「おはよー光!」
「あ…おはよう。」
朝、光がいつもの待ち合わせ場所にいるのを見つけて安堵した。
昨日またコンビニで男たちに絡まれて、怖い思いをしたから、ストーカーのトラウマが蘇ったんじゃないかと心配してた。東条君や、御幸先輩たちが助けてくれたらしいけど…。
「何?」
歩き出して、光が不思議そうに私を見上げた。見つめすぎちゃった。
「あ…ううん。大丈夫?」
「…うん。」
光は綺麗だ。私は今まで生きてきて、光より綺麗な子を見たことがない。
テレビや雑誌で見るどのモデルさんや女優さんよりも、光は綺麗だ。
だからこそ、あんな目に遭って、男の人に怯えて避けてる光を見るのは、心苦しい。せっかくモテるんだし…御幸先輩みたいなカッコいい先輩にだって。
「…ねー光、御幸先輩のことどう思う?」
「…御幸先輩?」
光はちょっと眉を寄せ、嫌そうに頭を振った。
「何で?」
「何でって〜…カッコいいじゃん!昨日だって助けてくれたしさ。」
「……。」
「御幸先輩ってモテるんだって〜。1年で野球部のレギュラーになった人でね、天才球児とかって雑誌にも乗ってたりするらしいよ!プロも注目してるんだって。すごくない!?」
「……。」
「イケメンだし〜、将来プロ野球選手になるかもしれない人だよ?モテるに決まってるよね〜。優しいし!」
「…司、御幸先輩のこと好きなの?」
「え!?いやいや私は違うって!!」
光は首を傾げ、また前を見た。
ストーカーのことが起こる以前から、光が誰かを好きになったとか、気になるとか、そういう話は聞いたことがない。その逆に、誰かが光を好きだとか、告ったとかは、しょっちゅう聞いてきたけど…。
「…じゃあ東条君は!?」
「…何が?」
「カッコイイと思う?」
「……。」
光は眉を寄せ、何言ってるの?と言うように私を一瞥した。
「…ん〜〜〜じゃあ倉持先輩!」
「……。」
「わかった沢村君!?金丸君!!」
「もー、何なの?」
「だからぁ〜誰か気になる人とかいないの?」
「いない。」
「え〜〜せめて好みのタイプとか教えてよー!光のそういう話聞いたことない〜。」
「ないもん。」
「え〜〜!」
ぴた、と光が立ち止まった。右に行けば、いつものコンビニを通る近道コース。左は少し遠回りの川沿いコース。
「…こっちから行こう。」
光は左の道を指さした。私はただ、うん、いいよ、と頷いて、光と一緒に左に曲がった。
…しばらくは、コンビニに近づかないほうがいいよね。
***
「おはよう!」
朝練を終えて登校してきた東条君は、私と光に爽やかに挨拶した。
「おはよー!」
「おはよう。」
「花城さん、昨日大丈夫だった?ごめんな俺、全然役に立たなくて」
東条君は苦笑いして頭を掻き、席に荷物を置く。
「そんなことないよ。ありがとう。」
光は目を丸くして首を横に振った。
「あの…もう一人の人にも…伝えておいて。」
「あ、信二?うん。」
はは、と東条君は顔をほのかに赤くし、照れくさそうに笑う。
光が男の子とまともに話してるの、久しぶりに見た。そうか、東条君はなんていうか、気さくだけど無遠慮ではないから、話しやすいのかもしれない。
光、グイグイ来る系の男子は苦手だからな〜…。…三木みたいな。
そしてその三木は、昨日光が男に絡まれている時に何もできなかったことが後ろめたいようで、東条君と話している光をちらちらと見て気にしていたけど、こっちに来る勇気はない様子だった。
***
「お願い鷹野!!!」
「え〜〜…」
昼休み、三木に呼び出されて渡り廊下に行くと、ものすごい勢いで光の連絡先を教えてくれと頼みこまれた。それはもう、土下座でもするかのような勢いで。
「頼むマジでお願いなんでもするから!!」
「私に何でもされてもね…」
