「どーすんの〜?」
「やめろよ…」

ジュエルが肩にのしかかって威圧してくるのを、タルは迷惑そうにあしらった。
今日は訓練場に新人騎士達が集められ、今後パーティーを組む4人のメンバーを決めることになっている。

すでに前日までに話し合いを終え、4人組が決まっている者たちもちらほら見える中、タルの目には、アンに声をかけたそうにそわそわと視線を送る男たちが見て取れた。

この4人組は、これから騎士団員として何年も、何十年も仕事をしていく中で、ずっと苦楽を共にするメンバーだ。人生を左右するといってもいい。同じ船に乗り、同じ苦難を乗り越え、まさしく死に分たれるまで、命運を共にする仲間たちだ。

確かに、今声をかけなければ、きっと、一生後悔する…。

アンは友人であるポーラを振り向き、柔らかな笑みを浮かべ、小さく唇を動かす。
あの笑顔が、自分に向けられたら。これ以上に望むことはない。

「……。」
「おっ!行く!?」

足を踏み出したタルを、ジュエルは嬉々として追いかけた。
その時。

「みなさん、注目!」

おっと、とジュエルが足を踏みとどまった。
訓練場の檀上に、副団長であるカタリナが立っていた。手には羊皮紙を持っている。

「これからメンバーを決める前に、紋章兵に選抜された者を発表します。名前を呼ばれた者はこちらで班を割り振るため、私のところへ集まるように!」

「あ〜、そっか、これがあった…!」

ジュエルが口をゆがめて額を打った。
紋章兵とは、これまでの見習い期間中で、特に紋章使いに秀でた者を団長と副団長で選抜し、組んだ4人組の各白兵パーティーに一人ずつ配分するものだ。これは紋章使いと近接武器使いを均等に割り振るためと、戦局を大きく左右する紋章砲を、どのパーティーも問題なく使用できるようにするためでもあり、パーティーのパワーバランスが大きく崩れないようにするため、必須の措置である。

「では、発表します!マルコ、レオン、トーレン、グリッド、グレース、ミルティン、リネン、エバ、バリオン…」

タルはつばを飲み込み、カタリナの声に耳を集中させた。自身の名が呼ばれるかもしれないからではない。紋章は、自分は基礎的なことができる程度で、とても向いているとは言えない。タルが危惧しているのは、自分の意中の相手…アンだ。アンは、誰もが感嘆するほど、入団試験の時から紋章の扱いに秀でていた。彼女が紋章士に育てられたことと関係があるかもしれないが、彼女自身、紋章に向いている、とよく副団長も褒めていた。
アンが紋章兵に選ばれてしまったら、彼女の班は団長と副団長が決めることになるため、もう誘えなくなってしまう。
どうか、神様、どうか…!
タルはすがる思いで願った。

「…リーニエ、ギド、マックス…そして、アン。以上の者は私の所へ来てちょうだい。」
「…!」

タルは思わず膝から崩れ落ちて地面に手をついた。ジュエルはちょっと面白がる笑みを抑えきれない浮ついた声で、あららら、とつぶやいた。
アンは残念そうにポーラに手を振り、副団長のもとへ歩いていく。その姿を、タルだけでなくほかの男子数名も、名残惜しそうに見つめていた。

「…さあ、では残った者で4人組の班を作って!」

カタリナの号令で、訓練場内は一気ににぎやかになった。



***



「どーすんのよ、タル!」

周りは続々と4人組ができ始めている。うなだれたままのタルをジュエルがせっつくと、タルはその大きな背中を一層丸めた。

「もうどうでもいいかな…」
「ったく、情けないんだから!まだ、アンが同じ班に振り分けられる可能性はあるじゃない!」
「かなり低いけどな…」
「もー!」

「タル、ジュエル。」

と、そこへ声をかけてきたのは、スノウとカイだった。後ろにはポーラとケネスもいる。

「まだ決まってないなら、もしよかったら、ちょっと僕らと組んで手合わせしてみないかい?チームワークを取りやすいメンバーで組みたくてね。」

スノウがそう言うのを、カイは従うように黙って聞いている。
確かに、スノウとカイ、ケネス、ポーラ、アン、そしてジュエルとタルは、見習い時によく組んで訓練を行った。アンは紋章兵に選ばれてしまったので選べないが、残ったこの6人の中から4人組を作れば、ある程度連携は取りやすいだろう。

「うん!いいよー」

ジュエルが二つ返事で了承し、何度かメンバーを入れ替えてほかの4人組パーティーと手合わせを行ったのち、スノウがカイを振り返った。

「どう思う?僕は、どの組み合わせでもいい感じだと思ったけど。君が決めていいよ。」

カイの静かな海のような瞳が、全員を見渡した。

「…ケネスと…ジュエルかな。」
「ああ、いいぜ。」
「オッケー!」

「……。」

タルは少し落胆して、同じく残されたポーラを見た。ポーラもタルを見上げたため、思いがけず目が合った。

「では、私たちは別のチームをあたりましょう。」
「あ、ああ…そうだな。」

アンと仲のいいポーラだが、アン以上に物静かで、実はタルは少しポーラのことが苦手だ。
ジュエルもよく言うが、ポーラはエルフで、表情も乏しく、何を考えているのか今一つつかめないところがある。
悪い人ではないことは、わかるのだが。

幸いあと2人探していたチームに入れてもらうことができ、訓練場の喧騒が少し落ち着くと、待っていたかのようにカタリナが声を上げた。

「チームが決まったようですね。それではこれから、紋章兵の振り分けの発表を行います。」

ごくり。タルはまた喉を鳴らした。
アンは…どこのチームに配属されるのだろうか。

「まず…スノウ班!」

カタリナが、背後に控える紋章兵組を振り返る。

「…アン!スノウ班についてちょうだい。」
「…は、はい。」

名前を呼ばれて少し驚いたように言葉に詰まったアンが、軽い駆け足でスノウたちのもとへ駆け寄っていく。
お…終わった…。
タルはまた膝から崩れ落ちそうになるのを何とかこらえた。

「キエラ班は…マルコ。リッド班は、レオン。…」

そしてカタリナの声が、だんだんと遠のいていくのだった。


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