023

「なぁ東条…」

昼休み、三木が真剣な顔で俺の席にやって来た。

「何?」
「…花城さんのメアドとか知ってる?」

あ…三木、まだ花城のこと諦めてないんだ…。
…ってそれはちょっと失礼か。

「いや、知らない。」
「え!?…そっか」

三木が驚いたことに俺はちょっと驚いた。俺って花城とそんなに仲良く見えるのか…。俺も話すとき、いまだに緊張するんだけどな。

「…やっぱ鷹野に聞くしかないか…」
「……。」

え〜…直接本人に聞く選択肢は…?

「あーもう、どうすりゃいいんだよー…。東条、どうやって花城さんと仲良くなったの?」
「え…普通だよ。」
「普通ぅ〜〜!?」
「あ…いやほら、急に一緒に帰ろうとか、連絡先聞くとかはさ…花城もびっくりするじゃん。まずふつーに挨拶するようにしてみたら?」
「挨拶から!?おい東条、文化祭はもうすぐなんだぞ!」

文化祭。あ、そうか…

「…花城を誘いたいってこと?」
「そ…!そりゃ、そうできたら最高だけどさ…」

できるよ、とは、さすがに言えなかった。第三者から見ても、花城が三木に好意的な感情を持ってるようにはどうも見えなくて…。

「あー…そっか…。が、がんばれ」
「何だよその言い方〜!無理みたいに言うなよ!」
「い、いや、わかんないじゃんまだ」
「どうせ無理だよ〜!」

ちくしょー、と三木が俺の席の横に座り込んで突っ伏して、どうしたものかと思っていると、ふわりと花の香りがした。

「ねえ東条、……。」

後ろからやってきた花城が、ハッと三木に気づいてちょっと躊躇ったのだった。三木は花城に気づくとすぐに立ち上がって気まずそうに俺を見た。

「どしたの?花城。」
「あ…。あの…司見た…?」
「鷹野?さっきどっか行ったけど…」
「そ、そっか。ごめん。」

花城はそれだけ確認すると、自分の席で次の体育の準備を始めた。三木には目もくれない…。三木は自虐気味な目で俺を見た。

「ひっかり〜!」

と、その時、ハイテンションな鷹野が教室に飛び込んできて、花城に駆け寄った。

「ど、どうしたの?」
「えっへへへ、よかったね光〜!」
「は?」
「御幸先輩がね、……」

鷹野は花城の耳元に口を寄せて内緒話をした。すると、花城の顔がじわじわと赤くなった。

「…は!?」

花城は真っ赤な顔で鷹野を見て、体育着入れを机に落とした。

「な、何言ってんのあの変態…」
「え〜〜〜安心したくせに〜〜〜」
「別にどうでもいい!」

な、なんだ…。気になるな…。

「でもヤバいよ光!」
「こ、今度は何…」
「御幸先輩を狙う巨乳女が!」
「は…はぁ?」
「御幸先輩のこと文化祭に誘ってたの!どうすんのとられちゃうよ!?」
「み、御幸先輩なんてどうでもいいから!」

ふん、とそっぽを向く花城。事態を飲み込めないでいる三木が、説明を求めるように俺を見た。あとで色々聞かれそうだな…って、俺もよく知らないんだけど…。

「その先輩マジでやばいの!こんな!」

鷹野は胸の前で大きく山を描いて見せた。花城はそれを睨んで、怒ったようなため息を吐いた。

「…あっそ。」
「御幸先輩が誘惑されちゃうよ〜?どうするの?」
「どうもしないってば!関係ないし」
「え〜御幸先輩のこと文化祭に誘わないの?」
「なんで?」
「だって〜…ねぇ?」

ねぇ?と鷹野が同意を求めたのは、なぜか俺だった。

「いや、ねぇって言われても…。」
「それに、誘おうと思ってた人がいるし。」

苦笑いする俺にかまわず、花城は堂々と言い放った。
鷹野も俺も三木も一瞬ぽかんとして、鷹野は身を乗り出した。

「えっ!?誰!?男!?」
「うん。」

えっ…!?
つい三木を見ると、三木も俺を見ていた。

「えっウソ!?誰!?あ、結城先輩!?」
「違う。」
「えっ、じゃあ…東条君だ!」
「え!?」
「違うってば。」

ち、ちがうのか…。

「え…。まさか…」

鷹野は青ざめた顔で、怯えるように言った。

「み、三木…?」
「えっ」

聞いていた三木が頬を赤くして、期待に満ちた目で花城を見た。

「…違う」
「……。」

しかしぼそりと返答があって、三木は砂になってしまいそうなほど真っ白になった。

「え〜じゃあ誰ぇ?私も知ってる人?」
「どうかな」
「なにそれ〜!教えてよー!」

花城はちょっと考えて、鷹野を見上げた。

「真田先輩。」
「さなだ…?」

鷹野の頭にはてなマークが浮かんだ。
俺も首を傾げた。さなだ…なんて人、青道にいたっけ?俺が知らないだけかもしれないけど。それに、真田と言えば、思い浮かぶのは薬師高校のエースの人だけど…。

「他校の人だから、司は知らないかもね。」

花城の言葉に、俺はつい口を挟んだ。

「えっ、もしかして薬師の…?」

花城の青い瞳が俺を見た。

「…よく知ってるね」

え…?ほ、本当に?あの人?

「あ…でもそっか、東条野球部だから?」
「う、うん。何度か見たことあるってだけだけど」
「えー有名な人なの?」
「うん、薬師のエースだよ。」
「へー!?イケメン?」
「え、うん、そうだな…カッコいい人だよ」
「マジ!?やるじゃん光!!」
「うるさい。」

花城は恥ずかしそうに顔を赤くしたけど、三木はもう消えてしまいそうなほどに打ちひしがれていた。

「いつ知り合ったのー!?」
「夏休み中に、野球部の練習試合で来てたみたいで」
「え〜〜私も見たかった〜〜」

花城と鷹野は話しながら体育着を持って教室を出て行った。次は体育だから着替えに行ったのだろう。
俺は俺の机に突っ伏している三木を見た。

「三木…生きてる?」
「…死んでる…」

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