005

「玉城?」

朝玄関で玉城の姿を見つけて、下駄箱の前でじっと立ったままの彼女を不思議に思い、声をかけた。ぱっと振り向いた玉城はちょっと強張った顔で、咄嗟に作ったような苦笑いを浮かべた。

「あ…おはよ。」
「おはよう。どうしたの?」
「え?…なんでもないよ。」

玉城は靴を履きかえて下駄箱を閉じた。様子が変だとは思ったけど、しつこく聞くのも悪いと思い、そっか、と軽く相槌を打つ。

「そう言えばこの間のさ、玉城がテレビに出たじゃん。」
「あ…はは。やだなもう…忘れてよ。」
「あはは、なんでだよ。野球部でもすごいよ、噂。先輩たちに俺同じクラスだってバレてさ、番号教えてくれって頼みこまれて」
「やだぁ〜なにそれ…」
「ほんとほんと。普段威張ってる先輩もさ、ジュース奢ってくれるし。玉城のおかげ」
「あはは。なにしてんの、悪いな〜東条」
「で、奢ってもらってから俺も番号知りませんって言ったらおこられてさ」
「あははは。」

無邪気に笑い始めた玉城を見て嬉しくなる。さっきはなんだか元気が無いように見えたけど…気のせいならいいな。

玉城と話をしながら教室に着くと、どちらからともなく離れてそれぞれの席に着いた。おはようと言いながらやってくるクラスメートたちと、きょう提出の課題の心配をしながら、俺は玉城をちらりと見た。
ひとりで席についている彼女は少し寂しげな横顔のまま授業の用意をしていて、俺はもどかしい気持ちになる。

玉城は良い奴だ。ちょっとびっくりするくらい美人で、俺も初めは話しかけるのに勇気が必要だったけど、たまたま授業で話してみたら拍子抜けするほど普通に面白くて優しくて、良い奴だと思った。
だけどその容姿からか、どうしてもクラスではちょっと浮いていて、時々女子と話しているのは見るけど特定の仲が良い友達はまだいない様子だった。
もう5月も中旬で、クラス内では仲のいいグループができる頃。玉城自身内向的なのか、自分から話しかけることもあまりしないし、女子たちも玉城を遠巻きに見ている節があった。
嫌われているわけではない。嫌われるようなこともしていないし。ただ、やっぱりその一瞬で目を惹くほどの容姿が、可愛いと学校内でも噂になっているし…先輩や他のクラスの同級生たちが野次馬に来るほどだし…同じクラスの女子はどうも気さくに声をかけづらいらしい。

「玉城ー!」

思い切って声をかけると、玉城だけじゃなく、俺の傍にいた友達も驚いた顔をした。

「数学の宿題やって来た?」
「え…?うん…」
「じゃあ答え合わせしない?俺自信なくてさぁ」

お願い!と手を合わせると、玉城は戸惑いながらも、いいけど…、とノートを持ってやって来た。

「皆で答え合わせしようよ。多分今日全員当たるだろ?」

ぽかんと立ったままの友達に声をかけると、皆頷いて、そわそわしながら自分のノートを取りに行った。

「…ねぇ、私たちもいいー?」
「うん!やろうやろう」

ちょっと離れてみていた女子グループが言って、俺が頷くと、皆ノートを持って集合した。

「問1ってAだよな?」
「ここってこの公式で合ってる?」
「お前ここ違くね?」
「誰か問3の(2)わかるー?」

にわかに勉強会のようになった中で、俺は少し嬉しくなりながら、皆とノートを見せ合う玉城を見ていた。



***



夕暮れの中、俯く玉城の横顔。突然風が吹いて、亜麻色の髪をさらさらと撫でていく。ふわりと煽られた髪が大きく弧を描いて、さらさらと柔らかく光りながら舞い、さらり、と綺麗にまとまって肩に落ちて、玉城は振り向いた。
何も言わずに微笑んで、髪を耳に掛ける。

『光を味方に、天使の髪へ。B&F グレイス』

た…玉城がCMに出てる!?
今の玉城さんだよな、とにわかに大騒ぎになる食堂。特に先輩たちは大騒ぎだ。

その動揺もおさまらないうちに朝食を食べ終え、学校に行くと、下駄箱の所で玉城に会った。

「玉城!」

周りの生徒たちから注目されていた玉城は、俺を見て少し安堵したように微笑んだ。

「東条おはよ。」
「おはよう…ってそれよりさ!」
「え?」
「CM!今朝見たんだけど…あれ玉城だよね!?」

シャンプーのCM!と繰り返し聞くと、玉城はちょっと顔を赤くした。

「あ…。うん…」
「すごいびっくりしたよ!なんでCM出てるの?」
「あの…テレビに出た後で、スカウトされて…やってみようかなって」
「えぇ!?すごい!」

そんなことないよ、と恥ずかしそうにはにかむ玉城と教室に向かう。

「じゃあ玉城芸能人か〜。サインもらっとこうかな?」
「気が早いよ…」
「早くないよ!だって芸能人だろ?」
「私なんてまだ全然…」

こんなに美人なのに、なんで玉城ってこうも自信が無いんだろう。

「そんなことないって、もっと自信持てよ。すごいことじゃん!」
「そうかな…」
「そうだよ!だってスカウトだよ?CMだよ?十分すごいって!」
「……。」

玉城は困ったようにはにかんではぐらかした。

「控えめだな〜。俺が玉城だったらみんなに自慢するのに!」
「え〜なにそれ…。」
「玉城ももっと威張っていいんだよ?」
「あははは。また変な事言う。」
「本気なのに。」

「仲いいな〜お前ら」

背中から声がかかって、玉城と同時に振り向くと、階段を上がっていこうとする御幸先輩と倉持先輩がいた。

「あ、みゆきちゃんだ」

楽しそうに笑いながら玉城がそんな冗談を言って、俺は驚いた。普段の玉城は遠慮がちで、クラスメイトに話しかけられてもいつも控えめに静かににこにこしているだけで…。前も思ったけど、御幸先輩の前ではいつもと違う顔をする。たぶん、こっちが素なんだろうな…。
みゆきちゃん、と呼ばれた御幸先輩は苦笑しながらもちょっと嬉しそうだ。

「はっはっは。またね〜ひかりちゃん{emj_ip_0173}」
「やだ〜…やめてください。」
「そっちが先に呼んだくせに(笑)」

笑いながら階段を上がっていく御幸先輩に、べー、と赤い舌を出して背中を向ける玉城。な…仲良すぎ…。

「な…仲良いね、御幸先輩と…。」

思わずそう言うと、玉城は少しはにかみながら顔を顰めた。

「やだちがうよ、やめてよ」

手を振りながら、その頬は少し赤いような気がして。
俺はじわりと、胸の奥に焦燥感が滲むのを感じた。

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