009

「あれ、東条じゃん」

夜、信二とパシリでコンビニに来ると、俺のクラスメイトの三木達と出会った。
俺のクラスメイトだよ、と信二に紹介し、同じ野球部の金丸信二、と三木達に紹介する。

「あ、そーか。東条達寮生か」

俺と信二がラフな私服姿でいるのを見て、三木は手を叩いた。

「いいな〜楽しそう」
「あはは。楽しいけど、大変なこともあるよ。」
「そーそー、今だって先輩のパシりだし…」

なぁ、と信二と顔を見合わせると、三木達も納得したように同情した。

「パシりって何買いに来たの?エロ本?」
「あはは!違う違う。マガジンだよ」

今週の新刊を1冊取り、先輩から預かった小銭をポケットから取り出す。
へー、と頷いた三木が、ふと本棚を眺めた。

「これも買ってけば?」

そう言って三木がグラビア誌を差し出すものだから、俺たちはいっせいに笑った。

「ほらこれもこれも!」
「やめろってw」

ピロリロリロ…

「いらっしゃいませー」

ふざけ合っている俺たちの横の自動ドアが開き、人が入ってきて、俺たちは何気なくその客を見た。その客…二人組の女子高生…いや、鷹野さんと花城さんも、俺たちを見た。そして、俺たちの手にあるグラビア誌も。

「……。」

青い目は俺たちを一瞥し、すぐにどこか別の方を見て、花城さんは無言で店の奥へ入っていった。鷹野さんは笑っていた。
三木が後悔した顔で、とりあえず雑誌を棚に戻した。

「みーーき。」

うわっ、と三木が飛びあがった。花城さんと向こうに行ったと思った鷹野さんが俺たちの後ろにいて、ケラケラ笑っていた。

「男子ってバカだな〜!こんな学校の近くでエロ本買ってるとか…」
「買ってねーよ!ふざけてただけだって!」

三木は花城さんの方を気にしながら弁明する。花城さんは聞いているのかいないのか、アイスケースの中を一人で覗き込んでいる。

「そーそー、三木が買えって言いだして」
「俺らは何もしてないもんな〜」
「おいお前らふざけんな!」

三木の友達も悪ノリして三木を裏切って、三木は慌てた。

「あははは!明日先生に言っちゃお〜」
「なんでだよやめろって!」

「司。」

レジ袋を持った花城さんが鷹野さんを呼び、三木達は静まり返った。

「先、外行ってる。」
「あ、は〜い」

自動ドアが開き、花城さんはコンビニを出て行った。ガラスの向こうに、コンビニ前のごみ箱に、アイスの袋を捨てる花城さんが見える。

「あーあ光に幻滅されちゃったねぇ」
「オイ鷹野…!」
「あはは、冗談だって!だいじょーぶだいじょーぶ」

鷹野さんはお菓子を選び始め、三木達は店の外の花城さんを気にしながらジュースなどを買い、俺と信二もマガジンを買って店を出た。コンビニ前にはちらほらと、タバコを吸うサラリーマンや、おしゃべりをする中高生などがいた。花城さんは店の出口に近いところでアイスを食べていて、店から出てきた俺たちを少し見たけど、鷹野さんがいないことを確認したのかすぐに俯いた。

「…あ、じゃあ俺たちはこれで」

俺と信二が三木達に声をかけたとき、三木達は花城さんを見ていて、俺を振り向き、ああ、と言った。
だけど、俺と信二が去る前に、賑やかなバイクに乗ったグループがコンビニ前にやって来た。
煩いエンジン音と排気ガスの臭い。男たちはバイクを停めると、コンビニに入ろうとした足を止めて、ニヤニヤしながら花城さんの前に近づいた。

「あれ〜!?この前の子じゃん!!」

花城さんの顔を無遠慮に覗き込んで言った男を花城さんは見上げ、固まった。

「ホラすげーー可愛くね!?」
「カワイ〜」
「ねぇ名前は?」

「…やばくね?」

三木の友達がぽつりとつぶやいた。この間と同じ状況…三木は俺を羨ましがっていたけど、今は友達と顔を見合わせるだけで、花城さんのもとには向かわない。
俺は信二を見上げた。信二の顔が、マジ?と言いたげに苦笑する。俺たちが行くしか…。そう無言のまま考えていると、花城さんが動いた。

