026

「おい!司!」
「ん?」

すれ違いざま呼び止められて振り向くと、そこには嫌って程見慣れた顔があった。

「なんだ兄貴か」
「おい行くな!待てよ」

兄貴の後ろで兄貴の友達が笑ってる。兄貴はボクシングをやっていてそこそこ有名で、スポーツ推薦で私とは違う高校に通っている。ちなみに弟はサッカーをやっていて、この間青道へのスポーツ推薦が決まった。私は県道で青道に来たし、父親は元ラグビー選手で、母親は元水泳の選手。要するにスポーツ一家だ。更にみんな違うスポーツをやっているから、かなり珍しがられたりする。
今も兄貴の友達が、物珍しそうに私を見ていた。

「この子が勝の妹?」
「可愛いじゃん」

そういう友達に同意しかねると言わんばかりの目を向ける兄貴。

「え〜〜可愛いだなんてそんなしょーじきすぎますって〜!」
「な、男っ気ない理由わかるだろ」

ちら、と兄貴を睨むと、しまった、と兄貴の顔が固まった。さすが察するのだけは早い。

「そんなこと言うなら私もう行くから〜」
「だから待てって!ごめん!ごめんなさい!」
「もーしょうがないなぁ…それで?何の用?」
「光ちゃんどこ?」

やっぱりか。

「光ね〜…」
「…なんだよ?」
「…ほんとに会いたい〜?」
「はぁ…?」

兄貴は間抜けな顔で首を傾げ、馬鹿正直に頷いた。可愛い子がいると聞いてきたらしい友達も興味津々に成り行きを見守っている。

「しょうがないな〜。…あ、すいません!」

私は通りかかった青道生を呼び止めた。

「花城光、どこかで見ました?」
「さっき体育館の前に居ましたよ。」
「ありがとうございます!」

ぽかーん、と突っ立っている兄貴たちを振り返った。

「ほら行くよ。」

光は有名人だから、その辺の青道生に聞けば大体居場所はわかるのだ。
私は兄貴たちを引き連れて体育館の方へ向かった。



***



「あ、いたいた」

私が立ち止まると、兄貴たちも立ち止まった。人混みの中に、ひときわ目立つ光の姿を見つけたのだ。

「あそこにいるよ」

兄貴を振り返り、光の方を指さしたけど、兄貴ももう光を見つけたようだった。

「おっほんとだ!さんきゅー」
「えっあの子!?」
「うわ超可愛いじゃん」
「だろー?」

兄貴はもう私は用済みだと言うように、友達と盛り上がって嬉々として光の方へ行こうとし、…そして立ち止まった。

「…えっ!?誰アイツ!?」

光の隣にいる真田さんに気が付いたのだ。

「あー、真田先輩?」
「真田!?誰!?」
「彼氏じゃないよ?」
「え?な、なんだ…」

兄貴が安堵したのもつかの間。

「今日光が誘ったらしいけどね〜。」
「…えっ…」

真田さんは仕切りに光を見つめ、光は恥ずかしそうにはにかみながら、赤い顔で真田さんを見上げる。真田さんは結構男前だし、鍛えているだけあって周りの高校生たちと比べて体格もよく目立つ。それはボクシングをしていて鍛えた筋肉が自慢の兄貴のプライドにもかかわることだった。

「声かけてみればぁ?」
「……。」

兄貴はしばらく迷った後で、数歩踏み出し、それから私の所へ戻ってきた。

「…一緒に来てくれ」
「え〜〜〜〜?」
「いいじゃん!お前光ちゃんと友達だろ!?」
「そりゃー私は光の大親友だけどさ〜〜…私がいないと声もかけらんないわけぇ?もしかして真田先輩にビビってんの?あの人2年だよ」
「う…うるせぇな!いいから来いって!」
「じゃあ今週のお風呂掃除兄貴ね」
「…っわかったよ!」

