で…優勝したという事は、玉城に言うことがあるわけで…。
昨日メールで呼び出した校舎裏で待っていると、ほどなくして足音が近づいてきた。
「……。」
「…よお。」
花壇の縁に座っている俺を不思議そうに見つめる玉城。
「…こんにちは」
「うん」
「……。」
玉城はなんだか恐る恐るやってきて、俺から少し離れた場所で立ち止まった。
「……。」
「…いやもっとこっち来いよ。」
「え…、はい…」
…なんか嫌そうなんだけど…告っても大丈夫なのか?これ…
よっこらしょ、と立ち上がると、玉城はちょっと息をのんだ。
「大丈夫なんですか?怪我…。」
「ん?あぁ…ただの肉離れ。10日もあれば治るよ」
「…そうですか」
「……。」
「……。」
「えーと…」
「……。」
「で…話なんだけど」
「はい」
なんかダメそう…。決勝のあとの雰囲気は、ちょっと期待できる感じだったのになー…気のせいだったのか?
「…好きな子いるって言ったじゃん、俺」
「はい」
「それさぁ…」
「……。」
「…お前…なんだけど…」
「え?」
玉城は目を瞬いて、ちょっと考えるように目を逸らして、また俺を見た。
「…え?」
「いやそんな驚く?」
「え?だって…本当?ですか…?」
「こんな嘘吐くかよ。」
「……。」
玉城の顔が赤くなった。やっと意識してくれたか…
「…で、話ってのは」
「……。」
「俺と付き合ってほしい…んだけど」
「……。」
「……。」
だめだ、こんなぐだぐだじゃ。もっとびしっと言わねーと…
「…好きです!つきあって下さい!」
「……。」
玉城は息をのんで目を泳がせた。だ…ダメか?
「…で、返事は…」
「あ…。…えっ…と…」
「……。」
「……。」
…ダメか…ダメっぽいな、この間は…。
「……。」
玉城は目を伏せたまま口元に手を当て、なんだかだんだん、表情をこわばらせた。
俺はもうフラれることが現実味を帯びてきて、気が気ではなかったのだけど、その玉城の目が急に泣き出しそうに見えて、息をする事も忘れて見入った。するとその想像のとおり、玉城の目が突然うるんで、それに気づいた時にはもう、頬にポロッと涙が一粒こぼれていた。
「…え!?な、何…どした!?」
「…いや…あの…」
玉城はぽろぽろこぼれる涙を誤魔化すように拭いながら俯いて、俺から顔を背ける。
そんなに嫌だったのか?それとも…感極まって?もうわからない。
「……私…」
「…ん?」
「…私も…好き…」
「……。」
へ…
「ほ…ほんとに?」
こくこく、小さく頷く玉城。本当にこれ、現実?嬉しい…すげー嬉しい。
「…じゃあ…」
「……。」
「…付き合ってくれる、ってこと?」
「……。」
玉城はしばらくの間のあと、決意したように、こくり、と頷いた。
うわ、どうしよう…足元がふわふわする。
「…じゃあ、これから、えっと…よ、よろしく…?」
「…よろしくお願いします。」
頷いた玉城が、俺をまっすぐに見上げて、その綺麗な青い瞳には俺が映っていて。
俺は天にも昇る気持ちで頬を緩めた。
***
やばい。油断してると顔がにやける。
「…御幸」
倉持がやってきて、俺はギクリとして顔を引き締めた。何食わぬ風を装ってスコアブックを捲りながら、興味もなさそうに返事をする。
「何?」
「ナベが昨日のことで話があるから、夕食後残ってほしいんだとよ。」
「あぁ…そう。わかった」
ほっ。胸をなでおろし、俺はスコアブックを閉じた。
「で、最近玉城さんとどうなんだよ?」
「……。」
…油断するには早かった。
「別に…何もねーけど」
「うそつけ!!お前狙ってるって言ってたじゃねーか」
玉城と付き合う事にはなったけど、あっちは有名人だから、付き合う事は秘密にすることになっている。もうすぐ映画も公開されるし、事務所にも念を押されているんだそうだ。彼氏とか作ってもいいけど、絶対に周りにばれないようにやってくれ…と。
「言ったけどさぁ…特に何かしてるわけじゃないし」
「決勝見に来てたじゃん」
「だから?」
「ほんとはもう付き合ってんだろ?」
「はっはっは。そうならいいな〜。じゃあそういうことにしといて。」
「テメェ…」
倉持は苛立ちながら俺の向かい側に座った。
「え〜そこ座るの?」
「テメェが正直に吐くまでどかねぇぞ!!玉城さんとはどうなってんだよ!」
「だーかーらー何もないって。」
「それにしちゃ最近お前浮かれてんだよ!緩みきった顔しやがって!!前ほど玉城ちゃん玉城ちゃん言わなくなったし」
ギクッ…。こいつほんと良く見てんな人のこと…。
「気にしすぎ。マジで別になんもないし」
「あっ!おいどこ行くんだよ!」
立ち上がった俺を追いかけて倉持も立ち上がる。なんでこんなしつこいのこいつ?
