022

最近御幸が怪しい。

もともと高島先生のことを気安く礼ちゃんだとか呼んだりするような軽いところはあったが、それは冗談だからスルーされていたのであって、玉城さんのような同年代の女子にしつこく絡んでいくような奴ではなかった。
あの無駄にいい顔のせいで女子からモテるから、特定の女子と話したりして噂になるようなことはそれとなく避けている様子だったし…。それなのにあの日、玉城さんに声をかけた瞬間から、何かのスイッチが入ったように玉城さんを追っかけるようになった。

文化祭も、一緒に過ごしたようだし…。あのミサンガだって、どういう経緯なのか知らないけど、多分玉城さんとお揃いだ…。秋大の応援にも玉城さんが来ていたし…やっぱもう付き合ってんじゃねーの!?
玉城さんが芸能人だから隠してる、とか…?あり得るな。

「や〜玉城ちゃんカワイイな〜」
「……。」

洗濯室に入ると、ベンチに座って雑誌を広げている御幸がいた。

「…何見てんのお前?」
「これ?映画のパンフレット。」

御幸は『籠の鳥』と書かれた、セーラー服姿の玉城さんが映っているパンフレットの表紙を見せてくる。

「お前映画見たの?」
「見てない。時間ねーもん」
「じゃあなんでパンフレット…」
「木村達が見てきたんだって。借りた。」

…1年からカツアゲしたわけか。

「まあ今度見に行くけどな。」
「え…行くの?」

俺は洗濯機に洗濯物を放り込みながら御幸を振り返った。最近あまり玉城ちゃん玉城ちゃんと騒がなくなったこいつが…どういう風の吹き回しだ?

「当たり前じゃーん。玉城ちゃん主演だぜ?」
「……。」
「何その顔?」

別に、と呟いて、洗剤を入れ、洗濯機のスイッチを入れた。

「お前ってさぁ…マジなの?」
「何が?」
「マジで玉城さんのこと好きなの?」

きょとん、と御幸が目を瞬いた。

「そう言ってんじゃん。」

そ…、そんな恥ずかしげもなく…。

「…で、どこまでいってんだ?」
「え〜?聞いちゃう?それ。」
「ニヤニヤすんな。」
「はっはっはっは。そうだな〜、まあ時々メールしたり…」
「メール!?どんな?」
「どんなって別に普通に…色々。」
「見せろよ。」
「なんで。やだよ。」
「じゃあ玉城さんのアドレス俺にも教えろ!」
「だからなんでだよw最初からそっち目当てだろお前」

「うわー、キャプテンと副キャプテンが揃って恋バナかよ。」

「え…、」
「……。」

御幸と口を噤んで振り返ると、そこにはいつの間にかしてやったり顔の亮さんと、一緒に洗濯に来たのであろう苦笑顔の弟の春市がいて、俺たちは顔を赤くしてひきつらせた。


***



「いや〜結構怖かったわ」
「一応サスペンスなんだよなコレ。亮さん好きそう」

日曜日、なぜか俺は御幸と一緒に玉城さんの映画を見に行った。評判通りなかなか怖くて、けど面白い映画だった。玉城さん、演技上手いし…役にハマッている。ストーカー男にのめりこんでいくシーンなんて、特に…ぞっとするほど綺麗で、残酷で、狂気的だった。不安になるくらい。

「何度も見に行く奴がいるのもわかるわ」
「え?」

御幸がそんな風に言うなんて珍しい。

「玉城ちゃんが可愛すぎてセリフが入って来ねえ。ストーリーあんま覚えてねーや」
「……。」

こ…こいつ、マジでどうしたんだ!?こんなこと言う奴だったか?

「あ〜〜…最近玉城ちゃんに会ってねぇな〜」
「…けどメールしてるんだろ?」
「あんまり。」
「贅沢言うな。彼氏でもねーのに。たまにでもメールできるだけ有難く思え。」
「……。」
「なんだよ。」
「…ん〜…」
「だからなんだよ!」
「…はぁ…」
「シャキッとしろよデブ。」

デブじゃないし〜…、と覇気のない声でぼやく御幸を訝しみつつ寮に帰ってきた。夕食までまだ余裕があって、ちょっとストレッチと素振りでもするかなと思いながら部屋へ寄り、バットとタオルを持って土手へ行くと、また御幸に会った。
げ、と思いながらストレッチを始める。御幸は特に何も言わず、階段に座ってぼーっとしていた。

「あ、御幸、倉持。ちょうどよかった。」

そこへやってきたのはナベだった。

「この間のことでちょっと話があるんだ。ゾノには昼間、話したんだけど…」
「何?」

俺と御幸はナベの元へ行って話を聞く。ふんふんと真剣に話を聞き、意見を出し合って、そうだねわかった、とナベは頷いた。

「あとは沢村と降谷だな。最近はノリもよく気にかけてくれてるし…、」

御幸が真剣な顔でそう話していたと思ったら、突然ぽかんと口をあけて固まった。

「…?御幸?」

ナベが声をかけた、その時。

「…玉城ちゃん!」
「は?」
「玉城ちゃーん!えっなんでこんなとこにいんの!?」

御幸は駆け出して、俺とナベを余所に土手をのぼって行った。そこには通りかかったらしい制服姿の玉城さんがいて、おそらく変装の為にマスクと眼鏡をしていたが、御幸はすぐに気づいたらしかった。

「久しぶり〜玉城ちゃん!最近学校来ねーじゃん」
「忙しいんです」
「寂しいなぁ〜〜玉城ちゃんに会えなくて」
「そうですか…」
「なんでここにいんの?日曜なのに学校?」
「どうでもいいでしょ」
「いやいや気になるって〜」
「もー帰るんだからついてこないで」
「え〜そこまで行く{emj_ip_0173}」
「なんなの〜…もう…」

「…あのバカ」
「御幸って…玉城さんの前だと面白くなるよね。」

面白いっていうか…バカ丸出しっていうか…理性崩壊っていうか…。

「は〜〜〜…」

しばらくして、御幸は一人で土手の向こうから引き返してきた。

「戻ってきやがった、幸せそうな顔で」
「んふふふふ」
「ニヤニヤすんな!気持ちわりーな。」
「良かったね御幸…。」
「ほらみろナベちゃんも呆れてるぞ!」
「いや〜久々に玉城ちゃん充電できたわ」
「気持ちわりィ奴…」

あはは…、と乾いた笑いを零すナベちゃんの前でも、御幸は悪びれずニヤニヤニマニマ。マジでどうしちまったんだこいつ。確かに玉城さんは可愛いけど、あの御幸がここまで腑抜けになるとは…。

「…で 何の話だっけ?」
「……。」
「……。」

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