花城さんに電話番号を渡してから早くも1か月。
もうあきらめかけたとき、その瞬間は訪れた。
『不在着信:090-XXXX-XXXX』
知らない番号だ…。
一瞬携帯を閉じかけて、ふと思いつく。
もしかして花城さん……?
…いや、でももう1か月経ってるし…間違い電話の可能性のが高いよな。
あんま期待しないように…
「どうした?」
バットを振っていた平畠が手を止め、スポーツドリンクを飲みながら聞いてきた。
「ちょっと電話」
「?」
ごくり…。
唾を飲み込み、あまり期待しすぎるな、と言い聞かせながら、発信ボタンを押した。
――プルルルル……プルルルル……
プルルルル……プルルルル……プルルルッ
『…もしもし』
可愛らしい女の子の声が響いてきた。
「真田ッス。あの…」
『あ…。』
どちら様ですか、と聞く前に、その可愛らしい声が答えた。
『花城です…こんばんは。』
「俊平?」
何ニヤけてんだ、と平畠の訝しげな顔が言っていた。ニヤけもするって。まさか今になって花城さんから電話がかかってくるなんて。
「こっ…こんばんは!」
きょどって少し噛んだ。俺の異変に気付いた奴らが集まってきて、誰だ女かと騒ぎ始めた。
「電話ありがとうございます!めちゃくちゃ待ってました!」
でも恥ずかしがってなんていられない。花城さんと次いつ会えるかわからないんだから、今猛アピールしておかないと…!ただでさえ…御幸一也と親しそうだったし。それに花城さんくらい可愛い子なら、学校でもモテモテだろうし。
『……。』
電話の向こうでかすかに笑う気配がした。…照れてんのかな…あ〜〜想像しただけで可愛いな〜〜。
「げ、元気だった?」
『…はい。』
「そ、そりゃよかった…」
『……。』
「……。」
…ヤベェ何話そう!?女の子にアピールってどうすりゃいいんだ。
『…あの』
「あ、はい!?」
と、思ったら、花城さんの方から話してくれた。
『再来週の土曜日か日曜日って…予定空いてますか?』
「え…?」
『うちの学校、文化祭で…もしよかったら』
え…おいおい、マジで?マジで!?
『…一緒に回りませんか?』
「……!!!」
「真田先輩どうしたんスか?」
「女だと」
「え!?彼女いたんですか!?」
「あんなサナーダ初めて見た…」
「えっとちょっと待って!再来週…再来週の土曜か日曜…」
俺は大慌てで周りを見渡し、ベンチ横のカレンダーに駆け寄った。練習試合の予定は…。…よし!!土曜日の午後ならなんとか…!!
「土曜の午後なら行けます!!!」
『あ…。は、はい…』
ヤベッ、興奮しすぎた…
「た、楽しみにしてます。」
『…はい。』
「着いたら電話しますね」
『はい。』
ああ、もう電話が終わってしまう。
『それじゃあ…また』
「ま、また…。」
――プツン。電話が切れた。
俺はどこかまだ夢見心地で、呆然としながら携帯を閉じた。
「俊平…誰?」
そう尋ねた平畠を振り返った俺の顔は、多分緩み切っていた。
「すんげ〜〜〜可愛い女の子!」
「え!?マジで彼女ッスか!?」
「いやまだだけど…」
まだだけど…絶対ゲットして見せる!
文化祭誘われるって、かなり脈ありじゃねーか?
ヤバイ、期待が止まらねぇ…!
***
「花城さん!」
待ちに待った文化祭当日。校門を入ったところに一際目を惹く花城さんの姿を見つけ、俺の胸は高鳴る。
花城さんが振り返り、微笑むと、俺の後をついてきた薬師の皆がどよめいた。
「こんにちは…。」
そのどよめきに驚きつつ、花城さんは俺を見上げる。
俺は今日こんなかわいい子と二人で…。くぅ〜〜〜〜〜ヤバイ!来てよかった…!!
「あ、こいつらは…気にしないで。ほら!もうどっか遊びに行ってこい!」
「は、はい」
「三島!秋葉!雷市から目ぇ離すなよ」
「はい!」
ちらちらと振り返って噂しながら去っていく薬師のみんなを見送って、俺は花城さんを見つめた。
やばい…可愛すぎる…。
「あ、あの…。」
思わず見つめすぎて、花城さんは恥ずかしそうに視線を外した。そんなところも可愛い…!
「ごめん、可愛すぎて」
「えっ…えっと…。」
「い、行こうぜ。」
「…はい。」
花城さんと並んで歩くと世界が違って見えた。なんか…すべてが輝いて見える…。空気も美味しく感じる…。
「あの、これ…パンフレットです」
「あ、ああ、ありがとう」
花城さんが小さな冊子を手渡してくれて、俺はそれを開いた。
「気になるところとか、ありますか?」
なんて気の利く優しい子なんだ、花城さん。こんな可愛いうえに優しさまで兼ね備えてるのか。完璧じゃねーか。
「いやもう花城さんと一緒にいるだけで幸せだから…」
「え?」
「なんつって、ははは…」
は…、と俺は息をのんだ。
花城さんが顔を真っ赤にして俯いてしまったからだ。綺麗な髪で顔が隠れてしまったけど、ここから見える耳まで赤い…。あー、もう、ほんと、可愛すぎるって…!
俺は叫びだしたくなる気持ちを、くうう、と堪えて、つい無意識のうちにパンフレットを握りつぶした。