翌日登校して、教室に入ると席に座っている花城さんとその隣に立っている鷹野さんを見て、ちょっと緊張する。
昨日のことがあったし、挨拶しても…
「あ…。」
そんなドキドキを抱えて席に向かったところで、俺が声をかけるより前に、花城さんが俺を見て立ち上がった。
「…おはよう。」
「お…おはよう!」
は、花城さんから挨拶された…!?
鷹野さんも、「おはよ〜」と手を振ってくれる。
周りの男子は驚いた顔で俺たちを見守っている。
「東条君、昨日…本当にありがとう」
「え!?いや!大したことしてないよ!全然!」
花城さんが俺の目を見てる…。や、やばい。顔が熱い。と思っていると、花城さんも赤い顔でうつむいた。
…か…可愛い…!!
「な〜〜に赤くなってんのぉ?」
「え…!な、なってないって!」
鷹野さんに揶揄われ、俺は我に返って席に荷物を置いた。
せっかく花城さんが声掛けてくれるようになったのに、気まずくなるようなこと言わないでくれよ…!
「二人とも、あのあと大丈夫だったの?」
「うん!片岡先生に家まで送ってもらったぁ〜。」
「へー、じゃあ安心だな。」
「昨日の男たち、片岡先生のこと絶対危ない人だと思ってたよね〜!w」
「あはは、監督見た目怖いもんな」
「監督?」
「ああ、片岡先生は野球部の監督なんだよ。」
俺の説明を聞き、鷹野さんは腑に落ちたように口を丸く開け、ああ!と声を出して頷いた。
「だから昨日二人とも礼儀正しかったんだ〜!」
「え…、あはは…。」
「片岡先生って部活ではそんなに怖いの?厳しい?」
「うん、まあ…厳しいけど…高校球児にとって監督は天敵みたいなものだからなぁ。」
「あははは!なにそれ!」
鷹野さんがケラケラ笑いだすと、花城さんも頬を緩めて上品に笑った。…俺の話で笑った…!
感動していると、無情にもチャイムが鳴ってしまう。ああ、もう少し話したかった…。
鷹野さんが慌てて席に着き、俺も前を向いて座りなおし、まだ胸がどきどきして落ち着かないのだった。
***
「東条!昨日何があったんだよ!?」
昼休み、鷹野さんと花城さんが教室からいなくなるとすぐに俺は男子たちに取り囲まれた。その中には花城さんに気があるという三木という男子もいた。
「何で花城さんと仲良くなってんの!?」
「いや…そういうわけじゃ…」
「朝話してたじゃん!」
「昨日たまたま、コンビニで会ったんだよ」
俺の説明に、まだ物足りなげな皆。それだけじゃないに決まってる、もっと言うなら、自分たちも花城さんと仲良くなれるきっかけのヒントが、何かあるはず…そう期待する目に囲まれて、俺は少し困った。
昨日のことは想定外の出来事で、言いふらすようなことでもないし、結果的に花城さんと少しだけ仲良くなれて、俺は嬉しい。でも、それを利用するみたいで、複雑な気持ちもちょっとだけある。
「なぁ東条!ほんとは何があったんだよ!?」
「い、いやいや…!」
「教えて!マジで!なんでもするから!あっ、ジュース奢るから!」
「えっ、えぇ…」
うーん、と頬を掻き、鷹野さんと花城さんが教室にいないことをもう一度確かめて、三木達を見る。
「…昨日の夜コンビニで二人に会ったとき、花城さんが怖そうな人たちにナンパされてさ」
「え!?」
「で…信二…B組の金丸信二とちょっと間に入って…で、ちょうど片岡先生が来て、その人たちは逃げたんだけど…」
「……。」
「それだけだよ」
三木達は顔を見合わせ、また俺を見た。
「えぇ〜!なんかそれ…ズリィな〜〜!」
「いいなぁ東条、ラッキーじゃん!」
ら、ラッキーって…。花城さんは怖い目に遭ったんだけどな…。
「いやーでも、マジで怖かったよ。」
「俺もその場に居たかった〜!!」
「どこのコンビニ!?花城さんよく行くのかな!?」
「学校の裏のローソンだけど…よく行くかはわからないかな…」
「学校の裏!?俺もそっち行くようにしよ!」
「今日帰り行く?」
な、なんか…言わないほうがよかったかもしれない…。
***
廊下に鷹野さんがいるのを見つけたら、鷹野さんは気さくに手を振ってくれた。
鷹野さんは男女分け隔てなく気さくで明るくて、話しやすい。まだ入学式からさほど経っていないのに、もうすっかりクラスの中心的な存在になっている。
「鷹野さん。誰か待ってるの?」
鷹野さんは職員室のプレートを見上げて笑った。
「うん、光をね。今先生と話してるから」
「ふーん…?」
「東条君はどこ行くとこ?」
「俺は自販機の帰り。」
買ってきたファンタを見せると、ああ、と鷹野さんは頷いた。
「東条君、三木達に何か言われてないー?」
「え?」
三木達に言われたこと…といえば花城さんのことだけど、鷹野さんに言っていいものか。
「いや…特に?」
「ほんと?私三木になんで光と東条君が話すようになったのかしつこく聞かれたんだけど。」
「……。」
はは、とつい苦笑いがもれると、鷹野さんはやっぱりというように目を細めて笑った。
「あいつ光のこと狙ってるよねー。」
「まあ…うーん、花城さん、モテそうだしな」
「そりゃあモテるよ!可愛いし。中学の時もモテモテだったもん。」
「えっ、…そうなの?」
「うん、でも光男嫌いで…」
あっ、と鷹野さんは口に手を当てて、ごめ〜ん、と笑った。俺も一応男だということを思い出して気を遣ったらしい。
「…何で男嫌いなの?」
「ん〜…」
鷹野さんは口をもにょもにょさせて、困ったように俺を見上げた。
「ちょっと…いろいろあったんだよね」
「…いろいろ?」
「それに、恋愛とか苦手だって言ってたなぁ〜。ほら、光モテるから、三木みたいに好意丸出しの男子とかいっぱいいてさ、そういうのも嫌みたい…」
職員室のドアが開き、鷹野さんはあっと口を噤んだ。
出てきた花城さんは不思議そうに俺と鷹野さんを見比べる。
「あっ…じゃあ東条君、またね!」
「あ、うん!じゃあ…」
鷹野さんとぎこちなく手を振り、去っていく二人の後ろ姿を少し見送って距離を置いてから、俺も教室に向かった。