「鷹野家の力関係がわかるわー」
「やめてやれw」

友達に笑われながら、兄貴は私と連れ立って光に歩み寄った。

「光〜」

私が声を掛けると、振り返った光は笑顔を浮かべる。可愛すぎる。

「司。」

友達です、と光は真田さんに私を紹介した。ども、と気さくな挨拶をくれた真田さんは、ちらりと私の兄貴を見た。

「あ、私の兄貴だよ。覚えてる?」

光は中学の頃私の家の前で偶然兄貴に数回出くわしただけで、最後に会ったのももう半年くらい前だ。兄貴は窓から見ていたようだけど。

「もちろん。お久しぶりです。」
「あ…ハハハ、ひ、久しぶり…」

にっこり、光が頷いて挨拶すると、兄貴は見てわかるほど舞い上がった。帰ったら死ぬほど馬鹿にしてやろ。

「あれ、兄貴?」

と、そこへ聞きなれた声がした。

「姉貴も。」

そう言って近づいてきたのは、弟の尊だった。中学の友達と来たらしい。

「お前何高校の文化祭なんか来てるんだよ」
「別にいいじゃん。進学先なんだから」

兄貴がいつもの調子で尊をどやしたけど、尊もいつもの調子で飄々と言い返した。

「光先輩こんにちは。」
「こんにちは。」

弟さんだよね、という光に頷いた。そうそう、尊はちゃっかりしてるからなー。兄貴よりうまいこと光に接近したな。

「俺、青道にスポーツ推薦もらえることになったんですよ。来年からよろしくお願いします。」
「へー、おめでとう。何やってるんだっけ?」
「サッカーです。」

そっか〜、と微笑む光に、兄貴も真田さんも若干置いてきぼりになっている。ほんと末っ子はちゃっかり者っていうけど、その通りだよな〜。

「光先輩と一緒の学校で嬉しいです!」
「な〜に言ってんだ、稲実蹴って青道選んだくせに…」
「そりゃ青道の方が家から近いから。」
「……。」

だめだ、兄貴バカだから口じゃ尊に勝てない。いつものことだけど。

「光先輩の彼氏さんですか?」

尊が真田さんを見て物おじせず尋ねた。小心者の兄貴はそんなこと聞けなかっただろうに。

「えっ?違う違う」

光がちょっと赤くなって否定する。だけど真田さんは尊の言葉で嬉しそうに光を見つめてはにかんだ。

「俺はそうなってほしいんだけどね。」

さらりととんでもないことを言ってのけた真田さんに、光は顔を真っ赤にして真田さんを見上げ、兄貴は石のように固まった。

「まあ光先輩はキレイだから、そう思ってる男はいっぱいいますよね。」

しかし尊はにっこり笑ってそう言い返した。わ、わが弟ながら恐ろしい。真田さんもこれには苦笑して、侮れないなとばかりに尊を見た。
その時だった。突然空気をぶち破るような大声が響いた。

「あ〜〜〜〜!光ちゃん見ーーーっけ!!」

どたばたと駆け寄ってきた男の人が、兄貴と弟の間に割り込んで、光の両手を握った。

「光ちゃん久しぶり!!も〜〜めっちゃ探したよ!!」
「え…」

光は目を丸くして、自分の両手を握っている男の人を見る。

「成宮じゃん。…何してんの?いきなり」

真田さんが光の手を握る成宮さんを睨みつけた。

「真田?お前こそ何でここにいんの?」

お前薬師だろ?と成宮さんが睨み返すと、真田さんは光の手を成宮さんの手から奪い取った。

「花城さんが文化祭に誘ってくれたんだよ。」

ふふん、と勝ち誇るように言う真田さん。成宮さんはしばらくぽかんとして、真田さんと光を見比べて、はぁ?と首をひねった。

「…お前があぁ〜〜?」
「そーだよ。なっ、花城さん♪」

光は苦笑しながらうなずいた。手を握られたままなのが恥ずかしいらしい。

「そんな!!嘘でしょ光ちゃん!!こんなやつ…俺のほうが野球センスも顔も上だよ!?」
「お〜〜言うねぇ〜」
「初めて出会ったあの日からずっとまた光ちゃんに会えるのを楽しみにしてたのに!!」
「…あの…」

光はぎこちなく、本当に申し訳なさそうに言った。

「…どこかで会いましたっけ…」

てん、てん、てん。成宮さんは言葉を失った。真田さんは噴出した。

「ええええ!?光ちゃんどうして!!」
「ご、ごめんなさい」
「俺だよ!俺!5月に駅前で会ったでしょ!!一也たちもいてさぁ!」
「……。」
「ブッククク…あきらめろ成宮」
「光ちゃああああん」

「おい…何騒いでんだよ鳴」

するとまたまた現れる男。今度は御幸先輩だ。倉持先輩もいる。
御幸先輩は成宮さんと真田さん、そして真田さんに手を握られている光、それから私たち三兄弟を見て、のんびり歩み寄ってきた。そして見知らぬ私の兄貴と弟を見、説明を求めるように私を見た。

「あ。うちの兄貴と弟でーす」

そういうと、やっぱり、とでもいうように御幸先輩は笑った。

「似てると思った。どうも」
「ど…ども」
「はじめまして。」

さわやかに挨拶するイケメンに怯む兄貴と、品定めるように見る弟。

「で…お前らは何してんの?」

こっちが本題とばかりに、御幸先輩は光と光を奪い合う二人の男を見た。

「ちょっと一也!真田が光ちゃんのこと独り占めしてるんだよ!ズルいと思わない!?」
「なんだそりゃ」
「何言ってんだよ。花城さんが誘ったのは俺なんだぜ?いい加減あきらめろ」

にやにやする真田さんを成宮さんは睨みつけた。

「フン!文化祭誘われたくらいで調子乗ってんじゃねーよ!ねぇ光ちゃん、別にこいつのこと好きでも何でもないよね!?」
「え…。」

光は返答に困ったように苦笑した。そりゃ、好きとも嫌いともいえないだろう。この状況じゃねぇ…。

「ほら!返事に困ってるってことはそんなに好きじゃないってことだね」
「お前な〜…」
「光ちゃん!このあと俺とどっか行こうよ!」
「おい!今日は俺が約束してんだっつの」
「騒ぐなよお前ら」

光を奪い合うみんなを前に、兄貴と弟は完全に蚊帳の外になってしまった。

「光、超モテモテだね〜」
「……。」
「……。」

私がつぶやくと、兄貴も弟もがっくりと項垂れた。

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