016



夏休み目前。

目の前を横切った女子生徒たちの、涼しげな夏服姿。
暑いため、ほとんどの生徒はブラウスの第一ボタンをはずし、髪をまとめて、うなじや鎖骨があらわになっている。
それに…

「なあ…なんで女子って、ブラが透けてても気にしないんだ?」

隣の倉持がぽつりと言った。さっきの女子生徒たちのブラウスに、うっすらと白やピンクのブラジャーが透けていたのを無意識に目で追っていた俺は少しぎくりとした。

「さあ…男の乳首と同じだろ」
「男の乳首より女の下着のほうが見えたらまずいだろうが」
「お前がブラジャーを意識してるからそう思うんじゃなくて?」
「お前こそさっき見てただろうが」
「はっはっは」

笑ってごまかすな、と倉持が軽く俺の背中を蹴ったとき。
曲がり角から突然花城が現れた。

「わ、」

驚いて俺を見上げた花城の目が、すぐに睨みつけるように細まる。なんという反射反応。

「…何だ御幸先輩か。すみませんって言っちゃうところだった」
「それは俺にも言えよ」
「こ…こんちは、花城さん!」

俺を押しのけて身を乗り出す倉持。こんにちは、と猫を被る花城の後ろから、鷹野が顔を出す。

「私もいるんですけど〜」
「おう鷹野」
「ちょっと〜光と態度違いません?」
「ヒャハハ」

なんか仲いいし。あの七夕祭りの日以来、倉持と鷹野はなぜか気が合ったらしく、会えば親しげに挨拶をする。

「なんか盛り上がってたけど何話してたんですかあ〜?」
「「いや別に」」

鷹野の鋭い質問に俺と倉持は息ぴったりに即答した。あまりにシンクロしたから思わず倉持を見ると目が合って、なぜかにらまれた。

「あはは、仲いいですね〜」
「よくねーから」

そんなことを言いつつ、俺はこっそり花城を見る。

今日は特に暑くて、花城も髪を一つにまとめてポニーテールにしている。ゆるくウェーブのかかった甘いミルクティーのような亜麻色の髪はつやつやさらさらで、花城が動くたびにふわっとなびく。
その髪の隙間から、真っ白で細いうなじが見える。さらに白いブラウスの胸元には…

…ブラが見えない。代わりにうっすらと、キャミソールのような形が透けている。クソ、花城はちゃんとインナーを着る派か。まあ、他のやつに見られないからそのほうがいいけど。

「何じろじろ見てるんですか?」
「え?いや、別に」
「御幸先輩、光が可愛すぎて見とれちゃったんですか〜?」
「鷹野やめて、花城が死ぬほど嫌そうな顔してるから」

鷹野はケラケラひとしきり笑った後、あっ!と手を叩いた。

「そういえば御幸先輩、野球部主将になったんですよね!」
「え?ああ」
「おめでとうございま〜す」
「あー…ども」
「おい、俺も副主将だぞ、祝え」
「あ〜ハイおめでとうございます〜」
「適当だな」
「そんなことないですよ〜。じゃあ…」

鷹野はちょっと考えるように口元に手を置き、何か考え付いた様子でぱっと笑顔になった。

「お祝いに、とっておきの秘密を教えてあげます!」
「秘密?」
「3つの中から選んでくださいね〜」

どうせ大したことないだろうと、俺も倉持も鷹野の遊びにつきあってやる気持ちで続く言葉を待った。

「まずその1!光のブラのサイズ〜」
「は!?ちょっと!」
「「……。」」

鷹野の発した爆弾発言に花城本人がいち早く反応し、鷹野を揺さぶった。
俺は下手に反応しないよう動揺を押し隠して口をつぐんだ。倉持も俺と同じように黙り込み、ただ俺よりも動揺のにじんだ顔で目を泳がせていた。

「その2!稲実エース成宮さんの情報〜」

鷹野はきれいにスルーして言葉を続ける。

「鳴?なんで知ってんの?」
「うちの兄貴稲実なんですよ〜」
「へー」
「最後にその3!片岡先生の弱点〜」
「それこそ何で知ってんだよ」
「ふっふっふ〜」

鷹野はにんまり笑って俺と倉持を見る。

「どれにしますか〜?」
「「……。」」

全部絶妙に気になる…が。
隣で睨んでくる花城の視線を感じつつ、俺は口を開いた。

「…じゃ、花城のブ」
「殴りますよ」

言い終わらぬうちに平手が背中に飛んできた。

「もう殴ってるじゃん」
「いやまだです。顔面グーで全力でやります」
「ったりめーだろエロ眼鏡!!花城さん任せてください、コイツは俺がシメますんで」
「なんだよ倉持だって気になるくせに…」
「テメーと一緒にすんな!!」
「ホント御幸先輩最低。倉持先輩とは大違い」
「はっはっは、騙されてるぞ〜ソレ」

花城の思わぬ擁護にニヤついてしまっている倉持。こうなることはわかっててふざけたとはいえ、ちょっと面白くない。なんで俺っていつも花城をからかってしまうんだろう。

「つーか冗談だって。決まってんじゃん」
「……。」
「うわ全然信じてねーカオ。はっはっはっは」

花城はうんざりした顔で鷹野の腕を引っ張った。

「こんな人に何も教えちゃダメ!もう行こ!司」
「は〜い」

楽しそうに引っ張られていく鷹野。

「しょうがねーな…じゃあ鷹野!あとでこっそり…」
「え?あははは」
「ふざけないでよ!」

去っていく二人の背中に向かってふざけると、案の定花城から怒られて。
そんなことさえ嬉しくなってしまう俺の肩を倉持が後ろからホールドした。

「いい加減にしねーとマジでシメるぞテメー!花城さん、こいつは任してください!」
「カッコつけちゃって…」

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