学校は夏休みに入り、俺たちは選抜を勝ち進んでいた。
勝ちが進むにつれて試合の間隔も短くなり、なかなか身体が休まらない。沢村と降谷にはとくによく休むよう言い聞かせて、俺も今日は軽く流して早めにグラウンドに戻り、蛇口で顔を洗って熱を冷ました。
ざり、と足音がして、誰かが隣の蛇口に立ったのがわかった。水を止めて顔を上げ、肩にかけていたタオルで顔を拭いていると、とんとん、と肩がつつかれた。
「うん?…うわ!?」
無防備に振り返ったが最後。顔面に水しぶきが飛んできて、それは俺の顔とTシャツを少し濡らし、ケラケラ笑う聞き覚えのある声が響いた。
「…た 玉城?」
お腹を抱えて笑っていたのは玉城で、笑いを堪えながらも堪えきれない様子で一通り笑うと、水道の淵に手をついて息を整えた。笑いすぎ。
「え…何で学校にいんの?」
もうとっくに夏休みだ。玉城に会えなくてちょっと退屈だと思っていたところだったから、実は嬉しいサプライズだったけど、それは隠しておくことにした。
「仕事で休んでたぶんの課題を出しに来たんです。」
「へー…」
相槌を打ちながら、こっそりと悪戯心が沸き起こった。
「そりゃごくろー…さん!」
「きゃ!?」
蛇口をひねって指でおさえ、勢いよく水しぶきを玉城目掛けて放つと、玉城は咄嗟に逃げ出して水道から離れた。
「も〜…!ずぶぬれなんですけど…」
「あ…わりい、思ったより勢いが…」
「ばか!」
まぁ暑いしすぐ乾くかぁ…、と呟きながら、玉城はスカートの裾を手繰り寄せてしぼった。すらりとした、やわらかそうな真っ白の太腿が突然目の前に晒されて、俺は咄嗟に目を逸らした。
「り…寮にまだタオルあるから…持ってくる」
「え?いや大丈夫ですよ。濡れたのスカートだけだし絞れば…」
「いや、持ってくるよ。ちょっと待ってて」
「大丈夫ですって!…先輩!」
歩き出した俺の腕を玉城が掴んだ。
「先輩?」
だめだ…今振り向くと絶対…顔赤い…!あの太腿がどうしてもちらついて…
「…先輩」
俺の手を離し、前に回り込んできた玉城にぎょっとした、次の瞬間。なんだか玉城が、悪戯を思いついたようなキラキラした目で笑っていることに気付いた、その時だった。
「じゃん。」
「!!?」
ぴらり、と一瞬捲られたスカートと、ちらりと見えた白い…、白い…!
「ぷっ…あははは!顔真っ赤ですけど。」
「いや…、おま…、な 何してんの!?」
「あはは。これ水着だもん。」
…み、水着…!?い、いやでも、もうどっちでも同じだよ!!
「ばぁか。」
「…ばかはお前だ!男の前で何やってんだよ。」
「水着じゃん。」
「あのなぁ…あぁもー…!」
水着だろーがパンツだろーが…男は欲情すんだよ!!
「…他の奴の前でやるなよ!!絶対!」
「え?」
「え?じゃない!いいな絶対だぞ!」
両肩を掴まれて怒られて、ちょっと面食らったように目を丸くする玉城を見て、また顔が熱くなった。何必死になってんだ…俺。
「うるさいなー…」
玉城は俺の手を振り払い、踵を返して、最後にちょっと俺を振り返って、睨んだ。
「やるわけないじゃん。ばーか」
べ、と小さな赤い舌を出して、そのまま走って帰って行く玉城。最後までバカにしやがって…、と思ったところで、ふと考える。
…やるわけないじゃんって…逆に、俺だけは特別ってこと?…なんて、それは深読みしすぎ…だよな。うん…。
そこまで深い意味ねーだろ…。あ〜もう…他の男にアレやられたら…やだなー…。
ああでも…
…あーー!!さっきの光景が頭から離れねぇ…!!
玉城の奴、こっちがどんな気かも知らねーで…!!…いや、俺がどうとかより、やっぱり男の前であんな無防備なことするのかと思うと…!!
「…あ、御幸!」
寮の前に戻ってくると、そこで盛り上がっていた倉持達に手招きされた。
「何?」
まさか玉城と一緒に居るのを見られたとか…、と背中が冷える。
あの祭りの日の夜は、告げ口を受けた純さん達に散々弄られて酷い目に遭った。
「これ見ろよこれ!」
倉持が付きつけてきたのは誰かのマガジン。寮にはこれを毎週買ってる奴は何人もいるから珍しくもなんともない。だけど、その表紙を見て俺は息をのんだ。
『天使のほほえみ 玉城光 噂の美少女巻頭グラビア16P♪』
その文字に囲まれて、正面を向いて微笑む、文字通り天使のように清楚で綺麗な玉城の写真。
「…え!?」
倉持の手から雑誌を奪い取って、グラビアページを開くと…
白いワンピースやセーラー服、色っぽい黒いキャミソール姿の玉城が、田舎道で振り向いていたり、風に吹かれて髪を撫でていたり、薄暗い部屋で寝転んでいたり…とにかく無防備で、どこか色気のある、文句のつけようもない美しさと愛くるしさを前面に押し出して写っていた。
「すごくねぇ?今週のマガジンのグラビア、玉城さんだぜ」
「今麻生たちも買いに行ったんだよ」
「……。」
「…御幸?」
…可愛い。全部可愛い。可愛いけど…可愛いけど〜…
「…俺の玉城ちゃんが〜〜」
「うわっ何こいつ」
「誰がお前のだ!!」
「オラもう返せ!!」