015



「花城いる?」

翌日、1Aの教室前から花城を呼び出すと、周りがざわついた。

「あれ御幸先輩だよね?野球部の…」
「有名人だ」

ざわつく教室の中から、訝しげな顔で、少し頬を赤くした花城がやってきた。

「ちょっと来てくれる?」
「…はい」

花城を引き連れて校舎裏に来て、俺は意を決して花城に向き直った。

「あのさ…」
「…なんですか?」

様子を伺う花城の視線。俺が呼び出したことを驚いてるみたいだ。

「…メアド教えて」
「……。」

言った。
恥を捨て去って言った。
昨日倉持が帰ってきて、花城のメアドを教えてもらったと聞いて、俺はショックすぎて寝込んだ。速水ではなくまさか倉持に出し抜かれるとは思っていなかった。あの時送っていく奴として花城が倉持を選んだのも、俺への当てつけもあるだろうと心のどこかに油断が残っていた。
だからものすごく悔しかった。これからは花城に正面からぶつかっていくと決めたから、今日こうして花城を呼び出した。

「…はあ!?」

花城はちょっと怒りの混じった声をあげて俺を見上げた。

「何?はあ?って。」
「…だってもう私と縁切るって言ってたじゃん!」
「は!?そんなこと言ってねーよ」
「言ったよもう絡まないって!」
「そ…それはそう言う意味じゃねーよ!」
「じゃあどういう意味!?」
「だからそれは…お前を怒らせるようなことは言わないってこと!」
「意味わかんない」

花城は腕を組んで首を傾げた。

「御幸先輩から無神経を取ったら何が残るんですか?」
「おい!言い過ぎだろ」
「ムカつかない御幸先輩なんて御幸先輩じゃないですよ」
「そんなことねーよ」

花城が笑いだす。その笑顔は可愛いけど、俺って一体…。

「で…なんでメアド聞くんですか?」
「え…」

なんで…って、そりゃ、花城ともっと知り合いたいし…告白とかする前に、連絡先交換くらいするもんだって勝手に思ってたけど…。

「…倉持が知ってるから」
「はあ?」

花城が眉を寄せて俺を睨む。

「何それ?」
「いいじゃん…で、教えてくれんの?メアド」
「え〜…悪用とかしないですか?」
「しねえよ!俺のことなんだと思ってんだよ」

イタズラっぽくケラケラ笑う花城。
ったく…本当に信用ないのか、揶揄われてるだけなのか…。

「なあ…、ダメ?」

すんなりと教えてくれない花城の様子に俺は焦ってきた。もしかして嫌なのを、こうやって笑い事にしてはぐらかしてるだけなのか…なんて。
思わず苦々しい顔になった俺を見て、花城は戸惑ったように息を呑んだ。

「だ…だめじゃないけど…」

そう言って、花城は口を尖らせる。

「しかたないなあ…」
「え、そんな渋々?」
「そんなことないですよ。いいならいいけど。」
「あ、いや、じゃあ…」

危ない。このチャンスを逃したら本当に教えてもらえなさそうだ。今はとりあえず、メアドを教えてくれるだけでもありがたい。
俺は慌ててポケットから携帯電話を取り出した。

「…教えて。」
「じゃあ…打ちますね」

花城がそう言うので、俺は電話帳の登録画面を開いて花城の手に自分の携帯電話を渡した。
カチカチカチ、と軽い音を立てて、花城は素早く文字を打ち込んでいく。その少し伏せられた長いまつ毛に見惚れていると、不意にその目が俺を見上げてドキッとした。

「…登録しましたけど」
「あ、ああ、おう…サンキュ」

目が合って動揺して、差し出された携帯を受け取るのに手間取って、指先が花城の手に少し触れた。
一瞬だけど、柔らかくて滑らかな肌の感触を感じて触れた指先が熱くなる。こんなにふざけていて、俺をおちょくっていても、花城はこんなに可愛くて、こんなに柔らかな肌のか弱い女の子なのだと…実感する。

「じゃ…教室戻っていいですか?」
「…いいけど、そんな迷惑そうにしなくてもいいだろ…」



***



聞けた。
花城のメアド。

ついでに、いつものように軽口も言い合ったし。
俺ってあいつと仲良い…ほうだよな?

いや、でも、もう祭りの時のようなことはしない。
倉持にも速水にも、花城を奪われたくない。


手の中で携帯電話が震え、胸の中がどくどくと脈打って暖かくなる。
携帯を開くと受信中という画面が切り替わり、「花城光」という名前が表示された。

『登録しました』

なんて事務的な、そっけない返信。
ふ、と口元が緩み、どうしてもにやけてしまう。


「倉持!花城さんとメールしてんの?」
「あぁ?まあな…」

すぐ近くで騒いでいる倉持が、ふとこっちを見て、勝ち誇ったような笑みを向けてきた。

「何?」

不愛想ににらむと、倉持はにやにやしながら自慢げに携帯電話を振りかざす。

「ヒャハハ。悪く思うなよ御幸。俺が花城さんとメールしてるからって…」
「はあ?花城のメアドくらい、俺も知ってるけど?」
「…え!!?」

倉持の目が今までで一番大きく丸く見開いて、その顔がおかしくて、俺は噴出した。

「なんで!?え!?いつから!?」
「もう前から知ってるけど?」

本当は今日聞いたんだけど。

「ハア!?おまっ…何も言ってなかったじゃねーか!」
「別に騒ぐほどのことでもなくない?」
「テメエ…!!」

怒りと殺意の混じった眼で俺をにらむ倉持から逃げるため、俺は立ち上がった。

「メールごときで大喜びしてカワイイ奴だなお前…プププ」
「ゴルア待てクソ眼鏡!!!ぶっ殺してやる!!!」

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