013

「くぉら沢村ァ!!!!」
「うわっ!!なんスか!!携帯返してくださいよ!!」
「テメェあの花城さんと仲良いって本当なのか!?」
「はぁ!?花城!?」
「お前若菜というものがありながら花城さんにまで手ぇ出しやがって!この贅沢者!!」
「身の程知らず!!」
「な…なんなんだよ!?若菜も花城もただの友達だっつの!!」
「花城さんと友達だとォ!?」

倉持先輩や伊佐敷先輩たちに締め上げられる沢村を呆然と見て、俺は信二と顔を見合わせた。ここは黙ってようぜ、と信二の目が訴えている。

「何なんですか!!何で先輩方そんなに花城のことばっか聞くんですか!!しつこいなぁ!!」

なんだと、と倉持先輩に締め上げられてギブアップを叫ぶ沢村の傍に、小湊先輩が豆乳を片手にやって来た。

「そりゃあ学校一の美女だからね。」
「学校一の美女?花城が?」

沢村はぽかんとして、眉を寄せた。

「だから何スか?」
「……。」
「……。」

それまで騒いでいた先輩たちは、目を点にして顔を見合わせた。

「だから何スかじゃねーんだよ!!どうやって仲良くなりやがったテメェコラ吐け!!」
「どうやってって…別にフツーに…」
「あぁ!?花城さんは男嫌いで有名だろーが!!普通は目も合わしてもらえねーんだぞコラ!!!」
「え??俺には別に普通ッスけど…」
「こいつマジムカつく」
「やっちまえ倉持」
「いてててててて!!!」

カタン、と静かな音を立てて、御幸先輩が部屋を出て行った。その後ろ姿はなんだか機嫌が悪いような、元気がないような気がしたけど、呼び止めるのも憚られてそのまま見送った。



***



「東条君昨日C体育館にいたでしょ!見たよ〜」

朝、鷹野が俺に気さくに声をかけてきた。昨日は雨が降って、それぞれ体育館や室内練習場に別れて練習を行い、俺は剣道部が使うC体育館の半分を借りたスペースで筋力トレーニングをしていた。

「あ、鷹野剣道部だっけ?」
「そうだよ〜。東条君に気づいたけど、顧問が怖すぎて声掛けらんなかったよ。」
「あはは!剣道部の練習スゴい迫力だったもんな」

鷹野は本当に話しやすくて、気づけば「鷹野」と呼び捨てにしてしまっていた。だけど鷹野はほとんどの男子からそう呼ばれている。
一方で…

「あ、光おはよ〜。」
「おはよう。」

花城さんは…一部の仲のいい女子だけは「光」「光ちゃん」と呼んでいるけど、クラスメイトのほとんど…特に男子は皆、「花城さん」と呼んでいる。高嶺の花のような存在の彼女は、気軽に呼び捨てにするのは難しい雰囲気だ。

「花城さんおはよう。」
「おはよう。」

だから俺も花城さんと呼ぶ。だけど、花城さんが微笑んで挨拶を返してくれるようになったのは、すごいことだと思う。

「あぁヤバ!!数学の教科書忘れた!」

鷹野が立ち上がって、あわてて「借りてくる!」と教室を出て行った。俺は花城さんと顔を見合わせて少し笑った。
その花城さんは、バッグから財布を取り出して席を立った。

「自販機?」

何気なく尋ねると、うん、と花城さんが頷く。

「お 俺も…行こうかな」

言ってから、思い切ったことをしたと実感した。花城さんは澄んだ瞳で俺を見ている。

「…そう?」

花城さんがそう答えて、足を止めて待ってくれて、俺は急いで財布を取り出した。
一緒に教室を出て、並んで廊下を歩くのは変な心地がした。周りのみんなが見てる。顔が熱くなって、思わず俯く。
自販機の前まで来ると、花城さんはアイスティーを買った。そして俺を振り向き、俺を見上げた。
あ、そうか。次は俺の番だ。
自販機の前に立ち、いまさら何を買おうかと迷う。

