「あっ!鳴さんいた!」
真田と成宮が花城を取り合って収拾がつかなくなってきたころ、稲実の1年の多田野がやってきて成宮に駆け寄った。
「もう!勝手にふらふら歩きまわらないでくださいよ!もう帰りますよ!皆もう校門に集まってるんですから」
「は〜〜!?お前何様なわけ!?俺が今日ここに来たのは光ちゃんに会うためなんだよ!!」
光ちゃん、と聞いて、多田野は花城を見て、一瞬硬直した。
「……そ、そんなこと言ってももう学校に戻らないとダメですよ!!」
「あっ今お前光ちゃんに見惚れたろ」
「い、い、いい加減にしてくださいよもう!!」
「見惚れた見惚れた〜。まー光ちゃんはお前になんて全く興味ないけどな?」
「鳴さん!!!!」
「あ〜うっさいな!わかってるよもーそんなガミガミ言わなくても!」
成宮はまた花城の手を取ってぎゅっと握った。
「光ちゃんじゃあまたね!絶対また会いに来るから!俺のこと忘れないでね!」
「は、はぁ…」
「っていうかヤバッ!光ちゃんの手すっげぇすべっすべ」
「さっさと帰れよスケベ」
思わず突っ込むと、うるさい!と舌を出された。
多田野はそんな成宮を引きずるようにして帰っていった。1年なのに苦労が多くてかわいそうだ。
「じゃ…俺らも行こうか花城さん。」
真田が負けじと花城の手を握って言った。
「……あ、えっと…はい」
花城はその手を抜き取って、髪を直すしぐさをして、無意味に袖口を直したりして、腕を組んだ。ごまかしたようだけど、手をつなぎたくなかったみたいだ。真田は決まりが悪そうに苦笑して頬を掻いた。
「おい御幸。お前もそろそろ時間だろ?」
すると倉持がにやにやしながら言った。くそ、せっかく忘れかけてたのに。
「あ〜…うーん…」
「なんだよ。逃げんなよ?」
「いや…もうよくない?行かなくても」
「何言ってんだ!早く行くぞホラ!」
「え〜〜〜」
「何、どこ行くんだよ?」
俺の反応に興味をそそられたらしく、真田が尋ねてきた。
倉持はよくぞ聞いてくれたとばかりに満面の笑みで俺を指さした。
「コイツこれからミスターコン出るんだぜw野球部代表w」
「へー、おもしろそう」
「面白がるな。失礼な」
「花城さん、見に行かない?」
な、何?恥ずかしすぎるんですけど。
「いいですよ。」
花城がうなずく。まじか…こっそり終わらせようと思ってたのに…
「ヒャハハ、じゃあ行こうぜ」
「あーーもーー最悪」
***
自己紹介で弄られ、歌を歌わされ、コスプレをさせられ、さんざん恥をかかされた後、ミニゲームということでミスターコンの出場者が壇上に集められた。
「それでは出場者の方にはくじを引いていただき、そのお題にあった人物を壇上に連れてきていただきます!」
目の前に差し出された箱から紙を一枚抜き取った。それを開くと、そこには「今日一緒に過ごしたい人」と書かれていた。
ステージの下の花城を見ると、隣の真田と笑顔で何かを話している。結構、いい感じじゃん…。真田からあんな催促のメールが来たから、花城は真田に電話をする気がないんだとどこかで安心してた。だけど…文化祭に誘ったのは花城らしいし…。
まあ…真田はモテそうだし、かなり積極的だし、花城があいつに惚れたとしても理解でき……
……。あ〜〜、やっぱ嫌だ。
「それでは、制限時間は5分!校舎のほうへ探しに行ってもいいですよ!お題にあった方を連れて戻ってきてください!ようい、スタート!」
10人ほどの出場者が一斉に壇上を降りた。俺も階段を降り、まっすぐ花城のもとへ向かう。いち早く俺に気付いた真田が、まるで待ち構えるようににやりと笑った。やっぱり来たか、というような笑みで。
「……。」
花城の前まで来ると、花城は俺を見上げ、目を逸らす。まさか自分じゃないよね、と、逃げるように…
「真田。」
「…何?」
真田は花城を見て、俺を見た。花城を連れていきたいんだろう、と、真田の目は見透かしていた。
確かに俺は花城と文化祭を過ごせたら…って想像しなかったわけじゃない。そんな夢みたいなことができたらいいのにと思った。花城には嫌われてるかもしれないけど、それでも、諦めたくない。
「……。一緒に来てほしいんだけど」
目を逸らされた花城から、真田に視線を移した。
「だってさ。どうする?花城さん。」
「え…私?」
花城が困惑気味に俺と真田を見上げた。俺は花城を見つめ、その頬が赤くなるのを見て…真田を見た。
「いや。真田に来てほしいんだけど」
きょとん、と真田の目が瞬いた。
「…は?」
「早く。制限時間あんだから」
「え?なんで俺?」
「いいから」
俺は拍子抜けしてへらへらしている真田の肩を抱き、花城を振り向いた。
「彼氏借りるぜ。」
「……。」
豆鉄砲を食らったような顔をした花城が何か言う前に、俺は真田を連れて立ち去った。
…彼氏、って。空元気でわざとそういう言い方したけど、なんで自分で自分の言葉にショック受けてんだ俺…バカ。
「彼氏って…。」
ふっ、と真田が噴出した。
「うるせえ。ニヤニヤしてんじゃねえ」
「お前が言ったんじゃん…」
真田と壇上に戻って定位置に立つと、しばらくして、出場者が全員戻ってきた。
