラだぞ。」

面白くなくてそう毒づくと、御幸は悪びれもせずへらへらと笑った。

「え?セクハラ?倉持君のエッチ〜」
「テメェだよ!!そんなんだから嫌われんだよ。」
「玉城ちゃんを見るとつい。」

こいつ最悪だ…。
顔を引きつらせる俺を余所に、御幸は上機嫌で歩いて行った。

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