029

倉持から逃げるように体育館を出たところで、速水と出くわすと、速水は眉を持ち上げて俺たちを見た。

「御幸、明日よろしく。」
「…はあ」

明日、同じミスターコン出場者としてよろしく、ということだろう。よろしくというのもよくわからないが。

「…なあ、御幸って1年の花城さんと仲良かったよな?」
「え?」

すると速水が突拍子もないことを言ってきたので、俺は目を丸くし、追いついてきた倉持はニヤニヤと成り行きの野次馬を始めた。

「別に…知り合いってだけだけど」
「そうなの?前、付き合ってるとか噂になってたじゃん。」
「誰が言ったかも知らねーデマだし。」

本当は麻生だってわかってるけど…なんであんなやつ庇ってんだ俺。

「ふうん…じゃあ、今日花城さんと一緒にいた男、知ってる?」

ドキリと心臓が跳ねた。こりゃ、噂になるんだろうな…花城が他校の男と文化祭デートしてたって。なんなら、彼氏だろうって。面白くねー。

「あー…真田な。野球部だから知ってるよ」
「へーそうなんだ。あいつ、彼氏ではないみたいだけど、実際どうなの?」

速水は笑顔ではあるものの、少しいら立った様子で聞いてきた。何かあったらしい。

「別に、どうもこうもねーだろ。俺も特に何も聞いてないけど?」

花城、男嫌いだし。…今日のはただの気まぐれ…であってほしい。

「ふーん…」

速水はそれでも面白くなさそうに、校舎のほうを見つめて目を細めた。

「なんで?」

女にもてていつも余裕の笑顔でいるこいつがこんな苛立った態度なのは珍しい。興味本位で聞くと、速水はため息交じりに答えた。

「別に。結構強引な感じの奴だったからさ…」
「強引?」

確かに真田は積極的な奴だけど…。

「さっきも、俺がちょっと話してたら強引に花城さんの腕引っ張って行っちゃってさ。花城さん迷惑してんじゃねーかなーって…」
「…どこ行った?」
「え?」
「どこに行ったんだよ。」

花城の腕を引っ張って?あんな男が苦手で、怖がりで、泣き虫な花城の?
少し胸騒ぎがした。

「…あっちのほう歩いてったけど」

速水が差したほうに向かって、俺は急いで歩いた。倉持を置いてけぼりにしたのも忘れ、途中から駆け足で人ごみの間を縫っていく。この人ごみの先で、花城と真田が、普通に楽しそうに歩いている…そんな想像もしたけど、俺の足は止まらずに走り続けた。
すると、校舎裏のほうから、どこか呆然とした真田が歩いて来るのを見つけた。

「おい!」

俺が呼びかけると、真田は驚いた顔で俺に気が付いて、歩いてきた。

「…花城は一緒じゃねーのか?」

少し嫌な予感がして聞くと、真田はバツが悪そうに頭をかいた。

「いや…、」
「何かあったのか?」
「なんでそんなこと聞くんだよ?」
「お前と一緒にいねぇからだよ。何かあったんだろ」
「……。」

真田は観念したように、ポツリと話し始めた。

「…静かなとこでゆっくり話そうとして…」

こいつが歩いてきたのは…校舎裏のほう。花城の腕をつかんで、ひと気のない校舎裏に連れ込もうとしたわけか…。

「言っとくけど、別に何もしようとしてねーぞ!?俺あの子のこと本気だし、変なことなんてしねえし…」
「どーでもいいけど、花城は怖かったかもしれねぇだろ。」
「それは…、」

悲痛な面持ちになる真田。悪気がないのは分かったが…。

「…あいつ、男嫌いなんだよ」
「…え?」

真田は目を丸くしたが、すぐに納得したようにうなずいた。

「ああ…モテすぎて?」
「いや…、まあ、それもあるかもしれねーけど…」

こんな軽々しく、言っていい話じゃねーとは思うけど…。
そうじゃないとこいつ、また強引な迫り方をしかねないからな…。

「花城は昔、タチの悪いストーカーの被害に遭って…男性恐怖症みたいなモンなんだよ」
「え…、」

真田の顔が青ざめた。

「…マジ?そんな深刻な感じ?」
「そーだよ。お前、花城の腕掴んだらしいな。」
「え…あぁ…」
「…ストーカーにも腕つかまれて、車に連れ込まれそうになったことあるんだぞ、あいつ。」
「……。」
「自分より力が強い男に腕つかまれて、ひと気のないほうに連れていかれて…怖かったと思うぞ」

真田の顔はもはや白くなって、冷や汗が浮かんだ。

「…で、花城は?」

改めて尋ねると、真田は観念したように後ろのほうを指さし、つぶやいた。

「そこで…急に、泣き出しちゃって。走ってどっか行っちまって…」
「……。」

俺は眉間を寄せ、考える間も惜しくて、真田を置いて駆け出した。



***




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