020

で…優勝したという事は、玉城に言うことがあるわけで…。
昨日メールで呼び出した校舎裏で待っていると、ほどなくして足音が近づいてきた。

「……。」
「…よお。」

花壇の縁に座っている俺を不思議そうに見つめる玉城。

「…こんにちは」
「うん」
「……。」

玉城はなんだか恐る恐るやってきて、俺から少し離れた場所で立ち止まった。

「……。」
「…いやもっとこっち来いよ。」
「え…、はい…」

…なんか嫌そうなんだけど…告っても大丈夫なのか?これ…
よっこらしょ、と立ち上がると、玉城はちょっと息をのんだ。

「大丈夫なんですか?怪我…。」
「ん?あぁ…ただの肉離れ。10日もあれば治るよ」
「…そうですか」
「……。」
「……。」
「えーと…」
「……。」
「で…話なんだけど」
「はい」

なんかダメそう…。決勝のあとの雰囲気は、ちょっと期待できる感じだったのになー…気のせいだったのか?

「…好きな子いるって言ったじゃん、俺」
「はい」
「それさぁ…」
「……。」
「…お前…なんだけど…」
「え?」

玉城は目を瞬いて、ちょっと考えるように目を逸らして、また俺を見た。

「…え?」
「いやそんな驚く?」
「え?だって…本当?ですか…?」
「こんな嘘吐くかよ。」
「……。」

玉城の顔が赤くなった。やっと意識してくれたか…

「…で、話ってのは」
「……。」
「俺と付き合ってほしい…んだけど」
「……。」
「……。」

だめだ、こんなぐだぐだじゃ。もっとびしっと言わねーと…

「…好きです!つきあって下さい!」
「……。」

玉城は息をのんで目を泳がせた。だ…ダメか?

「…で、返事は…」
「あ…。…えっ…と…」
「……。」
「……。」

…ダメか…ダメっぽいな、この間は…。

「……。」

玉城は目を伏せたまま口元に手を当て、なんだかだんだん、表情をこわばらせた。
俺はもうフラれることが現実味を帯びてきて、気が気ではなかったのだけど、その玉城の目が急に泣き出しそうに見えて、息をする事も忘れて見入った。するとその想像のとおり、玉城の目が突然うるんで、それに気づいた時にはもう、頬にポロッと涙が一粒こぼれていた。

「…え!?な、何…どした!?」
「…いや…あの…」

玉城はぽろぽろこぼれる涙を誤魔化すように拭いながら俯いて、俺から顔を背ける。
そんなに嫌だったのか?それとも…感極まって?もうわからない。

「……私…」
「…ん?」
「…私も…好き…」
「……。」

へ…

「ほ…ほんとに?」

こくこく、小さく頷く玉城。本当にこれ、現実?嬉しい…すげー嬉しい。

「…じゃあ…」
「……。」
「…付き合ってくれる、ってこと?」
「……。」

玉城はしばらくの間のあと、決意したように、こくり、と頷いた。
うわ、どうしよう…足元がふわふわする。

「…じゃあ、これから、えっと…よ、よろしく…?」
「…よろしくお願いします。」

頷いた玉城が、俺をまっすぐに見上げて、その綺麗な青い瞳には俺が映っていて。
俺は天にも昇る気持ちで頬を緩めた。



***



やばい。油断してると顔がにやける。

「…御幸」

倉持がやってきて、俺はギクリとして顔を引き締めた。何食わぬ風を装ってスコアブックを捲りながら、興味もなさそうに返事をする。

「何?」
「ナベが昨日のことで話があるから、夕食後残ってほしいんだとよ。」
「あぁ…そう。わかった」

ほっ。胸をなでおろし、俺はスコアブックを閉じた。

「で、最近玉城さんとどうなんだよ?」
「……。」

…油断するには早かった。

「別に…何もねーけど」
「うそつけ!!お前狙ってるって言ってたじゃねーか」

玉城と付き合う事にはなったけど、あっちは有名人だから、付き合う事は秘密にすることになっている。もうすぐ映画も公開されるし、事務所にも念を押されているんだそうだ。彼氏とか作ってもいいけど、絶対に周りにばれないようにやってくれ…と。

「言ったけどさぁ…特に何かしてるわけじゃないし」
「決勝見に来てたじゃん」
「だから?」
「ほんとはもう付き合ってんだろ?」
「はっはっは。そうならいいな〜。じゃあそういうことにしといて。」
「テメェ…」