「…はい!皆さん戻られたようですね。それでは1番の方から順番に紹介していただきましょう!」
皆大体友達を連れてきたようで、教師や後輩を連れて戻ってきたやつもいた。
女子を連れて戻ってきたやつもいたが、どうやらお題が「大好きな人」で、彼女を連れてきたらしい。
「…それでは8番!御幸一也君のお題は!?」
司会者が俺のくじを手に取って読み上げる。
「えー…『今日一緒に過ごしたい人』!ですね!」
はい?と隣の真田が俺を見た。
「こちらの方はご友人ですか?」
「そうです!」
俺は無理やり真田と肩を組んだ。
「大親友の俊平君です!薬師高校2年生です」
「大親友…?」
真田の声をマイクが拾って、会場内に爆笑が沸き起こった。
「おや?俊平君は困惑しているようですが」
「御幸ー!テメー友達なんていねーだろが!」
司会者の突っ込みに倉持のヤジまで飛んできて、野球部のブーイングの大合唱まで起こり、会場はさらに笑い声であふれる。
「俊平今日は一緒に過ごそうぜ!よろしくな!」
「……。」
ひたすら苦笑いする真田にまた笑いが起こりつつ、司会者は次の出場者の前へ移動した。
「…そういうことか。」
司会者が離れて、真田がつぶやいた。
「お前、案外意気地なしだな〜」
……バレてるか、さすがに。花城を誘う勇気がなくて、ひとまず、二人の仲を邪魔しようと強引に真田を連れてきたこと…。
俺も咄嗟にやってしまって、今となっては何でこんなことをしたのか自分で自分が理解できない。
「……それでは最後に、シード枠として推薦された出場者を紹介しまーす!」
司会者が声を張り上げると、会場が待ちかねたように沸いた。そういやそんなシステムあったな。去年は同じクラスのモテ男である、サッカー部の速水が選ばれてたっけ。女子は確か…誰だったかな。
「これは本人にもまだ伝えられていないので、今ここでサプライズ発表となります!全校生徒から選ばれた美男美女が見たい方は、明日正午からのミスコン決勝戦を見に来てくださいねー!」
歓声が沸き、収まるのを待って、スポットライトが司会者を照らし出す。
「…では!まずミスター青道シード枠に推薦されたイケメンの発表です!…2年B組、速水悠斗君!」
キャー!と黄色い歓声が上がった。また速水か。あいつ、イケメンだし女子にも優しいからなー。隠れたファンクラブもあるっていうし。
「そして…ミス青道シード枠に推薦された美女の発表です!…1年A組、花城光さん!」
うおおー!!と、先ほどの歓声を上回る野太い雄たけびが上がった。体育館全体が揺れたように感じるほどの。…花城がミスコン推薦って…マジか!?確かに、ウチのガッコで…いや、それ以前に、花城ほど可愛い子なんて、そうそういないけど…!
でも、ミスコンに選ばれたってことは…。
「というわけで!明日の決勝戦はシード枠の出場者も参加していただきます!気になる決勝戦の内容は…観客の皆様からの投票、そして、ミス・ミスター出場者同士で投票を行い、出場者からの票は1人50点として扱います!なので多くの出場者のハートを射止めれば、大逆転の可能性もありますねー!そしてその中で相思相愛になったカップルには、後夜祭のダンスパーティーでファーストダンスを踊ってもらいまーす!」
俺はステージの下の人だかりの中に、花城の姿を探した。ひときわ人目を惹く花城はすぐに見つかり、案の定、困惑の顔をしていた。青ざめているといってもいい。そりゃ、男嫌いで俺が少し肩に触れただけで飛び上がっていた花城が、男とダンスなんてできるわけがない。…多分。
花城が優勝するのは簡単だ。俺が花城を選ばなくたって、きっとほかの男の出場者はほとんど花城を選ぶだろうから無意味な工作だし、俺だって花城ならともかく他のよく知らない女子とダンスするのも、その子に気があると思われるのも嫌だし。
でも、花城は…大丈夫なのか?
「それではシード枠を含めた出場者一覧は広間の特設掲示板にて貼り出しますので、みなさん、ふるって投票お願いしまーす!」
会場に拍手があふれる中、おい、と真田が俺を小突いた。
「花城さんが誰か男とダンスするかもしれないってこと?」
「…そう言ってただろ」
「ずいぶん横暴なミスコンだなぁオイ…!」
真田は焦った様子で腕を組み、溜息を吐いた。
「あ〜…!俺明日は来れねぇんだよな〜」
「来たところでできることは何もないと思うけどな。」
「あ?」
「ハイ!では、ミスコンのステージは以上となります!ステージの皆様、お戻りください!この後14時から、ブラスバンド部のコンサートになります!」
司会者に急かされるようにしてステージを降りると、真田はすぐに花城を探しに行った。一瞬後を追いかけようとしたけど思いとどまり、適当に人ごみの中を進んでいく。
すると人込みをかき分けて、倉持がやってきた。
「おい!シード枠、花城さんだったな」
「まー、当然じゃねぇ?」
「お、それってカワイイって思ってるってコト?」
ヒャハハと面白そうに笑う倉持。何が面白いんだか。
下手に否定しても余計からかわれそうだし、面倒くさい。
「あ〜面倒くさい」
「んだとコラ!おい待てよ!」