099


「おはよ。」

アイスティーを片手に、花城が隣の席にやってきた。
うちの大学の近くのカフェ。ここで時々花城と会う。
俺は高校を卒業し、大学で野球を続けている。花城は高校卒業して芸能事務所に入って、うちの大学のイベントに来たことがあり、それから時々こうして会うようになった。完全に友達としてだけど…それでも俺は嬉しい。

「花城、なんかあった?」

隣の席でアイスティーを飲んでいた花城が俺を振り向く。

「何か変?」
「いやなんとなく…」
「なんとなく何?」
「…嬉しそう」

花城は眉をひそめ、首を傾げた。

「嬉しいのかなぁ…」
「何、何かあったの?」
「…実は最近、倉持先輩と会ってて」
「…へぇ!?」

驚いて変な声を出してしまい、花城が笑った。

「あはは。何その声」
「いやびっくりして…。え、どこで会ったの?」
「雑誌の撮影で使うビルで。倉持先輩もお仕事でよく来るみたいで。」
「へぇ…」
「今までも何度か誘われてたんだけど、先月くらいから何度か会ってみた」
「へぇ〜…え…付き合うの?」
「わかんない。」
「…付き合って…とか…言われたの?」
「…何度か。」

…ええぇー!?あの倉持先輩が…。
っていうか、花城が御幸先輩と付き合ってたことも知ってるのに…。もしかしてあの頃から好きだったとか…!?
花城…御幸先輩と別れた理由って、未だに話してくれないんだよな…。

「へー…そうなんだ…」
「内緒ね。」

そもそも、ただの大学生の俺が芸能人の花城とこうして会ってることも内緒なのに。
悪戯っぽく笑って言う花城に、俺は照れるのを誤魔化して笑った。



***



「わりぃ遅くなった!!」
「やっと来たか遅刻常習犯!!」

今日は信二、沢村、小湊、降谷と久々に集まった。信二は俺と同じく大学で野球を、小湊は育成選手として球団に所属し、降谷と沢村はドラフトで指名されてプロ野球選手となった。なんだかんだ皆野球を続けていて、集まると居心地がいいメンバーだ。

「いや今日御幸先輩と会ってさ!!色々話してたら遅くなったわ」

すまん!と沢村は言って、俺の隣に座って枝豆を摘まんだ。

「御幸先輩かー…あの人すげぇよな」
「ゴールデングロブに新人賞だもんね。2年目で正捕手だし」
「やっぱ天才なんだな〜」
「腹黒も相変わらずだったけどな!!」
「栄純君…」
「何話したの?」

話を聞いていない風に見えた降谷が尋ねてきて、沢村は顔を上げた。

「ま〜主に俺の球が素晴らしいってことだな!!」
「冗談はいいから本当のこと言って」
「冗談じゃねぇ!!今日ちょっとだけ球受けてもらって褒められたんだからな!!」
「!?ずるい……」
「ワッハッハ!!」

料理が運ばれてきて、それぞれの近況をかたらいながら、高校時代の寮生活を思い出して懐かしい気持ちに浸った。あの頃は楽しかったな…。今も楽しいけど、高校生活はやっぱり特別だ。

「そうだ東条!」
「うん?」
「花城と仲良かったよな?」

ドキッ、と心臓が跳ねた。花城と会ってるのは信二くらいにしか話してない。

「え?う、うん?そう…?」
「よく話してたじゃん高校ん時!今も連絡とってんの?」
「な、なんで?」

まさか沢村が花城に気があるとか…?高校の時はそんな素振りなかったけどな…。

「今日御幸先輩に聞かれたんだよ!」
「……えっ、な、何て?」
「いや花城の連絡先知ってたら教えてくれって」

そ…それって…。
御幸先輩、花城に未練が…?よりを戻したいってこと?
でも花城は最近倉持先輩と会ってるってこの間聞いたばかりだし…。

「な…なんで?」
「何でってお前そりゃ…」

俺の言葉に応えかけたのは信二だった。沢村は、ん?と目を瞬き、小湊は察したような苦笑を浮かべ、降谷は静かに俺を見ている。

「…花城さんとより戻したいからじゃねーの?」
「だ、だよな」
「つーかなんで別れたんだろうなあの二人。お似合いだったのに」
「うん…」
「で…どうすんの東条」
「え?」
「お前花城さんとたまに会ってるだろ」

信二の言葉に、沢村も小湊も降谷も一斉に息を飲んで俺を見た。

「そうなの!?東条君」
「いやっ…えっと…!し、信二!」
「あ…。ま、まあいいじゃん、こいつらなら」
「え!?東条と付き合ってるってことか!?」
「ち、違うって!ただの友達としてだから!」

俺は高校を卒業してから偶然再会したことと、本当にただの友人であることを強調した。花城が芸能人だから、会っていることを話す相手も慎重になっていることも。

「じゃあ東条…花城に聞いてみてくれねぇか?御幸先輩のこと…連絡とりたがってるって」
「…うん。聞いてみるよ。」

頷きながら、俺は、心のどこかに焦りのようなものを覚えていた。

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