「じゃあこれ、御幸君と倉持君のシフトだから。よろしくね」
「おー」
クラス委員長から手渡された紙を見て、倉持と顔を見合わせた。
「テメーと一緒かよ」
「良かったじゃんお前友達いないし」
「どの口が言ってんだ殺すぞ」
同じ部活だし1年から同じクラスだし、なんだかんだいつも一緒にいる倉持とはセットで扱われることが多い。
それにしても…
「もうすぐ文化祭か〜」
…俺が思ってたことを倉持が呟いた。
「お前誰かと約束した?」
「特に。」
「ふーん…」
まあ今年もコイツと過ごすことになるんだろうな…と考えて、多分倉持も今同じこと思ってるな…と考えた。
…花城のことを考えなかったわけじゃないけど…。…無理だ無理、誘えるわけない。
「花城さん」
ぽつり、と倉持が呟いた。
「はあ?」
あまりにも俺の考えを言い当てるものだから、俺は咄嗟に言い返した。しかし倉持は前を向いていて、視線の先を指さした。
「ほらあそこ。」
言われた方を見ると、倉持の驚いたような顔の理由が分かった。
…花城と…哲さんが話してる。
「え…あの二人知り合い?」
「さあ…」
倉持の問いに首を傾げる。冷静を装ったけど、胸の中はざわついていた。
「…じゃあ部活終わったら…裏門で待ってますね」
「ああ。」
近づいていくと、そんな会話が聞こえた。
あの花城が、裏門で待ってますね、だと…!?一緒に帰るのか?それともどこか行くのか?まさか…付き合って…?
「ん…御幸に倉持?」
哲さんが振り向いて、俺も倉持もハッとした。
「こ…こんにちは」
「お疲れさまです」
「ああ。何してるんだ?」
無言で顔を見合わせる俺たち。
「…特に何も。」
「あの…哲さんは…」
倉持が言いかけて、哲さんと花城を見比べた。哲さんは花城を見つめ、ああ、と呟いた。
「1年の花城だ。」
「…いや…知ってますけど」
「そうなのか?」
ダメだ、この人いまいち掴めねぇ…!相変わらず天然だ。
「仲良い…んですね」
「そうか?」
「……。」
「……。」
…どういう関係ですか…という一言が聞けない。
花城は…。…相変わらず目が合わないし。
「すいませーん!ちょっと通りまーす!」
廊下の向こうから木材を運んできた生徒が言い、俺たちは廊下の端に避けた。
慌ただしく通り過ぎていく人たちを見て、哲さんは感慨深そうに呟いた。
「もうすぐ文化祭だな。」
哲さんにとっては高校最後の文化祭…。思い入れもあるだろう。
「そうですね。」
「御幸たちのクラスは何をやるんだ?」
「ウチはたこ焼き屋ッス。」
「そうなのか。食べに行くよ。」
「ヒャハハ、哲さんならおまけしますよ!」
「哲さんのクラスは?」
「俺のクラスはお化け屋敷だそうだ。」
「お〜、文化祭の目玉ッスね」
「…花城は?」
なるべく自然に、話の流れで尋ねると、花城はやっと、少しだけ俺を見た。
「…カフェです」
しかしすぐに頬を赤くして俯いてしまう。そんなに俺が怖いかね…
「へー、俺行こうっと!」
倉持はるんるんでそんなことを言うが、俺が行かないと言ったら一人で行く気なのだろうか。まあ、付き合うけど。
「楽しみだな。」
哲さんが花城に微笑んでそう言った。あれ?と思う間に、花城もちょっと微笑みを浮かべて、はい、と頷いた。
……もしかして、花城…。…哲さんと文化祭、周るのか?
「あ、御幸君いた!」
たったった、と駆け寄ってきた女子生徒。飯田だ。ちょっと気恥ずかしくて、俺は倉持達を気にした。花城もいるし…。…いや、関係ないか…花城は何とも思わないよな…。
「あ…ごめん、話し中?」
「いや…平気。何?」
倉持がニヤニヤ見てくるのを睨み、少し離れて飯田と向き合った。
「あのね、文化祭のことでお願いがあって…。」
どきり、とした。もしかして…誘われる?
「…何?」
緊張しながら尋ねると、飯田は倉持達の方を気にしてはにかんだ。
「ちょっと、あっちで…。いい?」
「あー…」
俺は後ろを振り返る。ニヤニヤする倉持、微笑む哲さん、そして顔を背けて立っている花城。
「…いいよ。行こう」
俺は頷いて、飯田と一緒に歩き出した。
人のいない渡り廊下まで来ると、飯田は俺に向き直った。手を前で組んで強調される胸の膨らみ。やっぱデカい。
「ごめんね、急に」
飯田は笑顔でそう前置きした。
「いや。…それで?」
「あ、うん…。…あのさ。もしよかったら…ぶ、文化祭、空いてる時間…一緒に回らない…?」
ドキン。…飯田を意識してるわけじゃないけど、さすがに女子から誘われれば心臓も跳ねる。
「…あー…」
どうしよ…。いいよ、って言ったら…飯田、多分期待するよな…。
俺は飯田のことが好き…ってわけじゃないし…いや、それより…文化祭で飯田と一緒にいるところを花城が見て、誤解したらと思うと…それは嫌だな、と思う。
…花城を誘えるわけでもないんだけど。
「…ごめん、倉持と約束してんだ」
「あ…。そ、そっか。」
悪い倉持。
わかった、じゃあね、と飯田は先に戻っていった。
…なんか、やっぱ前に言ったこと…通じてないような。それかあえて知らんぷりされてる?
まさか話しかけるななんて言えねーし。あー…めんどくせぇ…。
「……。」
立ち去ろうとしたとき、向こうの窓からニヤニヤこっちを見ている鷹野と目が合った。
「…何見てんだよお前ー」
「偶然ですよ!」
鷹野は笑いながらこっちに来て、飯田が去っていった方を見た。
「っていうか誰ですか今の巨乳の人!!」
「…お前には恥じらいってもんがねーのか」
「バカな兄貴と弟がいるのにいちいち恥じらってられませんよ!」
へー、男兄弟いるのか…。なんかイメージに合ってるかも。
「それで?誰ですか?もしかして告白?」
「ちげーよ。つーか声デケーよ」
「これが地声なんです」
「ボリュームを下げろ」
「御幸先輩やっぱり巨乳好きなんだぁ…なんかショックー」
「なんだそれ。別にどっち派でもねーよ」
「えっ?ちっちゃくてもオッケーですか?」
「……。だから、別にどうでもいいって…」
何でこんな恥ずかしい話してんだ、俺は…。
「よかった〜!光が喜びます!」
「…は…はぁ?」
「あとで伝えておきます!」
「おいバカ!やめろ!変なこと言うなよ!?」
「え〜なんでですか?」
「ただでさえ嫌われてんだからマジで余計なことすんな!」
「え…」
鷹野は目をぱちぱち瞬いて、俺の顔をまじまじと見た。
「…なんだよ」
「別に何でもないでーす。じゃ!次体育なんで!」
「おい、マジで変なこと言うなよ!?」
「はいはーい」
…大丈夫かな…ほんと…。
あいつ協力するとか言ってたけど、ろくなことしてねーじゃねーか…。