「その制服青道っしょ?」
「どっか行こうよ〜、ねぇ?」

花城さんが腕を掴まれそうになってよろけた。信二が俺の背中を押した。

「おい、行くぞ!」

信二のその声で、俺は信二と一緒に花城さんに駆け寄った。

「あの、ちょっと…!」

花城さんと男たちの間に割り込むと、男たちが鈍く光る眼で俺たちを睨み下ろした。

「あ?誰」
「あ〜、オトモダチ君じゃーん」

男はそう言うと、俺と信二を抱き寄せて肩を組んだ。

「ギャハハこいつらビビってんぞ」
「オイオイ可哀そうだろ〜」
「何言ってんだよ。俺らオトモダチじゃん、なぁ?あ、名前何だっけ?」
「知らねーのかよwww」

男たちが手を叩いてはしゃいでいる。め、めちゃくちゃこわい…!!ちらりと信二と視線を交わし、お互いの不運を嘆く。三木達…は、遠巻きに見ているだけで助けてくれそうもないし…ど、どうすれば…!!

「あのー」

するとまた別の誰かの声がした。振り向くとそこにいたのは、御幸先輩と倉持先輩だった。

「あ?」
「そいつら返してくれませんかね。そろそろ門限なんスよ」
「門限wwwパパとママが心配してるってよ!ww」
「帰してやれよ〜可哀そうだろ〜ww」
「いーよいーよお前らは帰れ!」

俺と信二は男たちから解放され、御幸先輩たちの方へどつかれた。

「俺らはこの子とお話ししてただけだから!」

そして花城さんの腕を掴み、引き寄せる男たち。花城さんの顔が青ざめ、見ているだけで手の震えが分かった。
腕を掴んでいる男もそれに気づいたようで、花城さんの顔を覗き込む。

「オイちょっと震えてるよこの子!傷つくな〜おしゃべりしたいだけなのに!」
「……。」

御幸先輩は花城さんと男とを交互に見て、ニコリと笑った。

「いいっすね!じゃあ一緒にお喋りしましょう」
「は?イヤお前はいらねーからw」
「もうすぐ警察の方も来ると思うんで。」

にっこり、携帯電話をかざしてさらりと言い放った御幸先輩に、男たちは一瞬で顔から笑みを消し、こわばらせた。

「は?警察?」
「ええ。すぐ駆けつけてくれるそうなんで。」
「は?え?」
「楽しみっすね〜!お喋り。」

にこにこにこ、笑顔を崩さない御幸先輩に、男たちは顔を見合わせた。

「コイツやべぇよ…」

男の一人が呟き、やっと花城さんの腕を離す。
そして慌ててバイクにまたがり、騒がしく逃げて行った。

「…あ〜〜、怖かった。」

本当かどうかわからない調子でつぶやいた御幸先輩を、倉持先輩は引き気味に見た。

「大丈夫か?」
「あ…はい!ありがとうございました」
「あの…警察って…」
「あ〜、あれ!嘘!」
「え…」

はっはっは、と軽い調子で笑い飛ばし、御幸先輩は花城さんを振り返る。

「花城も大丈夫?」
「……。」

それまで黙っていた花城さんは、目を潤ませ、一粒の涙を頬にこぼした。
あ、と信二が声にならない驚きをこぼし、俺と顔を見合わせる。花城さんが泣いてる。よっぽど怖かったんだ…当たり前だ。慌てる俺たちに対し、御幸先輩は落ち着いた様子で穏やかな笑みを浮かべた。

「もう大丈夫だよ。」
「……。」

ぽん、と御幸先輩は軽く花城さんの腕に触れた。花城さんは目じりを拭い、涙をこらえた。

「…あれ?どうしたの?」

と、やっと買い物を終えてコンビニを出てきた鷹野さんが、皆を見渡して目を瞬いた。

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