021

「あのっ…!こ、これ…!」

他のクラスの女の子から差し出されたのは、手作りのクッキー。中学の頃から剣道で全国大会に出るようになって、テレビの取材を受けたこともあって、そこそこ顔が知られている私は、こうして時々女の子からプレゼントをもらうことがある。…ラブレター貰ったこともあったっけ。

「あ〜、ありがとう」

笑顔で受け取ると、女の子は嬉しそうにはにかんで、もじもじした。

「あの、それで…あの…聞きたいことがあるんですけど…」
「?…何?」

付き合ってる人いるんですか、とか、女も恋愛対象ですか、とかかなー、と、経験をもとにぼんやり考えていると、女の子は意を決して声を絞り出した。

「は…花城さんと付き合ってるんですかっ!?」
「え?」

花城…。え、光と!?え〜、そういう風に見られちゃうのか…。光ゴメ〜ン…。

「いやいや、光は友達だよ。」
「え…?そうなんですか…?」
「うん」

…なんかちょっと残念そうに見えるのは気のせい?

「そうですか…。」

女の子は呟いて、ちらっ、と私を見上げた。

「でも…あの…。」
「?」
「お…お似合いだと思います!」
「え…?」

返答に困り、沈黙が流れると、失礼します!と女の子は頭を下げ、走っていってしまった。
…光、巻き込んでごめん…!!!



***



「また貰ったの?」

教室でクッキーをぽりぽり食べていると、どこかへ行っていた光が戻ってきて私の席の所へ来て、そう言った。

「んー。食べる?」
「いらない…太っちゃう」
「ちょっとは太らないと、おっぱい大きくならないぞ!」
「……。」

光は目を細めて私を睨んだ。後ろの席の東条君が不自然な咳払いをした。あ〜、聞いてたな?東条君。

「ねっ、東条君もおっぱいおっきいほうが好きだよねー。」
「えっ…、な、なんだよ急に」

振り返って巻き込むと、東条君は迷惑そうに顔を赤らめて苦笑した。

「男は皆おっきい方が好きだよねぇ?」
「し、知らないよ…」
「また〜〜〜!恥ずかしがっちゃって。遠慮しないで言っちゃえホラホラ!」
「…お、俺は」

東条君はうつ向いたまま、赤い顔で言った。

「大きさなんて…す、好きな人なら、関係ないと思うけど」
「おお〜〜!さすが東条君!イケメーン!」
「…からかうなよ…」

東条君は参ったように机に突っ伏した。いじめすぎちゃった。

「でもね〜。残念ながら…御幸先輩はおっきい方が好きなんだって。」
「…なんで私を見て言うの?」

御幸先輩、という名前を聞いて、東条君は私と光を見比べた。

「まぁ大丈夫だよ光は!可愛いから!」
「何が?」

ふん、とあくまで興味がないように振舞う光。
でも私知ってるもんね、芸能人に興味がない光が、御幸先輩が好きだっていうあの女優のこと調べてたの…。

「それかおっぱいって揉むと大きくなるらしいよ。」
「…あっそ。」
「あっ、自分で揉んだんじゃだめだよ?好きな人に揉んでもらうと良いんだって!」
「……。」
「御幸先輩に揉んでもらったら?」
「えっ、花城そうなの?」
「違う!!もう司いいかげんにして!」



***



「そういえばさあ、どうなったの?下着泥棒の件。」
「……。」

帰り道、私は竹刀袋で肩を叩きながら尋ねた。光は疲れた顔で首を横に振った。

「まだ…。」
「そっか〜…。早く捕まるといいね。」
「うん…。」
「今度私見張っててみようかな?」
「いや…危ないよ…」
「え〜そのへんのおっさんには負けない自信あるよ。竹刀持ってさ〜」
「だめ。」

