「ねぇ光ー。御幸先輩と何かあったの?」
帰り道、私が尋ねると、光は小さく笑った。
「何?あの噂のこと?」
光がこうやって笑顔を作るのは何かを隠している時だ。
「それもあるけどー、何か避けてるじゃん」
「避けてないよ別に…」
「っていうかそもそも、なんで急にあんな噂が広まったの?」
「…それは多分…」
光は昨日会ったことを私に話した。
手紙で呼び出されて校舎裏に行ったら、同じような手紙で呼び出されていた御幸先輩がいて、そこにやって来たお互いを呼び出した相手に誤解されたのだという。
「あ〜なるほど…。」
「もう、最悪。違うのに」
「ん〜…でも御幸先輩は喜んでたりして〜。なんちゃって」
「全然。嫌だと思ってるでしょ」
「えーなんで?」
「なんでって…」
光は急に泣きそうな顔になったように見えた。けど、すぐに顔を伏せて隠してしまった。
「…そう言ってたし…」
「…え?え?どういうこと?何か言われたの?」
「…付き合うなんてありえないんだって!」
投げやりに、怒ったようにそう言って、光はそっぽを向いた。珍しい。光がそんな風に怒るなんて。
でも、御幸先輩が本当にそんなこと言うかな?いつも光のこと気にかけてて…光のこと好きなんだと思ってたけど…。
「え〜?何かの間違いじゃないのそれ?」
「何が?本人がそう言ってたもん」
「光に?」
「違うよ、…友達とかに、言ってたもん」
「光はそれ聞いたの?」
「目の前で聞いた。」
「…え〜〜!?いやいや何かの間違いだってぇ」
「本当だもん」
光が拗ねてる…珍し〜〜
「それに…私だってあんな人絶対あり得ないし。嫌いだもん。」
「……。」
あ〜〜〜あ……御幸先輩、何を言っちゃったの…。
***
「御幸先輩!ちょっと顔貸してください」
「え?」
何?呼び出し?タイマン?ヤンキー?と、周りの2年生がざわつく中、私は腕まくりをして御幸先輩を呼び出した。
「何?俺ボコられんの?」
「違います。昨日のことで話があるんです」
「じゃあ普通に呼べばいいじゃん…顔貸せってヤンキーかお前は」
「普通に呼び出したらなんか私が先輩のこと好きみたいじゃないですか!やだぁ最悪!」
「…わかったけど、そこまで言うな。傷つくだろーが」
「先輩が無駄に顔がいいせいで無駄にモテるからいけないんですよ。無駄に。倉持先輩だったら普通に呼び出せるのに」
「なんだそれ…」
「とにかく!」
私たちは校舎裏までやって来て向かい合った。
「昨日の帰り、光に聞いたんですけど」
「うん」
「その前に聞きたいんですけど」
「ん?」
「御幸先輩って、光のこと好きなんですか?」
「……。」
御幸先輩の顔がじわりと赤くなった。
「…いや…」
「……。」
「……うん…」
「どっちなんですか!?はっきりしてください!」
「……。…まぁ…気になってるっつーか」
「は?」
「え…」
「は っ き り し て く だ さ い」
「こえーよ…」
ぽり、と赤い頬を掻き、御幸先輩は呟いた。
「……、…す、好きだよ」
よし。言質はとれた。
「よくわかりました。」
「え?」
「御幸先輩がそんなに光のことが好きなら協力してあげましょう」
「…声デケーよ」
「まず昨日のことですけど。光、先輩のこと怒ってましたよ」
「え、何で?」
「光と付き合うなんてありえないって皆の前で言ったそうですね!」
「は?いや言ってないけど」
「言った言わないの水掛け論をするつもりはありません。言ったつもりがないなら何かそう誤解されるようなことを言ったはずです!思い出してください」
「……。」
御幸先輩は疑わしげな顔でしばらく考えて、急にはっと何かを思いついた。
「…え!?アレのこと!?いやそういう意味じゃ…」
「やっぱり何か言ったんですか?」
「いや言っ…い、言ったけど、そうじゃないんだって!」
「何て言ったんですか?」
「…ありえないって言ったけど!そういう意味じゃねーって!」
「じゃあどういう意味だったんですか?」
「だからそれは…花城のことがあり得ないとかじゃなくて、現実的にありえないって意味!」
「……。」
「俺がどう思ってるとかじゃなくて…まず俺は花城に避けられてるし、そういう意味で…」
御幸先輩はそう言いながらだんだん凹んできた。
いつも自信満々で、飄々としてる人なのに。面白い。
「…つーかそれだよ。」
「え?」
凹んだかと思えば、御幸先輩は急に不満げに眉を寄せた。
「そもそもなんで俺避けられてんの?」
「え?だからそれは誤解が…」
「いやその前から。俺ずっと避けられてるんだけど。」
「光は男子苦手だから、まぁ多少は…」
「でも東条とか沢村は仲良いじゃん。それって何でなんだよ?」
「……。」
ふへっ、と変な笑いがこぼれた。
「ふっ…ふふ…ふふふはは」
「…何急に笑ってんの?」
「だって御幸先輩…やきもち…やきもち焼いてる…あははは!」
「……。」
御幸先輩の顔がみるみる赤くなって、私はますますツボにはまってしまった。
だって普段飄々としてて余裕たっぷりで周りのことなんて気にしてなさそうな御幸先輩が、光のことでこんなやきもち焼いて…
「…おい、笑ってねーでなんとかしろ」
「ははは…へ?」
「協力するって言ったよな?」
え…。あ、あれ。御幸先輩、なんかコワイ。
「頼りにしてるからな、保護者!」
「ほ、保護者?」