009


「これでいいかな?」
「うん!いいと思う!」

授業のグループワークで勇気を出して花城さんを誘った結果……今すごく喜びをかみしめてる。勇気出してよかった、俺…!毎週情報の授業で花城さんと椅子を並べ、一緒に調べ物をする。花城さんは何というか…すごく頭が良い。調べたことをまとめるのも上手いし、調べるべきことを抜き出すのも上手い。そういう意味でも、花城さんと組んでよかった…。

「花城、字綺麗だな〜」
「……。」

きょとん、と花城さんが俺を見たことに気付いて、はっとした。

「…あ!ごめん、呼び捨て…」
「あ、ううん、別に…」
「ごめん!俺普段さん付けしないことの方が多いからさ、つい…」
「いいよ。花城で」

にこ、と花城が笑って、俺の心臓はつつかれたように跳ねる。

「そ…、そう?じゃあ…花城も、東条でいいよ。」
「わかった。」

ちゃっかり、呼び捨てで呼び合う仲に持ち込んで、俺はこっそりごくりと唾を飲みこんだ。だって、花城と呼び捨てで呼び合うなんて…俺だけ、だし。特別な感じがする。
だけど楽しい時間はあっという間で、授業終了のチャイムが鳴り響いた。号令がかかり、皆一斉に情報室を出て教室に戻っていく。

「花城!あのさ…」

その途中で、俺はまた勇気を出して、ずっと気になっていたことを尋ねた。

「3年の…結城先輩と、仲良いの?」

しかし今ひとつ踏み込めず、付き合ってるの?とは聞けなかった。

「仲…良いって言うか…」

付き合ってるの、と俺の想像の中の花城が微笑んで、俺はその想像を振り払った。

「家が近所で…」
「あ、そうなんだ…」
「前…帰る途中で、変な人に声掛けられて」
「え!?」
「でも結城先輩が助けてくれて。それから…帰りが遅くなった日は、送ってくれたり…するの」
「…へぇ…」

優しいよね、と花城が言ったのは、特別な関係じゃないことを示唆しているように思えたのは、俺の都合のいい解釈かもしれないけど。でも…確かに夜道は危ないし。…あれ?だけど、花城って…

「花城、最近は徒歩通学なの?」

前は、車で登校してたはずだけど…。…あのスゴそうな高級車で。

「あ…うん、親の仕事が、忙しくて…」
「そうなんだ。」

…でもあれ…親じゃない…よなぁ…。
花城って…やっぱり、謎が多い…。



***



「花城さーん。」

休み時間、一人の男子が花城に近づいて行った。クラスメイトの一人で、お調子者の男子だ。男子しかいない時間に、花城がタイプだと公言していた一人。彼の友達は、遠巻きに事の成り行きを見守り、ニヤニヤしている。

「メアド交換しない?」

席で本を読んでいた花城は、顔を上げて男子を見上げた。日差しに照らされて肌と紙が白く輝き、瞳は宝石みたいにキラキラしている。

「…それは、ごめん。」

花城は短くそう言った。馬鹿にしたわけでも、周りの注意を引いたわけでもなく、むしろ目立たないように、申し訳なさそうに、小声で首を横に振った。だけど花城は教室中の好奇心に晒されていた。今も、花城と男子のやり取りを、教室中の奴が見ていた。

「…えっ?なんで?」

男子は周りの同調を誘うように、笑いながら周りを見渡し、花城を責めるように言った。

「メアドくらいよくない?」
「……。」

なぁ?と周りを見渡す男子。俯く花城。メアドくらいって…男子の方に下心があるのは誰もがわかる。仲良くなりたいって。それが悪いこととは言わないけど、花城がそれを断るのも自由だ。アプローチして、断られた。それだけのことなのに、男子は花城を責めようとする。皆を味方にして。それは、ズルいやり方だ。

「メアドくらい教えてあげなよ。」

そこに女子の声が響いた。言ったのは卯月さんで、鷹野さんたちは少し驚いた顔で見守っていた。花城は悲しそうに卯月を見たけど、男子は勢いづいた。

「ほら!卯月もこう言ってるじゃん?」
「だって、別にメールくらいさぁ。」
「そうだよなぁ?」

卯月がなぜ男子の味方をするのかわからない。花城と、一緒に遊んだりもしていたのに。それに…鷹野達もどうして止めないんだ。卯月を嗜められるのは鷹野達だけだ。

「…はー?なんだよ、そんなに嫌かよ。」

黙ったままの花城に、男子は威圧的に言った。

「メアド聞いただけなのにさ〜。」
「お前フラれてんじゃんw」
「告ってねーし!」
「お前とは口もききたくないってよw」
「マジさ〜…姫とか言われて調子乗ってんじゃね?」

「…ちょっと。言いすぎだろ」

口を挟んでしまい、クラス中が俺を振り返った。あ…まずかったかな…。でも、あまりに花城が可哀そうで…

「…なんだよ東条?」
「……。」

教室に緊張感が漂った。花城は不安そうに男子たちと俺を見比べている。鷹野や卯月たちも俺の言動を見守っている。皆を敵に回して、孤立するかもしれない。でも…別にいい。花城がひとりで孤立するよりずっといい。

「…花城は…」

俺を見つめる目…。ここで助けたら、ちょっとは意識してもらえるかな…なんて考えてる俺が、一番ズルいかもしれない。

「…普通に断っただけじゃん。責めるのは違うだろ。」
「…別に責めてるわけじゃねーよ…」

男子も花城への好意があるからか、自分の幼稚な態度を恥じたようで、語気を弱めた。

prev next
Back to main nobel
ALICE+