013



「…どうぞ」

花城がイカ焼きを差し出してくる。

「ああ…サンキュ」

俺がそれを受け取ると、花城は遠慮がちに俺の隣に腰掛ける。少し間を開けて、一見すると連れじゃないみたいに。

イカ焼きを食べながら、さっき倉持に言われたことを反芻していた。正直、図星だった。恥ずかしいくらいに。

「…他の奴らは?」
「まだ、買ってるところだと思います」

花城は少しそっけない声で答える。まだ怒っているっぽい。当たり前だけど。

「…なあ」

俺の声に、花城はもぐもぐと口を動かしながら俺を振り向き、じっと見つめてきた。

「今日…色々と、本当にごめん」

花城はもぐもぐしながら俺の顔をしばらく見つめ、ごくん、と飲み込んでから口を開いた。

「何がですか?」

聞いて、またイカを少し齧る花城。

「怒ってるだろ…今だって」
「怒ってるっていうか…先輩がデリカシーないことばっかり言うからイラッとしただけですけど」
「怒ってるじゃん…」
「急に何を心配してるんですか?」
「いや…悪かったなあって思って…」

花城は怪訝そうに俺を見て眉を寄せ、瞬きをした。

「…今更?いつものことじゃないですか?」
「え?」
「だから、それが御幸先輩なんだから」
「……。」

俺の印象って…。

「急にどうしちゃったんですか?先輩らしくない」

花城はそう言って笑って、またイカ焼きに齧り付いた。俺も少しイカ焼きを食べ、人混みに目をやる。皆遅いな…。

「俺らしいって…。」

花城の中で俺がそういう人間に位置付けられていることが少なからずショックだった。そりゃ、速水と対応が違うわけだ。じゃあ花城からしたら俺なんて、完全に対象外のうざい先輩でしかないってこと…。

「…うーーーん」
「ちょっと、何なんですか?」

俺が頭を抱えてうずくまると、花城の困惑した声が聞こえた。

「…決めた!!」
「きゃっ!?ちょっと、何?」

俺が声と同時に顔を上げると、花城が驚いてちょっと飛び上がる。そのまま目を丸くしてる花城を見つめて、これは決意を口にした。

「もうやめるわ。」
「は?」
「うん、もうやめる。」

花城はポカンとした顔で目を瞬き、眉を寄せて首を傾ける。

「…何を?」

その困惑した顔も、こっちまで困るくらい可愛い。

「花城にこーやって絡むの、もうやめる。」

花城は静かに俺を見つめている。ゆっくりとその言葉を考えるように。

もうやめる。こうやって、くだらない意地張って、花城を困らせるのは。
そうじゃなくて、俺も正々堂々と、胸を張って…花城と向き合いたい。花城にこっちを見て…向き合って欲しいから。

「光〜!おまたせ〜!」
「おっ、来たな」

鷹野の声とカラコロカラコロ軽い足音が近づいてきて、俺は立ち上がった。

「ちょうど私の前で売り切れちゃって、新しく焼いてもらっててさあ〜!でもほら、焼きたて貰っちゃった!」
「…あ、うん」

花城はハッと笑に返ったように口元に笑みを浮かべ、慌てて立ち上がる。

「どうしたのお?」
「いや、なんでもないよ。」
「倉持先輩は?」
「焼きそば買いに行ってる。」

じゃあここで待ってようか、と鷹野が言い、それまで俺たちが座っていた花壇のふちに腰掛けた。

「…花城さん、大丈夫?疲れた?」

速水が花城を気遣って声をかける。

「また御幸先輩になんか言われたの〜?」

その後ろで鷹野が面白がるように言う。

「何も言ってねーよ。」
「あはは〜」

すかさず俺が返すと鷹野は悪びれない笑顔で笑った。花城を見ると、一緒に笑みを浮かべている。なんか元気がないように見えたのは…気のせいか?それとも本当に、俺がまた余計なこと言った…?いや…、そんなことはない、はず…。



