012
「今頃光たちどうなってるかな〜。」
鷹野が楽しそうに言いながらお好み焼きを食べる。
東条と金丸は複雑そうな顔を見合わせた。
「鷹野的にはどーなの?あの二人。どっちが脈ありそう?」
金丸が野次馬心を抑えきれない様子で鷹野に聞くと、鷹野は真剣に考えこんだ。
「うーん…光って自分のことあんまり話さないからな〜。どっちかというと人の話聞いてることの方が多いんだよね。」
「鷹野が喋るからじゃね?」
「あっ、そーか!」
「いや納得するのかよ」
「あ、いたいた」
速水の声がして、鷹野たちは慌てて口をつぐんだ。顔を上げるとすぐそこに、速水と御幸と花城さんがいつの間にか戻ってきていて、さっきの話を聞かれていなかったかと1年共は顔を赤くして少し焦った。
「おー早いな」
「屋台、すぐ近くにあったからな。」
しかし俺の言葉に堪える速水の様子を見るに、どうやら話は聞かれていないようで安心した。
……で。
「花城。」
「……。」
「おーい。おいってば。」
「……。」
「はーなーしーろー。」
「……。」
御幸が花城さんにちょっかいをかけるも、花城さんは頑として目をそらしたままムスッとしている。
「花城が無視する。」
しまいには不貞腐れた幼児のようなことを言い出す御幸に、俺も呆れた目を向けた。
「お前がなんかしょーもねえことしたんだろ?」
「倉持までそうやって俺のこといじめるの?」
「あ〜キメェな花城さんが無視するのもわかるわ」
「酷い」
「あっそ」
俺と御幸のやり取りを見て皆が苦笑しながら、鷹野だけは心底面白そうにケラケラ笑っていた。
「混んできましたね」
周りを見渡しながら東条が言って、俺たちも顔を上げた。確かに人が増えている。時刻は夕方に迫り、出店や商店街に飾り付けられた提灯にもいつのまにか明かりが灯り、風情ある雰囲気になってきていた。
「花城、またはぐれんなよ」
御幸が懲りずに人の悪い笑顔で花城さんを揶揄って、花城さんがいつものように御幸を睨んだ時。
速水が花城さんの肩を抱き寄せた。
ちょうど花城さんの後ろを大人数の団体が通り、ぶつかりそうになったのを庇ったのだったが、その勇気ある行為に俺もみんなも息を呑んだ。俺が無意識に御幸を見ると、御幸はかなりショックをうけたような呆然とした顔で固まった瞬間だった。
花城さんの白い頬が赤く色づく。だけど速水はそれとは比べ物にならないくらい赤面していて、その光景はドラマのワンシーンみたいに、スローモーションに見えた。
「ごめん、危なかったから。せっかく可愛い格好してるし…」
へへ、と、速水は憎めない人懐こい笑顔で言う。
「い、いえ…ありがとうございます」
花城さんは見てるこっちがドキドキしてしまうほど愛くるしい照れ笑いを浮かべ、速水を見上げた。見つめられた速水は見惚れたように花城さんと見つめ合い、そのあと照れた様子で目を逸らす。だけどまたすぐに何度も花城さんを見つめた。焦がれるような目で。
これは…。
花城さんのような美女とあわよくば、なんて考えてた俺ですら、ちょっと悔しい気持ちになる。
だから、きっと、本気で花城さんのことを好きっぽい御幸は…。
チラ、と御幸の顔色を伺う。
御幸は、見たこともない複雑な表情で…どこか苦しそうに2人を見ていた。
可哀想な気もするが、仕方ない。いつも花城さんにガキみたいに絡んでばかりで、そんなことじゃ花城さんが振り向いてくれないのだって当然のことだ。特に今日に限っては、御幸の行動は全部裏目に出ている。
速水は花城さんから手を離すと、照れ隠しのように仕切り直した。