光はぴしゃりと言って、それから照れ臭そうに呟いた。

「でも…ありがとう」

ああもう、やっぱり光ってツンデレ。

「え〜えへへへ」
「…何?」
「いやあ〜、もし私が男だったら、絶対光のこと好きになってるな〜って」
「なにそれ?」
「だってぇ光可愛いんだも〜ん」

肩を抱き寄せると光は迷惑そうな顔でされるがままになった。

「っていうか今日さ〜、光と付き合ってるんですかって聞かれちゃった」
「え?誰に?」
「クッキー貰った子〜。」
「へぇ…」
「お似合いだって。あははは」

あっ、と私は前方に見えた人影を見て声を上げた。

「結城せんぱーい!」

大声で呼んで手を振ると、先輩は立ち止まって振り返り、私たちが追い付くのを待ってくれた。

「お疲れさまでーす!」
「鷹野と花城。お疲れ。」
「今帰りですか?早いですね」
「ああ。もう野球部は引退したからな。」
「あ、そっか!」

家が近所同士、私たちは固まって歩き始めた。

「あ、そうだ!この間もらった梨美味しかったです!おばさんによろしく伝えてください!」
「梨?」

結城先輩は一瞬疑問符を浮かべたけど、まあいいかと思ったのか、すぐにわかったと頷いた。
結城先輩のお母さんは会うたびにいろんなものをくれる。野菜とか果物とか、作りすぎたおかずとか。それでうちのお母さんもお返しにいろんなものを私に持たせてお使いさせる。道で会えばお母さん同士話したりするらしいし、多分うちのお母さんと結城先輩のお母さんは仲のいいご近所さんだ。
そうこうしているうちに、コンビニ方面と川方面の分岐点に差し掛かり、結城先輩がコンビニ方面に行こうとしたのに対して、私と光は川方面へ向かおうとした。

「どこか行くのか?」

私たちの家は皆コンビニ方面の道から帰った方が近い。結城先輩の質問はもっともだった。

「あ〜…実はコンビニのとこで何度か、危なそうな人たちに絡まれたことがあって。それからこっちから帰るようにしてるんです」

誰が、というのは省いたけど、光はすまなそうにして、結城先輩も大体事情を察したらしかった。光が中学生の時、この辺でストーカーに連れて行かれそうになった事件も近所では密かに有名だ。そうでなくても光は、とっても人目を惹く美人だし…。

「そうか。じゃあ、俺もそっちから帰ろう」

結城先輩は微笑んで、私たちに付き合った。

「いいんですか?すいません。」
「いや、そんなに変わらんさ。」

結城先輩はさらりと答えた。結城先輩って、こうしてみるとカッコいいよなぁ。背高いし、顔も男前だし。性格もしっかりしてて、面倒見も良いし。

「花城、元気か?」
「は…はい。」
「そうか、よかった。」

口数が少ない光にもさりげなく声を掛けて。すごい人だなぁ結城先輩…

「あ。ありがとうございました!」

私の家の前について、私は立ち止まった。

「光また明日!気を付けてね!」
「うん。」
「それじゃあ。」

私が庭に入って行くと、光と結城先輩はそのまま歩いて行った。
そこでふと、違和感を覚えた。あれ、そういえば、結城先輩の家って…。
…あっ!とっくに通り過ぎてる!!

私が振り返ると、結城先輩は当たり前のように光と歩いていく。
…うわ〜、さすが、カッコイイ。何も言わないってとこがまた…。
御幸先輩に強敵…かも。

「ただいま〜。」
「おかえり。」

リビングに入って行くと、にやけた私の顔を見てお母さんが微笑んで片眉を上げた。
そこで、兄貴がどたばたとリビングにやって来る。

「おいちょっと、司!」
「なーに、うるさいなぁ…」
「今光ちゃんと歩いてった奴、誰!」

キッチンに立つお母さんがちょっと肩を震わせた。笑ってる。

「え〜〜知りたいぃ?」
「そういうのいいから早く言え!!」
「それが人にものを頼む態度〜〜?」
「お前な…!!…チッ、教えてください!」
「舌打ちが聞こえたんだけどー。」
「あーもう!頼むから!」
「はーあ…兄貴とさっきの先輩同い年なのに、なんでこんなに違うんだろ。」
「え!?俺と同い年!?」
「ほらほら二人とも、もうご飯できるから着替えてきなさい。」
「はーい。」
「司!ちゃんと教えろって!」

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