014

「こいつ今日も昼休み花城さんと話してたんだぜぇ〜」
「ちょっと信二!変な言い方するなよ、鷹野も一緒だっただろ」
「何言ってんだよ、花城さんから呼び捨てにされてんのお前だけじゃん!」
「あやし〜〜〜東条」
「あやしくないって!」
「おいおい顔赤ぇぞ!」

やめろよ、と赤い顔で否定する東条。最近花城と仲が良いって噂だ。
東条だけじゃなく、沢村も花城となぜか仲いいし…
…男嫌いって話は何だったんだよ!
…まさか俺が嫌ってだけなんじゃ…。

「そういや御幸は最近どうなの?」

いつのまに隣にいたのか、亮さんがニヤニヤと俺を見た。

「え…何がですか?」
「とぼけるなよ。花城さんのこと家に送ったりしてたじゃん。」
「あッ!!そういやそんなことあったよな!?オイ御幸どうなんだ!?」

純さんまで聞きつけてきやがった…。

「あれは別に…真っ暗だったし、前変な奴に絡まれたって聞いたし、一人で帰すわけにいかないじゃないですか」
「へえ〜〜〜〜〜?」
「でも御幸がそんなことするなんて珍しいし。」
「……。」
「御幸か東条か沢村かぁ…誰がゲットするんだろうね?」
「ちょ…変な言い方しないでください!」



***



「なぁ、今朝花城さん見たぜ」
「えーいいなぁー!!」
「マジで綺麗だよなあの1年の子…」
「あの子新体操部なんだって」
「新体操部かぁ…なんか……いいな…」


…気づけばどいつもこいつも花城のことをいかがわしい目で見やがって。花城が男嫌いになるのもわかるなぁ…いちいちエロい目で見られたらそりゃうんざりするだろうし不愉快だろう。でも…東条や沢村とは普通に話してるんだよなぁ…。
俺とはほとんど目も合わないし、ほとんど話してくれないのに…。…俺何かしたっけ?やっぱあのイタズラで怖がらせちまったからか?
悶々としながら靴箱を開けた。すると、上靴の上に紙きれが一枚載せられていた。

「どした?」

俺が固まったことに気づいた倉持が、横から遠慮なく靴箱の中を覗いてくる。

「えっお前それ…!!」
「バカ、声デケェよ」

紙切れをポケットに突っ込み、何事もない風を装って靴を履き替えた。

「お前〜〜〜!これで何度目だよ!」
「うるせーな…」
「誰?同級?」
「知らねーよ」
「早く読んでみろよ!」

倉持が俺のポケットから紙きれを抜き取って開いた。制止する間もなく、倉持の目が便箋の上の丸っこい文字を辿っていく。

――御幸一也様
今日のお昼休みに校舎裏へ来てください。待ってます。

…差出人は不明。倉持はニヤニヤと俺を見た。

「やめろよ。誰かのいたずらかもしれねーし」
「いやこれは女子の字っぽい」
「名前書いてないしイタズラだと思うけど」
「でも行くだろ?どーするよカワイイ子だったら」
「どうもしねーよ」
「ハアァ?じゃあ…もし花城さんだったとしても断るんだな?」
「……。」

花城の顔がよぎった。いやありえない。ありえないんだけど、即答できない自分が憎い。

「…何で花城?」
「うちの学校で一番カワイイじゃん」
「へー倉持そう思ってるんだ?」
「う…うるせえな皆言ってるだろ!!」
「はっはっはっは」



***



「いってらっしゃ〜い」
「……。」

昼休みになると、倉持がニヤニヤしながら見送りに来た。

「誰だったか教えろよ!ヒャハハ」
「うるさい」

教室を出て校舎裏へ向かう。昼休みだから道中はたくさんの生徒たちで賑わっていたけど、一歩校舎を出ると周りには誰もいなかった。校舎を右手に日陰の道を歩いていき、駐輪場を横目に垣根とフェンスに挟まれた道を進んでいくと、校舎裏の花壇がある少しひらけた場所に出る。校舎裏、と指定された場合は大体ここのことだ。
さて、一体どんな子か…。知らない女子から呼び出されたことも何度かあるため、俺はそれほど身構えずに校舎の角を曲がった。

