009

終わってみればあっという間の夏休みだった。
まだやりきれない名残惜しさはふとしたときに胸の底に燻るものの、だからこそ次は、もっと…

「キャープテン。」
「……。」

階段の角に立っていた玉城が、にやにや悪戯な笑みを浮かべて声をかけてきた。今日からまた学校で玉城に会える。それをこっそり喜んでいるのだけど、玉城はどうなんだろうか。

「何で知ってんの?」
「東条に聞いた〜。」
「へ〜…」
「ねーキャプテン。暑い。」
「それはキャプテン関係ない。」

他愛もなくわざとどうでもいいことで絡んでくる玉城に、もしかして…、なんて期待してしまう。

「キャプテン花火見た?」
「キャプテンゆーな。見てない。」
「えーなんで?」
「野球部は忙し―の。」

どちらからともなく歩いて、喋りながらロビーの自販機にやって来た。てゆーか、やっぱり、ちょっと懐かれてる…?…とか言ったら当てつけに避けられそうだから黙っとこ。

「あっ…!ねぇ、御幸君だよ!あそこ!」

きゃっきゃとはしゃぐ女子たちの声が聞こえ、ぎくりとした。

「カッコイイ〜{emj_ip_0173}」
「試合の時もちょーカッコよかった〜!」
「1年生の降谷君も最近人気だけどさ、やっぱ御幸君だよね〜{emj_ip_0173}」

「…へぇ…御幸先輩ってモテるんだ」

ぼそり、と玉城が低い声で呟いて、おや?と思う。

「え〜何何、ヤキモチ?(笑)」
「ちがうから!調子に乗らないでください。」

ぷんとそっぽを向いて、玉城は自販機に駆け寄ってミネラルウォーターを買った。

「え…、ていうか、玉城さんと付き合ってるのかな〜…」
「たまに一緒に居るよね…」
「誰か聞いてきてよ〜」

「……。」
「……。」

まる聞こえの自分たちの噂話に、気まずい沈黙が流れ、ガコン、と俺が買った麦茶が落ちる音が虚しく響いた。

「…ちょー迷惑なんですけど…」
「そりゃすいませんね…」

むっつり不機嫌顔になった玉城に詫びて、でも最近は玉城の方が何かといたずらを仕掛けてくるくせに、とこっそり思う。…いたずらといえば、あのスカートめくりはビビった。

「…先輩、あの」
「ん?」

急に控えめな態度になって、どこかもじもじと切り出した玉城に目を瞬く。

「…今度の…」
「?」
「……。」

小さな声で言いかけて、迷ったように口を噤んで、じわりと顔が赤くなった。

「…やっぱりいい。じゃあね。」
「え!?おい、そりゃないだろ」

なんだか謎を残して、玉城は逃げるように走っていってしまった。なんだったんだ。
…今度の……。…なんだろ?



***



「御幸君お願い!!」
「……。」

目の前で両手を合わせて懇願するクラスメートの女子たちに困惑中…。他の男子たちは面白がるように成り行きを見守っていて、倉持だけは俺を睨んでいる。

「いや〜…俺そーゆーのはちょっと…」
「御幸君なら大丈夫だよ!!」
「優勝間違いないって!」
「ね、お願い!その代わりに準備とかは全部私たちがやるから!」

い…痛いところを…。
ようするに、文化祭でミスターコンに出れば、部活でなかなか準備に参加できなかったことをチャラにするというのだ。倉持はどーなるんだよ。

「マジでそういうのは…苦手で…」
「大丈夫御幸君イケメンだし!!」
「野球部で知名度あるし!!」
「衣装選びとかも手伝うよ!!」
「……。」

だ…だめだ〜〜…誰か助けて…

「やれよ御幸。部活で文化祭の準備何も手伝えてねーんだから。」
「…お前だってそーじゃん…」

しまいには倉持まで女子に加勢してきた。ここに俺の味方はいないらしい。

「ね〜お願い!クラスの宣伝にもなるしさ!」
「それに楽しいと思うよ!」
「思い出だよ思い出!」
「……。」

こりゃ断れねー…。

「…わかったよ…」

がくりと頷くと、女子たちはわっと盛りあがった。

「本当!?やったぁ!」
「ありがとう御幸君!!」
「絶対C組には負けたくないよね!」
「2年では確実にうちのクラスが一番でしょ!」
「1年で誰かカッコいい人いたっけ?」
「降谷君が出るとしたら要注意かも〜。ファン多いし」

…なんか騙された気分…。

「じゃあ早速いろいろ打ち合わせしよう!」
「えっ?」
「ちょっと一緒に被服室来て!採寸するから!」
「えっ」
「衣装は私たちが用意するから大丈夫!あと自己PRも考えないとね!」
「……。」
「髪型どうしよっか?あ、そうだ、御幸君眼鏡外せる?コンタクト持ってる?」
「……。」

と、とんでもないことになった…。
女子たちに取り囲まれて被服室に連行される道すがら、すでにげんなりとした気持ちで歩いていると、ふと廊下の向こうから歩いてくる女子生徒に目が留まった。玉城だ。

玉城も騒がしい女子の声に気付いて顔を上げ、俺を見つけてちょっと驚いた様子で目を大きくした。

「……。」

そしてそのまま、にこりともせずに素っ気なく目を逸らし、足早に通り過ぎて行ってしまう。
な…なんか…避けられた!?他の女子たちがこんだけいるからしょうがないかもしれないけど、あんなふうに目を逸らされるなんて。なんで…?…あ、まさかまたチャラいって誤解された!?待て玉城、違うんだ…!!

「御幸君どうしたの?」
「早く行くよー」

女子たちにぐいぐい押され、胸の奥のざわつきに泣きそうになりながら、俺はとぼとぼと歩いた。

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