「あ、じゃあ、どうする?みんな何か食べたいものとか…」
ある?と、速水の目が俺たちを順番に見た。
「あ〜…私イカ焼き買いに行きたい!」
鷹野が考えついたように手を挙げて、速水と花城さん以外のメンバーに強い視線を送った。一緒に来い、この二人を二人きりにしよう、と言いたいだろうことはすぐにわかったし、東条や金丸も顔を見合わせて察したように苦笑した。
「じゃあ…」
「わ、私も。」
東条の声を遮って、まだ顔の赤い花城さんが申し出た。鷹野の目が飛び出しそうなほどまん丸になった。
「え!?光来るの!?」
「え?…だめ?」
「いやだめじゃないけど…」
鷹野は作戦失敗とばかりに東条たちとアイコンタクトを取る。花城さん、意外と鈍感…?いや、花城さんが速水をどう思ってるかどうかは、わからないけど。
「じゃあ行こうか?」
速水が少し残念そうに言い、みんなで歩き出そうとした時。
「…悪いけど、俺は疲れたからここにいるわ。」
御幸がそう言って、そばの花壇のふちに腰掛けた。こいつ、完全に気力無くしてら…。
「…仕方ねーな。これもここにいるからお前ら行ってこいよ。」
俺は御幸の隣に座って、鷹野たちに手を振って促した。
「え?いや、俺は平気だから倉持も行ってこいよ」
「いーんだよ黙ってろクソメガネ。ほら行ってこい」
「そ、そうですかあ?」
鷹野たちは俺たちを気にしながらも雑踏に消えていった。しばし目の前を行き交う人混みを眺め、俺は隣の御幸の横顔を見た。
「何落ち込んでんだよ」
御幸は俺を振り向き、鬱陶しそうな顔をする。
「何?別に落ち込んでねえよ」
「嘘つけバレバレだ。速水と花城さんがいい感じだからって…」
「全然違うから」
強がりやがって…。俺が目を細めると、御幸はガキみたいにそっぽを向いた。
「元々ウゼエ奴だけど、なんでお前は花城さんの事になるとそうバカなガキになるんだよ。」
「……。」
御幸の眉根に皺が寄った。自覚はあったらしい。
「別にてめえの応援とかするつもりはねーけど…このままじゃ花城さんに迷惑がかかるから教えてやるわ。」
「…なに。」
「本当に好きならガキみたいな絡み方すんな。結局、テメーははあの子より自分が大事だから余計なことを言うんだよ。」
「は?どういう…」
「違うか?あの子が傷つくよりテメーの照れ隠しの方が大事なんだろが」
「……。」
御幸はハッとした顔で、少し青ざめた。
「んなこともわからねーくらい、バカじゃないだろ」
いつも部内では中心的人物で、捕手ではこいつの右に出る奴はいない。基本的に賢いはずなんだ、こいつは。俺よりもずっと。なのに、花城さんを前にすると途端に救いようのないアホになる。
「あ…、おい、御幸。」
俺は不意に、前方の人混みの中に、こちらに向かってくる花城さんの姿を見つけた。やっぱ一瞬で人目を引くほどの美人だな、花城さんは…。
俺に小突かれて顔を上げた御幸が、花城さんを目にして息を呑んだ。
花城さんは1人で俺たちの方へ歩いてきた。その手にはイカ焼きが2本握られている。
「あ…あの」
花城さんの目が俺と御幸を交互に見た。
「これ…一本おまけでもらっちゃって。先輩たち、どちらか食べませんか…?」
その言葉に俺と御幸は顔を見合わせ、こいつと違って空気の読める俺は小さく笑って立ち上がった。
「御幸食えよ。俺は焼きそば買ってくる」
そう言い残し、俺は2人を残してその場を立ち去る。別に協力してやったつもりはない。
ただ、花城さんの目が、御幸の方を気にしていたから。
本当にバカだ、御幸のヤローは。