010
6月2週目――夏合宿。
「お前花城さんのこと好きなの?」
「……。」
夜の寮ではいつも以上にお喋りに拍車がかかる。
普段通いの奴も寮に泊まるし、さながら修学旅行の夜のような盛り上がりだ。去年修学旅行行ってねーけど。
「こんなむさくるしい部屋で恋バナかよ。勘弁しろよ」
「ま〜たそうやってはぐらかす」
「この間やけにムキになってたよな〜御幸にしちゃ珍しく」
「え、何の話?」
「花城さんをエロい目で見られてキレてんのw」
「うるせーーーなーーーもおーーー!」
声をあげて掻き消すと、キレたキレた、とまた倉持達が盛り上がって、収拾がつかない。
「へ〜御幸花城さんのことが…」
「へぇ…」
「御幸に好きな子…」
「……。」
じろじろじろ、物珍しいものを面白がるような目が俺に降り注ぐ。
「別に好きとか言ってないじゃん」
「出た出たw」
「勝手に決めんな」
「はいはいw」
「あーおもしれー御幸をからかえる日が来るとは」
「好きじゃないし」
「ヒャッハッハッハwはらいてえw」
くっ…屈辱…。
「お、盛り上がってるじゃん」
「じゃがりこもらうぜぇ〜」
「御幸、探したぞ。一局打とう」
「狭いな…。」
そこへやって来た亮さん、純さん、哲さん、丹波さん。あ、なんか嫌な予感…
「何話してたの?」
「亮さん!それがなんと御幸に…」
「倉持!!」
やめろ、と首を横に振る。ただでさえ亮さんに弱み握られんのも嫌だけど、今ここには丹波さんが…!!!
「何?御幸の弱味でも握った?是非教えてほしいね」
「ヒャハハ!なんと御幸に好きな子がいるんすよw」
「へ〜。誰?」
「御幸の好きな子だとォ!?誰だよ!?」
「俺も興味あるな。」
や…やめろぉ〜〜…!!
「花城さんっす、あの噂の1年の。」
あ〜〜〜言っちゃった…。最悪だ…。
にやーー、と俺を見る亮さんと純さん、ほう、と頷く哲さん、そして…裏切られたような目で俺を見る丹波さん…。
「別に好きなんて言ってねーだろ!!」
「ヒャハハハハ」
「なるほど、御幸がムキになるのは怪しいね」
「お前面食いだな〜!!」
「でも残念だったね。」
「…はい?」
亮さんはニヤニヤ笑いながら爆弾を投下した。
「さっき1年の部屋で聞いたけど、花城さんは東条といい感じらしいよ。」
「マジかよ!?アイツやるな〜!」
「そういや同じクラスとか言ってたっけ」
「ハァ!?東条に花城さんのメアドゲットしたら俺に教えるよう言っといたのに…!!」
「麻生マジ?」
***
ふうん…東条と…ね。
……。……って何モヤモヤしてんだ俺は!これじゃマジで片思いしてるみたいじゃねーか!俺らしくない。
「御幸君。」
「え?」
気が付くとクラスメイトの女子が3人、俺の席の横に立っていた。そのうちの一人が、あの伊藤さんと仲がいい女子だったから、俺は少し身構えた。
「…何?」
「ちょっと聞きたいことがあって…」
だけど3人の態度は遠慮がちで、俺の顔色を窺っていた。
「聞きたいこと?」
「あのね…突然だけど…」
「?」
「1年生の…花城さんって知ってるでしょ」
「あぁ…それが?」
「…あの…」
「…御幸君って、花城さんのこと好きなの?」
「……。」
……倉持か!?言いふらしたのは!!
「…いや別に。」
咄嗟にそう呟いた直後、顔がぶわっと熱くなった。
「……。」
「……。」
「……。」
女子たちはそんな俺の顔を眺めて、顔を見合わせた。も、もうやめてくれ…。
「そ…そっか。」
「わかった…。じゃぁ…」
そそくさと教室を出て行く女子たち。……あ〜〜〜もう〜〜〜〜…最悪…。
***
「言ってねーよ。」
ズココ、と紙パックを鳴らして倉持は言った。
「お前の他に誰がいるんだよ。」
「知らねーよ。麻生か、ゾノか…関か小野か木島?あ、亮さん達かもな。」
「………。」
「しょーがねーよもう野球部には広まっちまってんだからよぉ」
「ニヤニヤしながら言うな。」
「けど俺は寮以外では言ってねーぞ。」
…まあ、倉持は嘘は吐くやつじゃないし…。…大体は。
「まー気にすんなよ、花城さんのこと好きな奴なんて、学年に何十人もいるんだからよ」
「だから俺は別にそういうんじゃねーって!!」
「はいはい」
***
「ちょっと、御幸君、いい?」
夕方、練習後。今度はマネージャー二人…梅本と夏川に呼び出された。人気を避けた体育倉庫の裏に。
「何?」
部活のことで何かあったのかと、二人の真剣な顔を見て思った。
「唯と話してて…言った方がいいと思ったんだけど…」
「学校で話してるとこ見られたらまずいと思って、部活が終わるまで待ったの」
「え…何の話?」
「御幸君、ミカに告られて振ったの?」
「……。」
「伊藤ミカ!C組の!」
な、なんでこの二人がそのことを…。
「…なんで?」
「大事なことだから答えて!」
「……。…まぁ…結構前だけど」
やっぱり、というように二人は顔を見合わせた。何なんだ。
「じゃあ…1年の花城さんのことが好きなの?」
「…はぁ?お前らまで…」
「いーから答えろ!!」
梅本に怒鳴られて、どうやらからかわれているわけではないらしいと気づく。
「…別に…なんで?」
「ミカが花城さんに目ぇつけてるんだよ。」
「は?」
「あんたが花城さんのこと好きって噂が流れてんの。それで、ミカは花城さんのせいでフラれたって思ってんの!」
「何だそれ。」
「とにかくそういうことなの!」
とにかくそういうことらしい。女ってマジ意味不明…
「花城は無関係だし、伊藤に言っといてよ。」
「言えるわけねーだろ!自分で何とかしなさいよ!」
「俺が?どうやって?」
「あんたがやめろって言えばやめるんじゃないの、ミカはあんたのこと好きなんだから」
「…いやいやいや無理だって」
「あたしたちも無理!とにかく伝えたからね」
それだけ言って、梅本たちは踵を返して帰ろうとした。
「ちょっ…梅本!」
「何!」
「目ぇつけられてるって…具体的にどういうことだよ?」
「知らないよ!とにかく…うちらが聞いたのは、ミカが花城さんのことボロクソに言ってることだけ!」
「……。」
「花城さん可愛くてモテるから…まぁ言っちゃえば僻んでる女子たちがミカに同調して、ちょっとヤバい感じなの」
「……。」
「冗談交じりで呼び出してシメるみたいなことも言ってて…まさかほんとにはやらないだろうけど…とにかく気を付けて!」
「は?なんだよそれ」
じゃ!と、梅本たちは今度こそ帰って行ってしまった。
呼び出してシメるって…。…まさかな。
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