009


全校朝礼から教室へ戻る道すがら。
全校生徒がぞろぞろと廊下を歩いている人ごみの中、倉持と連れ立って歩いていると、野球部3年の面々につかまった。

「お前らホント仲いいね。いつも一緒じゃん」
「亮さんやめてくださいよ!同じクラスだから仕方なく!」
「そうですよ。こいつに友達がいないから仕方なく…」
「んだとクソメガネ!」

仲いいなぁ、ホントホント、と先輩たちにからかわれながら歩いていると、哲さんが「あ…」と小さく呟き、誰かを追いかけるように歩く足を速めた。

「花城。」

そう、呼び止めたのは、少し前を歩いていた花城の背中だった。振り向いた花城は、周りの生徒たちに注目されて少し居心地が悪そうに肩をすくめた。
俺は哲さんと花城が知り合いであることを思い出しながら、それでも目の前でこうして話しているのを見ると少し不思議な気持ちで、つい二人の会話に耳を向けた。

「鷹野から聞いたぞ。今日、鷹野が休みなんだろう。帰りは一人なのか?」
「…そう、ですけど」

亮さんたちも一歩下がったところで二人の会話に耳を傾けている。

「鷹野から帰りは送ってやってくれと連絡がきたんだ。」
「え…。あの、大丈夫です。すみません。」
「遠慮するな。ストーカーがいるんだろ?」

「え!?」

俺はつい、声を出してしまった。

「ストーカーって?」
「……。」

会話に口を挟むと、花城は迷惑そうに俺を見た。

「なんでもないです。大丈夫ですから」
「待ち伏せしている奴がいると聞いたぞ。」
「家、近いですし」
「いや、遅い時間だし、断られても絶対送ってやってくれと鷹野に頼まれたんだ」
「そんな…。でも…。」

「送ってもらえよ。何かあってからじゃ遅いんだぞ。」
「……。」

たまらずまた口を挟むと、また迷惑そうに俺を見る花城。
そうしているうちに、予鈴が鳴ってしまった。

「…じゃあ、練習が終わったら迎えに行くから、教室にいてくれ。」
「…でも」
「じゃあな。」

哲さんは有無を言わせずそう言って、亮さんたちと急いで階段を上がっていった。

「花城、哲さんと帰れよな。」
「……。」

俺もそう念押しして、倉持と一緒に階段へ向かった。



***



練習終わり、帰宅組が荷物をまとめ、ぞろぞろと帰り始める。

「哲さん、花城を送ってくんですよね?」

更衣室を出る哲さんにそう声をかけると、ああ、といつも通りの穏やかな笑顔が返ってきた。

「花城が待ってくれてたらな。」
「それは…。…あ」

校舎と寮の間の校門のところに花城が立っていた。花城は哲さんに気が付くと、ぺこりと頭を下げた。哲さんは足を速め、花城に歩み寄る。

「ここまで来てくれたのか、悪いな。」
「いえ…こちらこそ。」

申し訳なさそうにお辞儀をする花城。

「じゃあな、御幸。」
「あ…はい。気を付けて。」

二人に向かって声をかけると、哲さんはああ、とうなずき、花城は小さく会釈をして、二人は並んで歩いて行った。

「帰ったの?」

その後姿を見つけてやってきた亮さんと倉持。
はい、と頷くと、倉持があ〜あと空を仰いだ。

「役得じゃねーか、哲さん。」
「しかも、ストーカーから守るっていう、カッコイイ名目持ちでね」

ニヤニヤと面白がる亮さんに、そうですよ、と倉持は同意してうなずいた。

「でもなんで哲さんが?」
「俺も今日聞いたけど、花城さんと家が近いらしいよ。」
「なんだそれ!うらやましっ!」

ワイワイ盛り上がって、花城のうわさ話に花を咲かせながら練習場へ向かう二遊間。
俺は…哲さんと花城が帰っていった校門を、もう誰もいないと知りながら、こっそりと振り返った。



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