096
「御幸は彼女作らねぇの?」
プロ2年目も半ば。去年は高卒ルーキーでゴールデングロブ賞をもらい、いろいろなテレビや雑誌の取材が殺到した。その中でやっぱり聞かれるのは恋人の話。その話題が出ると未だに、光を思い出して胸がえぐれる。
「…いや〜ないっすね〜全然!」
「何言ってんだ、モテモテじゃんお前」
「イケメンキャッチャー君!」
「やめてくださいよその呼び方は!」
「今日も始球式の子に連絡先聞かれてただろお前〜!」
「いや〜はっはっは…」
本当…うんざりするほど……モテる。
高校時代もモテてたほうだと思う。しょっちゅう倉持達に恨み言言われたし。だけどプロ入りしてからはその比じゃない。先輩に連れられて飲み屋に行けば女の子に囲まれるし、頼まなくても次から次へと女の子の連絡先が届く。その中にはアイドルや女子アナなど芸能界の可愛い子からの誘いも。はっきりいってより取り見取り。
だけど…ずっと光のことが忘れられない。
「高校んときは彼女いたの?」
「いましたよ!」
「は!?おい!」
俺に代わって即答したのはカルロス。今日はこいつのいる球団との試合だった。つーか話聞いてたのかよ…。
「いいじゃん。事実だろ?」
「え?お前ら同じ高校だっけ?」
「違いますけど、俺会ったことあるんですよ。コイツの元カノ。」
「元!?ってことは別れたのか!もったいね〜。高校の時から支えてくれる子なんてレアだぜぇ?」
「そういやなんで別れたの?」
「……うるせーな」
「プロ入りしてもっとレベル高い子期待したのか〜?悪い奴〜」
「いやでもコイツの元カノ超可愛かったですよ。その辺のアイドルより…」
「おい!」
それ以上言うなとカルロスを睨むと、カルロスは降参するようにやれやれと手を上げた。
「…で、その超可愛い元カノとは何で別れたんだよ?」
「…ほっといてください」
***
『……別れよう』
あれからもう1年か…。
あの時…光、どんな顔してたっけ…。
飲み会の帰り、そんなことをぼーっと考えながら、一人タクシーを降りた。
今年やっと球団の寮を出て一人暮らしを始めた。寮暮らしは別に慣れてるからいいんだけど、やっぱり独りのほうが気楽だし、何せ寮が球場から遠いんだよな…。だからうちの球団では寮を出られるようになるとほとんどの奴がマンションに移る。
暗い部屋に帰ってきてまずは電気をつける。寒くなって来たから手洗いうがいもする。麦茶を冷蔵庫から出してグラスに注ぎ、リビングへ行ってテレビをつける。
明日は月曜日。試合がないから少し気が楽だ。
『ネクストシンデレラガール!今年ブレイク必至と言われている、ダイヤモンドの原石を紹介するコーナーです!』
賑やかなバラエティ番組の音楽が流れた。別に興味ないけど、番組変えるのも面倒だな、と言い訳を思い浮かべつつ、俺はぼーっとテレビを眺めた。
『本日のシンデレラガールは、超有名芸能事務所が2年かけてスカウトをして口説き落とした選ばれし美少女!すでに高級ブランドや有名企業からもモデルやCMの依頼が殺到しているとの噂!それではご登場いただきましょう、どうぞ!!』
壇上の赤い垂れ幕が少しずつ上がる。白いパンプスを履いた美脚がのぞき、続いて白いスカートの裾。キュッとしまった細い腰。その前で上品に重ねられた白魚のような美しい手と、細い腕。控えめな胸、華奢な肩……
なんか、光に似てる…。…雰囲気が。なんて……
……え?
『本日のシンデレラガール!超有名芸能事務所から2年間スカウトされ続けた美少女!花城光さんです!』
歓声と拍手に包まれ、キラキラした笑顔で微笑む光がそこにいた。
髪は胸ほどまで伸び、薄く化粧をして少し大人びた光は、その笑顔には当時の面影があって…。
……光だ……。でも…なんで…。結婚は…?