「…花城さんと鷹野って、同じ中学だったんだよな。」

何か話がしたくて、そんなわかり切っていることを知らないふりをして尋ねる。

「うん」
「そのころから仲良かったの?」
「うん」
「そっか…」

…会話が途切れてしまった。花城さん、やっぱり、男嫌いっていうし…俺と話なんかしたくないはずなんだよな。一緒に自販機に来たのだってきっと迷惑で…

「東条君と金丸君…も、同じ中学だったの?」
「え?」

思いがけず、花城さんから質問されて、俺は驚いて花城さんの顔を見た。花城さんは俺の驚いた顔を不思議そうに見つめた。

「仲、いいから…」
「え…、あ、ああ。うん。…あ、いや、違う。中学は違うよ。」
「……。」

慌てて変な言い方をする俺に、花城さんは少し笑った。俺もつられて笑った。

「信二とはシニアが一緒だったんだよ。で、一緒の高校で野球やろうって約束してたんだ」
「シニア?」
「うん。松方シニアっていう、中学ん時の野球クラブ。」
「へぇ…」
「そういえば花城は…」

あ、と言葉を飲み込んだ。会話に夢中になりすぎて、慌てて花城さんを呼び捨てにしてしまって、顔が熱くなった。

「あ、ごめん!いつもさん付けないことの方が多いから、つい…」
「いいよ、花城で」
「え…」

だけど花城はあっさりと、笑顔で頷いた。

「あ、じゃあ…俺のことも東条でいいよ。」
「わかった。」

…本当に!?俺、花城と…呼び捨てで呼び合うの!?まさかこんなことになるなんて。ドキドキして、足元がふわふわする。

「買わないの?」
「え、あ、はは…。」

花城の目がちらりと動き、俺は自販機の前に立ったままだと思いだした。咄嗟に考えもせずファンタグレープを買って、苦笑いした。俺、緊張しすぎ…。

「それで?」
「え?」
「そういえば…何?」

花城が俺を見上げる。あ、そうか、俺が何か言いかけてたんだ。でも…何だっけ。
花城に見つめられると頭が真っ白になる。ん?と首をかしげる花城。俺…弄ばれてるのかな。

「東〜〜〜条〜〜〜!」
「うわ!」

ガシィ、と力強く肩を抱き寄せられて、気づけばすぐ横に倉持先輩の顔があった。

「ヒャハハ。楽しそうだなァオイ?」
「い、いや…」

傍には御幸先輩もいる。一緒に飲み物を買いに来たらしい。この人たち、いつも喧嘩してるけど、いつも一緒にいるんだよな…

「花城さんこんちは!」
「…こんにちは」

倉持先輩は上機嫌に花城さんに声をかけ、花城さんはぎこちなく挨拶を返した。

「いつもウチのバカがお世話になってます」
「バカ…?」
「バカ村です!バカ村栄純!」
「…沢村君?」

花城は目を瞬き、確認するように俺を見上げた。俺が頷くと、黙ったまま頷いた。

「俺アイツと寮で同室なんス!いつも花城さんの話聞いてますよ!」
「え?」
「嘘つけ、別に何も言ってねーだろ」

それまで静かだった御幸先輩が低い声で突っ込むと、うるせえ、と倉持先輩は御幸先輩を威嚇した。

「早く教室戻ろうぜ」

御幸先輩は意に介さず、自販機で麦茶を買って時計を見上げ、倉持先輩を急かした。はいはいと倉持先輩は俺を開放し、コーラを買って花城に手を振った。

「じゃーまたな花城さん!」

ぺこ、と小さくお辞儀をする花城。御幸先輩は最後に花城を見つめ、ぼそりと声をかけた。

「…お大事に。」
「あ……はい…」

去っていく二人を見送り、俺は御幸先輩の言葉に疑問を抱いた。

「お大事にって…?」

花城に尋ねると、花城は少し頬を赤くして、答えた。

「部活のとき…足首捻って、筋を痛めたの」
「あ…そうなの?」

大丈夫?と尋ね、うん、とほほ笑む花城。
……でも、なんで御幸先輩はそれを知ってるんだろう?

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