***


すっかり日が暮れ、花城と鷹野の帰宅時間と、それから俺たち寮生の門限も迫っているということで、帰る事になった。

「じゃあ、俺はこっちだから…。」

商店街から少し歩いたところで、速水は駅の方へ向かう道の前で言った。花城を見て、すごく名残惜しそうに。

「はーい!先輩イケメンなんですから、お気をつけて〜」

そんな時にも場を明るくする鷹野の軽口が炸裂し、笑いが起こる。今日途中から、なんとなく沈んでいるように見えた花城も、鷹野の言葉で明るい笑い声を上げた。

「あはは。俺は心配いらないと思うけど…鷹野さんも気をつけて。」
「ありがとうございま〜す」
「…花城さんも。気をつけてね」
「…はい」

速水が真剣な、熱のこもった眼差しを向けると、花城は少し俯くように頷いた。

「こっちは大丈夫ですよ〜、倉持先輩に送ってもらうし!」
「え?俺?」
「え〜送ってくれないんですか!?こんな夜道にこんなか弱い女子2人で放り出す気ですかあ〜!?」
「んなこと言ってねえだろ!送るよ送る!」

今日1日でかなり打ち解けたらしい鷹野と倉持のやりとりに面白がる視線を送る東条と金丸。

速水もひとしきり笑って、それじゃあ、と駅の方へ向かって歩き出した。
俺たちはその背中を見送って、学校方面へ踵を返した。

「俺たちも一緒に送るよ、なあ信二?」

倉持に気を使ったのか、多少下心があるのか、東条がさわやかな笑顔でそう言うと金丸もおうと頷く。

「いーってお前らは先に帰って素振りの一つでもしてろよ。」
「あ…ハイ」

しかし下心丸出しの倉持からそう言われ、消沈した様子で顔を見合わせた。

「そんでお前はやけに大人しいな。」

不意に倉持にそう言われ、俺は憮然とする。

「そう?」
「そーだよ気味悪い。お前も先帰るか?」

そうなると倉持が両手に花状態で2人を送っていくことになる。まあ倉持は鷹野のことはそんなふうには思ってないだろうけど、だからこそ、花城を送る役得をこいつだけに味わせるのは癪だ。
でも俺が食い下がって、花城がもし嫌だったら…。

「どっちでもいいけど…」

そう言いながらちらりと花城の表情を窺うと、思いがけずバッチリと目が合って一瞬驚いた。花城は咄嗟に目を逸らすように地面に視線を落とす。な、何で俺の顔を見てたんだ?こいつが来たら嫌だな…とか思われてたんだろうか?

「じゃあこっちで選んでいいですかあ?」

ケラケラと笑いながら、鷹野がとんでもない提案をした。

「光、倉持先輩と御幸先輩、どっちに送ってもらう〜?」

鷹野が花城の腕に絡みつく。花城は困った笑顔で、私が決めるの?と笑い、鷹野にせっつかれて、俺と倉持の顔を見比べた。

正直ものすごく緊張した。選ばれたら嬉しい。というか、選ばれたい。どっちかと言えば、俺の方が倉持よりも花城と親しい自負があるし、選ばれる自信もある。花城からしたら、倉持よりも俺の方が、こういうとき指名しやすいだろうしって…。

「え〜…」

花城の目が俺を見上げ、頬が赤くなった。
悪いな倉持。ここは俺が…

「じゃあ…倉持先輩」

「……えっ!!ま、マジで!?」

ガッツポーズまでして喜び飛び上がった倉持。俺はというと、地面にめり込むほど叩き潰されたような気分で言葉を失っていた。頭の中に鈍い鐘の音が鳴り響いて、何も耳に届かない…。

「じゃあ倉持先輩にしよっかあ〜」
「おい鷹野、んな食いもん選ぶみてーに言うな!失礼な奴だな」
「とか言って嬉しいくせに〜」
「なっ、なわけねーだろ!仕方ねーから俺は…」
「さっきガッツポーズしてたじゃん。ねえ金丸くん?」
「お、俺に振るなって!」

金丸にヘッドロックをかます、喜びを隠しきれない倉持を尻目に、俺は遠くに見えてきた寮の屋根を眺めた。
俺って本格的に、花城に嫌われてんだろうか…。

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