015

「玉城さぁ…」
「?」

ミスコンのあと約束通り玉城と文化祭を回って、人混みを避けて校舎裏の花壇に落ち着いて、買って来たホットドッグを食べながら切り出した。

「あのあと…成宮とメールしたの?」

思い切って訊ねてみると、玉城は口の中の物を飲みこんでから言った。

「してないですよ。」
「え?そうなの?」

なんて、喜んだのもつかの間。

「電話が来ました。」
「……。」

あいつ…結構女に積極的なタイプかよ。厄介な…。

「…なんて?」
「何でそんなこと言わなきゃならないんですか。」
「いいじゃん教えてよ。」
「言いたくない。」

つんとそっぽを向いてホットドッグを頬張りはじめる玉城。くそ、失敗した。
玉城はホットドッグを食べ終えるとゴミをゴミ箱に放り入れ、それが成功するとにまにま笑顔で俺を振り向いた。

「何そのドヤ顔。」
「別に。」

うーん…うまいこと誘えたと思っていたけど、なかなか思うような雰囲気にならない。というか、素っ気なさすぎる。玉城が。

「玉城光いねーじゃん。」
「もう帰る?」

ぎくり。ぞろぞろと歩いてきた他校の生徒たちに気づいて、俺は咄嗟に立ち上がって、玉城を隠すように立った。

「昨日来たムラ達は見たって言ってたけどな」
「昨日だいぶ騒ぎになったみたいだし今日は休んだんじゃねーの?」
「あーあ生の玉城光見れると思ったのに」

昨日で青道に玉城光がいるということがかなりの噂になってしまったらしく、今日は都内の様々な制服の高校生たちが文化祭に詰めかけていて、混雑の注意を促す放送が午前中だけで3回も流れた。

「行くか?」
「……。」
「…行こう」

小声で玉城に声をかけ、顔を隠して俯いている玉城の腕を掴んだ。

「ちょ、ちょっと待って…」

腕を引くと、立ち上がった玉城がふらついて、俺の肩に掴まった。急に密着する体温、ふわりと香る甘く爽やかな香り、肩口にかかるサラサラの髪…動揺しつつも具合が悪そうな玉城の様子に気づいて、俺は平常心を取り留めた。

「ど、どうした?大丈夫か?」
「ん…」

こくん、と小さく肩口で頷く小さな頭。

「あっ…!」
「やべ、カップルいる、カップル」

薄ら笑いをしながら引き返して行く奴らに羞恥心を煽られつつ、ひとまず玉城をもう一度座らせた。よく見ると少し顔色が悪い。もともと色白で、わかりづらいけど…

「保健室行く?」
「大丈夫…」
「でも、顔色悪いぞ」
「…ただの貧血…だから、座ってれば大丈夫」
「貧血?」
「……。」

口を噤んだ玉城が、言いたくなさそうに目を逸らした。
あ…。そういうこと?

「貧血…なら、何か食べる?」
「…いい」
「じゃあ、ジュースとか」
「いいってば。」
「でも血糖値上げないと。何か買ってくる…」
「やだ。一人でいたくない」

俺の袖を掴んでそう言って、急に恥ずかしそうに手を離す玉城。

「何…カワイーこと言っちゃって」
「うるさいなぁ…」
「俺に傍にいてほしいって?」
「そこまで言ってないし」

やばい、にやける。
って、にやけてる場合じゃない。玉城はこう言ってるけど、何とかしないと。でも校内に玉城を探し回ってる輩もいるのに、確かに一人置いていくのは不安が…。

「…もう大丈夫」

玉城はそう言って立ち上がった。

「本当に?無理するなよ。」
「大丈夫、ちょっと眩暈がしただけ」
「まだ顔色悪いぞ」
「平気。チュロス食べたい。」
「……。」

そう言った玉城に少し拍子抜けして、苦笑が込み上げてきた。

「はいはいお嬢様…」
「なにそれ。」


***


屋台でチュロスを買って食べながら歩いていると、倉持に遭遇した。というか、2Bの前を通りかかったから当たり前なんだけど。

「よお御幸、楽しそうだなァ?」
「はっはっは、おかげさまで。」
「てめぇ…」

そこまで言って、倉持は俺の手元に注目した。

「浮かれてチュロスなんて食いやがって。甘いもん苦手なくせに」
「え?」

目を丸くしたのは玉城だ。

「先輩、甘いもの苦手なの?」
「まあ…ちょっと」
「昨日もクレープ食べてたのに?」
「それは…」

しらけると思って、少し無理をした…んだけど。倉持にはバレバレのようで、へぇ〜、と白々しい視線を向けられた。

「言ってくれれば…」
「いや、別に、普通に食えるし」
「無理して合わせてくれるより、言ってくれた方が良いんですけど」

玉城はそう言って、ちょっと拗ねたように呟いた。

「人には色々聞く癖に、自分の事はあんまり言ってくれないですよね…御幸先輩って」
「……。」

その可愛らしい態度に、俺も倉持も目を瞬いてしまった。

「…はっはっは…」
「何ですか、その笑い」
「いや〜…可愛いな〜玉城ちゃんは〜」
「またバカにしてるでしょ!真面目に言ってるのに!」
「はっはっはっは!してねーって。ごめんな〜そんなに俺のこと知りたかったのか〜」
「変な言い方しないでよ!」

「……。」

倉持が物言いたげなしらけた目で俺を睨んでいるが、正直却って面白い。

「倉持が人殺しそうな目してるから行こうぜ{emj_ip_0173}」
「はぁ!?テメッ…」
「あとヨロシク〜{emj_ip_0173}」
「ふざけんなちったぁ仕事しろ!!」

玉城の肩を押して促して、教室の前から退散した。今日帰ってからいろいろ言われそうだけどまあいいや。



***



「さっきの人怒ってましたよ。」

廊下を歩いていると玉城がチュロスを食べ終えてから言った。

「いーんだよ、倉持はいつもあんな感じだから」
「ふーん…」

勝手に倉持の株を下げつつ、文化祭のパンフレットを捲って、お、と呟く。

「第2体育館で巨大迷宮脱出ゲームってのやってるって。」
「巨大迷宮?」

あ、玉城の目が輝いてる。

「行きたい!」
「はっはっは。はいはい、行こうぜ」
「何で笑うの?」
「すげぇ目がキラキラしてるから(笑)」
「バカにしてるんだ。」
「だからしてねーって(笑)」

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