002



俺は今、気になる女の子がいる。


「光〜本当に何もないの?」
「本当。」

友達の鷹野さんと一緒に教室に入ってきた花城さん。今日もハッとしてしまうほど綺麗で、一瞬気を取られただけのつもりがつい見惚れてしまう。だけど花城さんが俺のすぐ後ろの席に来たことで、俺はさすがに我に返って手元に視線を戻した。そう、なんという幸運なことか…俺の気になる女子、花城さんは、俺の後ろの席だ。…といいつつ、話したことは未だに無いんだけど…。

「東条〜!」
「東条!東条秀明君はいっしゃいますか!」

その時俺の名前を呼びながら教室にやって来た信二と沢村が、俺を見つけて傍にやって来た。

「東条いた!」
「沢村…どうしたの?」
「頼む!英語の辞書貸してくれ!」
「寮に忘れたんだってよ」
「あ〜、いいよ。はい」
「サンキュー東条!!この恩は必ず返す!」
「あはは。いいよ別に。午前中に返してくれれば」
「え!?恩を!?」
「辞書に決まってんだろバカ」

「え〜でも昨日仲良さげだったじゃん」
「普通だよ。」
「しかもカッコよかったしさ〜」
「…普通!」
「ほんとに〜?付き合ってないの?御幸先輩と!」

「え!?」

後ろの席から聞こえてきた会話に、俺だけじゃなく沢村と信二も反応した。声を上げたのは沢村で、つられて振り向くと、花城さんと鷹野さんが目を丸くしていた。

「み、御幸一也の彼女さん!?」
「え!?ち、違う!!」

沢村の言葉に、花城さんは顔を真っ赤にして否定した。だけど沢村の大声は教室中に響き渡り、クラス中の注目を集めた。

「え?花城さんと御幸先輩が…?」
「あの噂本当だったの!?」
「噂って?」
「二人が付き合ってるって…校舎裏で見た人がいるんだって!」
「え〜!」
「花城さんが?」
「うそぉ〜」

「…違うから!」
「わ、悪い!!みなさん誤解だそーです!!すんません!!」
「もうお前黙ってろバカ!!」

沢村は信二に拳骨を落とされて黙った。

「あや〜〜…ごめん光〜」
「…いや…。っていうか、噂って何?」
「さ、さあ、私は知らないけど?」

「あ、な、なんか…昨日、二人が校舎裏で一緒にいるのを見た人がいて…告白してたって噂になってる…んだけど…」

見かねたようにクラスメイトの女子が口を開き、そう言った。

「……。」

すぐに否定すると思ったのに、花城さんは何か思い当たることでもあるように明後日の方を見て顔を赤くした。

「え!?まさかマジで…」
「沢村!」
「違う!あの人とは何もない。好きじゃないし。向こうだって別に…そういうんじゃないから!」

花城さんは赤い顔でそう言って、すとん、と席に座った。これ以上掘り下げるのも気が咎めたのか、そうだよね、変な噂だよね、もうやめよ、と皆顔を見合わせながら、花城さんをそっとしておくように離れて行った。



***



火のない所に煙は立たぬ…。

…いや!でも、たまたま一緒にいただけかもしれないし。
…校舎裏に?わざわざ?何の用で…?

…あ〜〜、モヤモヤする。

「はっはっはっは!」

廊下で聞き覚えのある笑い声が聞こえてきて、声がした方を見ると、お腹を抱えて笑う御幸先輩と…御幸先輩をむっと睨みつける花城さんがいた。

「笑い事じゃない!本当に嫌なんです!」
「しょうがねーじゃん。別に良くねぇ?ウソなんだから」
「でもすごい噂になってるの!御幸先輩はいいんですか?」

あ、二人が付き合ってるって噂のことか…。な、なんだ。やっぱり本当は付き合ってないんだ…よかった…。

「別に?俺は嫌じゃないけど。」
「……えっ?」

えっ?

シーン、と廊下が静まり返った。聞き耳を立てていたのは俺だけじゃなかったらしい。
花城さんの顔はどんどん真っ赤になっていって、耳まで赤く染まって、御幸先輩も後から恥ずかしくなったように顔を赤くしてはにかんだ。

「…なーんちゃって…はっはっは」
「は…はぁ?」
「んな気にすんなよ。そのうち収まるって。」
「でも…!」
「俺も聞かれたときは否定してるし。俺が言いふらしてるわけじゃねーから」
「そ…そんな風には思ってないけど…」

そこまで言って、花城さんは周りの視線に気づいたようにはっとして、「もう行きます」と小さな声で呟き、御幸先輩から離れて行った。
付き合ってはない…らしい。でも…すごく、仲は良さそうだったな…。

- 2 -


prev | list | next

top page
ALICE+