「だって鷹野は花城さんの連絡先知ってるだろ?」
「知ってるけど、光がいいって言わなきゃ教えないよ。」
「そこをなんとか!!」
「だから、光に頼みなよ。」
光に無断で教えたって結果は見えている。ただでさえちょっとうんざりしている三木からある日突然メールや電話が来たら、光は絶対に三木のことを嫌いになる。
「俺花城さんに嫌われてるっぽいしさ…」
「まだ嫌われてはないって!」
「まだ?」
「ちょっと男子が苦手なだけ。ちゃんと仲良くなれば連絡先くらい教えてくれるよ。」
「…つーか、何で男子苦手なの?中学女子高だったとか?」
「いや、共学だけど…」
「じゃあ何で?」
ストーカーのこと、あんまり言いたくないんだよな…。御幸先輩は言いふらしたりしなさそうだし、光も泣いて逃げてしまったことを気にしていたから、光には内緒で教えたけど。
三木は多分、悪気なく周りに言いふらすタイプだからなぁ…。
「…なんでも!」
「何だよそれ。教えろよ」
「しつこいなぁ。ホントに光に嫌われるよ?」
「……。」
うっ、と黙る三木。こういう単純なところは悪い奴じゃないんだけど…。
「…じゃあ鷹野が聞いてみてくれよ!俺に連絡先教えてくれるか」
「えーなんで私がぁ?」
「一番仲いいだろ!頼む!なっ、お願い!」
「ええ〜〜〜…ん〜〜〜…じゃあ…聞くだけだよ〜?」
「やった!!よろしく!!」
「あっちょっと…教えてもいいか聞くだけだからね!!」
よっしゃあ!と三木が嬉しそうに教室に戻っていくから、私はそう念押しして、はあ、とため息を吐いた。
***
「光〜」
「ん?」
その日の帰り道、薄暗い道を一緒に歩きながら、私は憂鬱な話題を切り出した。
「あのさー…嫌だったらいいんだけどさー…」
「何?」
「…三木が光の連絡先知りたいって。」
「……。」
答えを聞くまでもなく、光は沈んだ顔で黙り込んだ。
「あ、やっぱ嫌だよね。大丈夫大丈夫、断っとくから」
「…うん」
あーあ、三木、ドンマイ…。
「…光さぁ、彼氏とか、作らないの?」
「…なんで?」
「なんでって…モテるじゃん光!作ろうと思えば作れるのに。」
「無理だよ。」
「えーだって実際三木とか絶対光のこと好きだしさー、他にも…」
「無理だってば。」
光は私の声をさえぎった。この話はしたくないというような態度で。
「…まだ男の人が怖い?」
「……。」
「ストーカーのことがトラウマだから?だから誰とも付き合わないの?」
「……。」
コンビニと川沿いの道への岐路に差し掛かり、光は川沿いの道を選んだ。
「もったいないよ、光みたいに可愛かったら選び放題なのに!」
「だから…」
「モテないとか言わないでよ?中学の時もめっちゃ告られてたじゃん!今だって、三木は絶対光のこと好きだし。他にも東条君とかだって…」
「やめてよ!私のことなんて…好きじゃないよ」
「ええ?」
「だって…私のこと何も知らない」
「何もって?」
「ほとんど話したことないし。」
「一目惚れでしょ!光美人だもん。」
「一目惚れ?」
光は嫌そうな顔をして私を見上げた。そして、そんなの信じられない、と言うように頭を振った。
「じゃあ話してみれば?メールとかで」
「何で?」
「だって知らないと好きにならないんでしょー?知ったら好きになるかもじゃん」
「メールなんかで何話すの?」
「えー、好きな音楽とか〜、今何してるとか〜…休みの日にどこ行ったとか?」
「…そんなの知って好きになるの?」
「えー!もう難しいなー光!じゃあどうしたら好きになるの?」
「知らない。」
「……ひかりぃ〜〜」
もうこの話は終わり、とばかりに、光は足を速めた。
「難しく考えすぎなんじゃない〜?」
その背中にそう投げかけても、光は何も言わず歩き続けた。