『すごい綺麗!!可愛い!!』
『2年でも10年でもスカウトするわこれは!!』
『今おいくつでしたっけ?』
『18です。』
『じゃあ高校…?』
『卒業したばかりです。』
へえ〜〜、と出演者の、特に男たちが興味津々に頷いた。
光…。本当に光?本物?いや、そうだよな…。
……ますます……綺麗になったな…。
…………恋人とか……できたのかな……。
…いや、光臣はどうなったんだ?
『いや〜〜しかし美人!!』
『ホント!うっとりしちゃいます〜!』
『お人形さんみたい!!』
『こんなん天使や天使!!』
光は出演者たちに褒めそやされ、恥ずかしそうにはにかんだ。その表情がまた、見る者の胸をくすぐって、可愛い〜!と大歓声が上がった。
『さて花城さん、今日は大事なお話があるんですよね?』
『はい。そうなんです。』
司会者からのパスを受け取って、光はカメラの方を向いた。
『私がメインキャストを務めさせていただくドラマ、“The Kingdom Come”の放送が、明日…月曜日の夜9時から始まります。経験も実績もない私が今回このような大役をいただいて、本当に感謝しています。ベテランの共演者さんやスタッフの皆様に支えていただいて、精一杯頑張って、とても見ごたえのある素晴らしいドラマになりましたので、皆さん是非観てください!』
『はい!ドラマ"The Kingdom Come"は、大人気小説「王の帰還」を原作とした長編ドラマで、月曜日の9時から放送開始です!花城さんが演じるのはドラマのメインキャストとなる、王都を追われて荒野をさ迷う元王女“シリラ”。その絶世の美貌と明晰な頭脳そして勇敢さを駆使し、壮大な冒険を通してどのような成長を遂げるのか!?必見です!』
ありがとうございました!と大歓声と拍手に包まれ、光はゲスト席へ座り、次のコーナーが始まった――。
***
『一也!!光ちゃんゲーノー界デビューしたの!?』
「……。」
翌日、さっそく鳴から電話が来た。いや鳴だけじゃない。元青道の、光を知ってる奴らからは軒並み電話やメールが殺到した。ただ、倉持からは来なかったな…。
「それが?」
『それが?じゃねーよ!言えよー!!』
「なんでだよ。つーか俺も昨日知ったし」
『え!?なんで!?彼女でしょ?』
「とっくに別れてるよ」
『…は!!?』
「うるせーな…」
『それこそ早く言えよ!!いつ別れたの!?』
「高校ん時だよ」
『えー!!うわー!!早く言えよ馬鹿!!』
「なんでそんなこと教えなきゃならないの?」
『俺が光ちゃんラブだって知ってるだろ!!』
「……。」
『あっ!!ドラマ始まる!!じゃあね一也!俺忙しいから!!』
プツ、と切れる電話。何が忙しい、だ…。光が出るあのドラマを見るんだろ。
…とか言いつつ、俺もこの時間にテレビの前に待機しちゃってるし。
だって気にならないわけがない。少しでも知りたい…今の光のこと。
光臣とはどうなったのか?どうして芸能界に入ったのか?今、恋人はいるのか…?
壮大なオープニングが流れ始める。原作は俺でも知っている歴史もののファンタジー小説だ。原作が大人気作品であるだけに、相当気合が入ったドラマなのだろう。視聴率次第ではシリーズ化もあり得る、とネットの記事には書かれていた。
光のデビュー作…ってことになるんだよな、これ…。光の演技…想像つかねーけど…。
光はデビューしたてという事もあって、ネットでも情報はほとんど公開されていなかった。身長、体重、年齢、出身地、特技や趣味、…そのくらい。特技は英語、趣味は料理と書いてあった。光のブラウニー…貰った時はすげーうれしかったな…。寮に持って帰って、倉持達に羨まれ…いや、恨まれたりして。
あの頃は本当に幸せだった。光が当たり前に傍に居た毎日。手を伸ばせば届いた距離。
今はテレビの向こう…。
荒野をさ迷い歩く光。ボロボロのマントに身を包んで、砂埃の混じった風に金色の髪をなぶられ、真っ白な肌を汗と泥で汚して……それでも光は綺麗だった。
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