倉持は苛立ちながら俺の向かい側に座った。

「え〜そこ座るの?」
「テメェが正直に吐くまでどかねぇぞ!!玉城さんとはどうなってんだよ!」
「だーかーらー何もないって。」
「それにしちゃ最近お前浮かれてんだよ!緩みきった顔しやがって!!前ほど玉城ちゃん玉城ちゃん言わなくなったし」

ギクッ…。こいつほんと良く見てんな人のこと…。

「気にしすぎ。マジで別になんもないし」
「あっ!おいどこ行くんだよ!」

立ち上がった俺を追いかけて倉持も立ち上がる。なんでこんなしつこいのこいつ?

「そろそろクリス先輩のとこ行くから。」
「…あっ!お前それ!」
「え?」

急に声を上げた倉持に釣られて振り返ると、倉持は俺の足元を指さしていた。

「そのミサンガ玉城さんもしてたやつだろ!」
「はぁ…?」

倉持が指していたのは俺の右足首に巻かれた青いミサンガ。文化祭でもらったものだ。こいつマジ…鋭すぎて怖い。

「絶対そうだ!お揃いかよ!やっぱ付き合ってんだろテメェ!」
「ちがうし知らないし。」
「嘘吐けテメーミサンガなんてこの間までつけてなかったじゃねーか!!」
「俺に詳しすぎ〜倉持クンこわーいストーカー?」
「ぶっ殺すぞコラ吐けクソメガネ!!」



***



…だけど付き合うって具体的に何すんの?
…というのが正直なところで…。

「…先輩?」

昼休みにひょっこり校舎裏に来た玉城が、俺に笑顔で駆け寄ってくれるのは嬉しいけど。
玉城と両想い。玉城は俺が好き。そのことを確かめられただけでも、告白した意味は十分にあった。

「昼飯食った?」
「うん。」

ちょこんと隣にやって来て座る玉城が愛おしい。なんたって俺らは恋人同士…。好き合っているんだから。

「怪我大丈夫?」
「もうほとんど痛くない。」
「ほんと?」
「あぁ。そろそろ練習にも合流するし」
「そうなんだ。」

玉城が安堵したように微笑んでむず痒さが胸の奥に燻る。好きな子に心配されるってこんなに嬉しいことなんだ。

「映画、明日からだっけ?」
「あ、うん。」

明日から玉城が主演を務める映画が公開される。テレビでも時々CMが流れている。女優経験のない玉城が主演を務めるには、なんだか暗くシリアスなイメージの映画だったけど…。

「じゃ、日曜日にでも見に行くかな。」
「え…見るの?」
「そりゃ気になるし。」
「……。」
「なんで嫌そうなんだよ(笑)」
「…恥ずかしいんだもん」

そう言ってむくれる赤い頬を見るとついからかいたくなる。
俺は隣に置かれた玉城の無防備な手を掬い取り、指を絡めた。

「……。」

途端に顔を赤くして口を噤む玉城。俺のせいでドキドキしているのかと思うと、もう、堪らなくなる。
柔らかくて細い指の感触も、そっと遠慮がちに握り返してくる弱い力も、密着する腕から伝わる淡い体温も。なにもかもが胸を締め付けて、甘い息苦しさに酔いそうになる。

…手は繋げる。文化祭の時も繋いだし…。けど、これより先をどうしたらいいのかわからない。キスとか…。その先、とか。焦る必要はないだろうけど…俺も男だから、正直、興味があるわけで…。
玉城はそういうの、どう思ってんのかな…?

「…先輩。」
「え?」
「予鈴…鳴ってますけど…」
「え!?あ、やべっ」

気付けば鐘が鳴り響き、俺たちは慌てて手を離して立ちあがった。

「じゃあまた…」
「…はい。」

なんだかぎこちない空気のまま別れる。恋人同士になったことで、嬉しさとは別に、どうしたらいいのかわからない戸惑いも確かにあった。俺の方が年上だし、男だし、何より告ったのは俺からだし…俺がリードしなきゃいけないんだろうけど…。
…彼女なんてできたの初めてだし、どうしたらいいかわからない。

玉城と付き合ってるなんて倉持達が知ったら、嫉妬やら何やらでめちゃくちゃキレそうだけど、俺には俺の苦労があるんだぞ…、とこっそり考えて、それこそ倉持達の反感を買いそうだな、と苦笑いした。

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