「あ…。」

花壇の前に、花城がしゃがんでいた。花城は足音で俺に気付くと、青い瞳で見上げ、立ち上がった。

「…え!?これ、花城?」

ポケットから紙を取り出す。うそ、マジで?これは予想外だ。全然脈無しかと思っていたのに。ああでもどうしよう、今は選抜前の大事な時期だし…

「…違います」

花城は俺の手元の紙をちょっと覗きこみ、呟いた。

「……え?違うの?」
「私も…これ…」

花城はスカートのポケットからルーズリーフの切れ端を取り出す。それを見ると、やや汚い武骨な字で、俺のと似たようなことが書いてあった。差出人が書いてないところまで一緒だ。

「なんだ…」
「……。」

呟いてから声に落胆が現れていることに気付き、にわかに顔が熱くなった。
…それにしても、同じ時間同じ場所に呼び出されるとは、なんという運命のいたずら。…花城って結構告られたりすんのかな。
つーか、どうしよう。一緒に待ってるなんて、呼び出した奴が来た時に気まずい。けど、ここで待ってるしかねーしな…

「……。」

花城は花壇の縁に腰掛けた。花壇には申し訳程度のパンジーが咲いている。それだけなのに、そこに花城が座ると気品すら感じる綺麗な光景になるのだから不思議だ。

「…結構呼び出されんの?」

尋ねながら、さりげなく、少し間を開けて隣に座った。花城は紙切れを折りたたんでポケットに仕舞い、首を小さく振った。

「高校ではこれが初めてです」
「……。」

高校では、って…中学の時はあったと言ってるようなもの。それに、まだ1年の1学期も半ば。こんなにすぐに覚えのない呼び出しを食らうとは、よほどモテると推測できる。本人も驚いている様子はないし。
…マジかー、やっぱ競争率高いか…。…って何を考えてんだ俺は…。

「…つーか、呼び出した奴が来たらさ…」

どうするよ?と、軽い気持ちで言いかけた時。
小さな足音が迫り、息を飲む音がして、俺と花城は振り向いた。

「え…。」

そこに立っていたのは、なんとなく顔に見覚えのある2年の女子。えっと…確か……そうだ、去年同じクラスだった、飯田…だっけ。
飯田の黒い瞳が俺と花城を交互に見て、どんどん顔が赤くなっていく。何も言わなくても、飯田の思っていることは手に取るように分かった。
…俺と花城がそういう関係だって勘違いしてる!?

「あ、飯田…」
「っ……」

飯田は俺の声も聞かず、そのまま踵を返して走って行ってしまった。目元に涙が浮かんでいるように見えた。
結果的に振ったことになったけど…まあ、もともとそのつもりだったし…いいか。

「…いいんですか?」

花城が申し訳なさそうに立ち上がって俺に尋ねた。

「…いいよ、付き合うつもりなかったし」
「……。」
「じゃ、俺はお先に…」

俺も立ち上がった時、また誰かがやって来た。

「…えっ、み、御幸!?」

なんだか聞きなれた声。振り向くとそこには、麻生がいた。

「…え…花城呼び出したのって麻生?」

引きつる顔で尋ねると、花城は驚いた顔で俺と麻生を見比べ、麻生は顔を赤くして泣きだしそうになった。

「お前何で…は、花城さんと一緒に…!」
「あ…いやそれは…」

偶然…っていうのも不自然だし、かといって飯田のことも言い辛い…
説明を迷っていると、花城も困ったように俺を見上げた。

「…もういい!わかった!!」
「え?」

麻生は急にそう叫んで、なりふり構わず走り去ってしまった。

「……。」

花城はぽかんとした顔で俺を見上げ、申し訳なさそうに眉を下げた。

「あの……」
「…誤解されたな…多分、二人に」
「……。」

さて…どうしよう。まさか言いふらしたりはしないと思うけど…

「つーか…よかったの?麻生のこと」
「…知らない人です」
「でもほら、あるじゃん、連絡先教えたりとか」

花城はまるで水を掛けられたようにすぐに頭を振った。

「無理なんです、私、そういうの」
「え?」

言っている意味がよくわからず聞き返すも、花城は言ったことを後悔したように黙り込んでしまった。

「…まあ、いいならいいけど…」
「……。」
「じゃ…俺戻るから」

花城は頷いて、俺とは反対方向に歩いて行った。
…なんだか、台風が近づいてくるときのような、落ち着かない気分だった。

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