「そろそろクリス先輩のとこ行くから。」
「…あっ!お前それ!」
「え?」
急に声を上げた倉持に釣られて振り返ると、倉持は俺の足元を指さしていた。
「そのミサンガ玉城さんもしてたやつだろ!」
「はぁ…?」
倉持が指していたのは俺の右足首に巻かれた青いミサンガ。文化祭でもらったものだ。こいつマジ…鋭すぎて怖い。
「絶対そうだ!お揃いかよ!やっぱ付き合ってんだろテメェ!」
「ちがうし知らないし。」
「嘘吐けテメーミサンガなんてこの間までつけてなかったじゃねーか!!」
「俺に詳しすぎ〜倉持クンこわーいストーカー?」
「ぶっ殺すぞコラ吐けクソメガネ!!」
***
…だけど付き合うって具体的に何すんの?
…というのが正直なところで…。
「…先輩?」
昼休みにひょっこり校舎裏に来た玉城が、俺に笑顔で駆け寄ってくれるのは嬉しいけど。
玉城と両想い。玉城は俺が好き。そのことを確かめられただけでも、告白した意味は十分にあった。
「昼飯食った?」
「うん。」
ちょこんと隣にやって来て座る玉城が愛おしい。なんたって俺らは恋人同士…。好き合っているんだから。
「怪我大丈夫?」
「もうほとんど痛くない。」
「ほんと?」
「あぁ。そろそろ練習にも合流するし」
「そうなんだ。」
玉城が安堵したように微笑んでむず痒さが胸の奥に燻る。好きな子に心配されるってこんなに嬉しいことなんだ。
「映画、明日からだっけ?」
「あ、うん。」
明日から玉城が主演を務める映画が公開される。テレビでも時々CMが流れている。女優経験のない玉城が主演を務めるには、なんだか暗くシリアスなイメージの映画だったけど…。
「じゃ、日曜日にでも見に行くかな。」
「え…見るの?」
「そりゃ気になるし。」
「……。」
「なんで嫌そうなんだよ(笑)」
「…恥ずかしいんだもん」
そう言ってむくれる赤い頬を見るとついからかいたくなる。
俺は隣に置かれた玉城の無防備な手を掬い取り、指を絡めた。
「……。」
途端に顔を赤くして口を噤む玉城。俺のせいでドキドキしているのかと思うと、もう、堪らなくなる。
柔らかくて細い指の感触も、そっと遠慮がちに握り返してくる弱い力も、密着する腕から伝わる淡い体温も。なにもかもが胸を締め付けて、甘い息苦しさに酔いそうになる。
…手は繋げる。文化祭の時も繋いだし…。けど、これより先をどうしたらいいのかわからない。キスとか…。その先、とか。焦る必要はないだろうけど…俺も男だから、正直、興味があるわけで…。
玉城はそういうの、どう思ってんのかな…?
「…先輩。」
「え?」
「予鈴…鳴ってますけど…」
「え!?あ、やべっ」
気付けば鐘が鳴り響き、俺たちは慌てて手を離して立ちあがった。
「じゃあまた…」
「…はい。」
なんだかぎこちない空気のまま別れる。恋人同士になったことで、嬉しさとは別に、どうしたらいいのかわからない戸惑いも確かにあった。俺の方が年上だし、男だし、何より告ったのは俺からだし…俺がリードしなきゃいけないんだろうけど…。
…彼女なんてできたの初めてだし、どうしたらいいかわからない。
玉城と付き合ってるなんて倉持達が知ったら、嫉妬やら何やらでめちゃくちゃキレそうだけど、俺には俺の苦労があるんだぞ…、とこっそり考えて、それこそ倉持達の反感を買いそうだな、と苦笑いした。