020

「御幸君!おはよう。」

少し緊張した笑顔で声を掛けてきたのは、飯田だった。

「おう…おはよう」
「夏休み、頑張ってたね」
「え?」
「音楽室の窓からグラウンドが見えるの。」

目を瞬いた俺に、飯田は気恥ずかしそうにはにかんで、髪を耳にかけた。

「あ、私…吹奏楽部に入ったの。」
「あ…へぇ、そうなんだ」
「来年は甲子園で吹けるかな…なんちゃって」

えへへ、と飯田はまたはにかんだ。
…飯田って…

「練習しとくね。ねらいうち。」

……結構、巨乳だよなぁ……

「あ…あ〜、はっはっは…」
「うふふ。あの曲なんか御幸君っぽい。」
「そう?」

そうだよ、と飯田が肩を竦め、二つの塊が揺れる。

「……。あ、じゃ…じゃあね。」
「あ、おう…」

会話が途切れると、飯田ははにかみながらそう言って、教室に駆け込んでいった。
――ずしり、と肩が重くなって、横を見ると、倉持がニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでいた。

「なんだよ」

腕を払いのけながら歩きだすと、倉持もついてくる。

「お前飯田と仲良かったっけ?」
「別に普通だよ」
「ヒャハハ。さっき何話してたんだよ!」
「別に…」
「あれ〜〜?花城さんはいいのかなァ〜〜〜?」
「うぜぇ…」
「でもよ〜、飯田アイツ、…デカいよな」

胸の前で膨らみを描いて見せる倉持。俺はつられて笑った。

「何言ってんだよバーカ(笑)」
「2年の中じゃ一番だろ!付き合ったら揉み放題だぜぇ〜?ヒャハハ」
「うわ〜倉持のエッチ〜」
「ヒャハハハ。テメーも巨乳派のくせに」
「まあ理想は長澤ちゃんだな〜」
「理想高っ!」
「いやいや巨乳がとは言ってねーだろ、長澤ちゃんの良さはあの笑顔…」

「ぶっ…くっくっく」

背後から噴き出した声がして、俺と倉持は振り向いて…硬直した。
お腹を抱えて笑いを堪える鷹野、と、その隣で気まずそうに目を逸らしている花城…。
…うわ最悪!!花城にエロトーク聞かれた…!?

「なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃった〜ごめんなさーい!」

鷹野はそう言って、きゃははは、と遠慮なく笑いだした。

「…どこから聞いてた?」
「付き合ったら揉み放題!」
「……。」
「……。」

最悪のタイミングじゃねーか…!!

「あははは!そんなに気にしなくて大丈夫ですよぉ〜!先輩たちもフツーの男の子ってことですよねぇ!」
「……。」
「いや…花城はドン引きしてるんだけど」

くっそ…この間のことでちょっと距離縮まったと思ったのに…!こんなことで幻滅されるなんて…!!

「えーそんなことないよねえ?光。」
「……。…どうでもいい」

ふん、とそっぽを向く花城。顔が赤い。
ちら、と見てしまった花城の胸は…まぁ、控えめ。花城は細身だし…

「でもそっか〜。御幸先輩巨乳派かぁ〜。あははは」
「ちょ…やめろ」
「…司、早く行こう」

花城が鷹野の腕を引っ張った。

「気持ち悪い。」

「……。」
「……。」

とんでもない威力の追い打ち台詞を残して、花城は鷹野を引っ張って去っていった。
…最悪だ…。



***



from:真田俊平
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突然だけど、夏休み明けてから花城さんと話した?



真田から奇妙なメールが届いていた。それに気づいたのは夕食の後で、俺は自室でその返信を打った。

『話したけど?』

短い一文を送信した。あまり花城の情報を与えたくない。返事はすぐに来た。

『何て?』

……。何なんだこいつ。何を聞きたいんだ。

『普通に挨拶とか雑談。何で?』
『俺のこと何か言ってない?』
『何も。』

一言送ると、その後しばらく返信が途絶えた。ショックでもうけてるかな、と考えて、ふと思いつく。そういや…俺にこんなメール送って来るってことは、もしかして、花城から電話が来てないってことか?

『お前に頼みがあるんだけど』

しばらくして、真田から返事が届いた。

『花城さんに、俺が電話待ってるって伝えてくれない?』

…やっぱり。
俺はついつい、口元がにやけた。

『やだ。』

「ふっ」

送信ボタンを押して、つい小さく噴出すと、木村が不思議そうに俺を見た。

「どうしたんですか?」
「いや…何でもない」

やばいやばい。つい笑っちまった…

「お風呂行ってきます。」
「おー」

木村が籠を持って部屋を出て行き、俺は椅子の背もたれに寄りかかって、携帯を開いたまま真田の返事を待った。
だけどしばらく待っても返事はなく、俺は携帯を閉じた。
怒ったか?それとも諦めた?まあ、いいか…。

…つーか、俺も電話、できてないんだけど…。

せっかく連絡先交換したけど、花城からは何も来ないし、俺から電話しても、何を話したらいいか…。それに今日、あんなことがあったし…。
あ〜〜〜、どうしよ…。

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