「御幸〜、お前さ…」
「ん?」
通りすがりの俺を呼び止めた麻生の手を倉持が止めた。
「あいつは聞くだけ無駄。根っからの巨乳派だから」
「何だ何だ…何の話だよ。」
苦笑いしながらその輪に入って行くと、倉持達の輪の中にはグラビア雑誌が拡げられていた。
「だから〜、巨乳でそこそこ可愛い子か、貧乳で超絶美人かって話。」
「何その究極の選択。」
「そこそこ可愛いなら巨乳でいいだろ。」
「何でそんな上から目線なんだよ。」
「ふーん…」
「御幸は巨乳派だろ?」
どーせ、とでもいいたそうに俺を見る倉持。
「いや…どっちでもいい」
「は?」
ぽつりとつぶやいた俺を、倉持だけでなく全員が訝しげに睨んだ。
「デカかろーが小さかろーが…好きな子のなら」
「……。」
全員引きつった顔で硬直した。俺はいまさらにわかに恥ずかしくなってきた。
「お前まさかそれ玉城さんのこと…!?」
「玉城さんのことだ!!」
「絶対そうだ!!こいつ玉城さんのことやらしー目で見てやがる!!」
「だ〜〜〜もう!やめろ!!」
だってしょうがねーじゃん触っちゃったんだから…!!
「確かに玉城さんはな〜、あんまデカくはないよな〜」
「小さくもないよな?」
「まぁ貧乳ではない。」
「細いからなぁ。」
「でも顔とスタイル込みで考えてみろよ。胸のデカさなんてどうでもいいくらいカワイイじゃん」
「まぁ確かに…」
「…おいやめろよ。」
「え?」
「だから…玉城でそういう話すんの、やめろって」
にわかに苛立ってそう口を挟むと、倉持達はひょいと顔を見合わせる。
「…こいつガチでホレてるぞ!」
「あの御幸が!!」
「俺の玉城ちゃんを汚すなってか〜!?」
「マガジンのグラビアも嫌がってたよなw」
「あ〜〜〜もう!俺行くから!」
「あっ逃げた!」
***
「み…御幸君!」
スコアブックを読みながら休み時間を平和に過ごしていた俺を、数人の女子が取り囲んだ。
「え…何?」
「あ…あの…」
「玉城さんと付き合ってるって…ほんとなの?」
またかよ。
じろり、と俺を睨む倉持に苦笑しつつ、首を振る。
「…付き合ってないけど」
「あ…!そ、そうなんだ!」
「わかった!ごめんね!」
それで満足したのか、女子たちははにかみあいながら教室を出て行った。
思わずため息を吐く俺の机を、倉持が軽く足で小突いた。
「本当はどうなんだよ。」
「え?だから本当に付き合ってないって…」
「でも文化祭一緒に回ったんだろ?後夜祭まで一緒に来てたじゃねーか」
「それはそうだけど…」
「もしかしてフラれたのか?」
「いや告ってないし」
「はぁ?」
信じられないものを見るように歪む倉持の顔。
「ふたりっきりで文化祭ずっと一緒に過ごした上に後夜祭まで出たのに告ってねーだと?信じられるか!んなもん!」
「ほんとだから」
「じゃあなんで一緒にいたんだよ。」
「なんとなく、流れで」
「流れで玉城光と文化祭回れるか!クソメガネ!」
「俺はできるんだよ。」
「このクソ…、…じゃあ両想い確定じゃねーか、何で告らねーんだよ。」
「別に…」
「今は彼女より野球とか言うんじゃねーだろうな。」
「そういうわけじゃないけど…まだ駄目なんだよ」
「何が?」
「とにかく、いま告っても駄目なんだって」
「何でだよ。」
「そういうもんなの。」
倉持は煮え切らない顔で俺を睨んだけど、そっぽを向いていたら舌打ちをして追求を諦めてくれた。
「み、御幸!」
するとクラスメイトの男子が慌てた様子で俺の元に駆け寄ってきた。
「何?」
「よ、よ、呼んでる」
「誰が?」
「た…玉城光…ちゃん」
「…え?」
クラスメイトが指す方を見ると、教室の入り口に、控えめに立っている玉城の姿が見えた。
思わず反射的に立ち上がって、ガタッ、と椅子が鳴った。
「た…玉城?どうした?」
すぐに駆けつけると、俺を見上げた玉城は居心地が悪そうに言った。
「…あの…ちょっと、そっち…で」
…確かにここじゃ注目を浴びすぎる。わかった、と頷いて、俺たちは視線から逃げるように廊下を曲がった。
「で…どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあって…」
聞きたいこと?目を瞬く俺を玉城は見上げた。
「試合…って、いつなんですか?」
「え?」
「…見に行こうかなって…と、友達と」
……。
「マジ!?」
「!?」
思わず声を上げると、玉城はびっくりしたように目を見開いて肩を竦めた。
「あ、ごめん、つい…」
「……。」
「や〜…マジか…いや、嬉しい」
「……。」
ついつい頬が緩む俺を見上げて、ちょっと顔を赤くして背ける玉城。
「大げさじゃないですか?」
「いや嬉しいってマジで!そーか〜玉城ちゃんが来てくれるならなおさら勝たないとな〜」
「……。」
「何か言ってくれよ(笑)」
「…それで、場所とか…時間とか、知りたいんですけど」
「流すなよ(笑)あーでも、そうだな…じゃあ…」
俺はポケットの中に手を突っ込んで、思い切って切り出した。
「連絡先、教えてくれれば…わかったら知らせる」
「……。」
ちゃっかり連絡先交換を切り出すと、玉城はスカートのポケットを探った。
「あ…、はい。」
「……。」
よっ…しゃ…!!玉城の連絡先ゲット…!しかもこんな自然な形で!
番号とアドレスを打ち込んで、胸にじわりと熱いものが込み上げる。玉城の連絡先…。あ〜、嬉しい。まさかこんなラッキーが起こるとは。成宮に先を越されて、さてどうやって聞き出そうかと思いあぐねていたのに…。
「じゃあ、連絡待ってるので」
「あ、おう…」
ぺこ、と小さくお辞儀をして、玉城は1年の校舎に戻って行った。
「…あ!御幸!!」
「……。」
教室に戻った俺を取り囲んだのは、倉持を筆頭とするクラスメイトの男共。女子生徒たちも興味津々にこちらの様子を窺っている。
「玉城さん、何の用だったんだよ!」
「まさか告白!?」
「ちげぇよ!いいじゃん何だって」
「いいわけねーだろ!!」
席に着く俺をぞろぞろと追いかけてなおも取り囲む男共。
「おい!正直に吐け!!」
「玉城さんと付き合ってんのか!?」
「告られたのか!?」
「何話してたんだよ!!」
「あ〜〜も〜〜〜うるさい」