「え!?花城さんの彼氏!?」
文化祭初日の昼下がり。それまで平和だったクラスの出し物のカフェ店内に、女子たちの声が響いた。
見ると、教室の入り口には花城と薬師の真田さんが連れ立って立っていて、どうやらお客さんとしてきたようだった。
「ち、違うって。友達…」
「えーカッコいい!」
「イケメン!」
「背ぇ高いですねー!」
「筋肉すごーい!」
花城は顔を赤くして否定していたけど、真田さんは嬉しそうで、取り囲む女子たちもはしゃいでいる。
「東条!」
と、裏方でドリンクを作っていたはずの三木がやってきた。
「あ、あいつ!?例の奴って」
「あ…うん。薬師の真田さん。」
「……。」
イケメンだ…、と三木から絶望の声が聞こえた気がした。
「くそ…長身爽やか筋肉もりもりイケメンじゃねーか…」
「み、三木だっていい奴だよ」
「お前ほどじゃねーよ東条…」
三木は泣きそうな顔で、席に着く花城と真田さんを眺める。
真田さんはというと、気恥ずかしそうに花城に見惚れていて、花城も時々はにかみながら、なんだかいい雰囲気に見えた。
「ほら三木!注文入ってるよ」
「いて!」
女子が注文票で三木の額を叩いて行って、三木は渋々裏方に戻っていった。
俺もかなり二人の様子が気になりながら、ウエイターの仕事の為教室内を見渡す。お客さんは結構入っていて、今はあいている席が一つか二つあるだけだ。
すると、花城がこっちを振り返り、目が合った。ドキッとした直後、花城が微笑んで手招きしてきた。……あっ、そうか、注文か!
俺はポケットからメモ帳とボールペンを取り出しながら駆け付けた。
「はい!注文?」
うん、と花城が頷く。本格的だなー、と、真田さんが感心したように呟く。
「アイスティーと…」
花城が言って、真田さんを見た。
「あ、同じで…」
「はい!アイスティーおふたつですね。」
頬を緩めて言う真田さんに若干戸惑いながら、俺はメモを取った。
なんか…試合中の勇ましい姿しか見たことないから、新鮮だ…。
俺は注文を裏方に伝えに行き、また教室を見渡せる位置に戻った。
真田さんはぽーっと花城に見惚れ、花城が恥ずかしそうに窓の方を見ると、参った様子で俯いた。
「…いや〜〜、ごめん、ずっとニヤニヤしてて…」
「そんなこと…」
…な、なんか…見てる方が恥ずかしいぞ…。
「いや、マジで夢みたいだから。今日誘ってくれて本当にありがとう」
「……。」
花城は頬を赤らめ、ぎこちなくはにかむ。その表情でまた真田さんは顔が緩んで、堪えきれない様子で口元を手で覆って、横を向いて深呼吸した。真田さん…花城にべた惚れって感じだな…。
「…あ〜〜〜、俺も青道通いたかったなぁ…」
「え…?」
「…なんつったらアイツらに怒られそうだけど。でも…花城さんと同じガッコに通いたかったなーって」
「……。」
「まあ…でも出会えただけ幸せだわ!」
ははは、と真田さんが笑い、花城も微笑む。だけどその笑顔はどこか心ここにあらずと言った様子で、花城は時々教室の入り口…廊下の方を見ていた。
「東条君これお願い!」
「あ、うん!」
裏方からアイスティーが二つ出され、俺はそれを花城たちの席に運んだ。
「お待たせしました。」
二人の邪魔にならないよう、グラスを二つ置き、すぐに踵を返す。
「…あのさ、はっきり伝えておきたいんだけど」
その背中に、真田さんの声が聞こえて、俺はつい耳を澄ました。
「え…?」
「俺、本気だから。」
ドキッとした。真田さん、すごい積極的…。野球と同じだ。この人はいつも、挑戦的なプレーをする。ピンチになるほど楽しそうに…
「花城さんから電話来た時、すげー嬉しかったし…普段会えない分、今日はたくさん思い出作ろうと思ってるから。」
「……。」
「次に会うときまで、花城さんが俺のこと忘れないように」
「……。」
花城…どんな顔してるんだろ…?
気になって気になって、俺はこっそり振り向いた。
花城は…
「……。」
赤い顔で俯いていた。照れてるんだろうけど、その横顔は…どこか困惑が混じってるように見えた。
「東条くーん!これお願い!」
「あ…うん!」
それから俺は忙しくて、二人がどんな話をしたのか、わからなくなった。
二人はしばらく話をしながらお茶を飲んで、それから、いつの間にか教室を出て行った。