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「御幸さん!私ずっと御幸さんのこと応援してたんです!」
「ど…ども…」
イベントに出演した今をときめくアイドルの女の子…星田愛実から廊下で呼び止められ、俺は猛アタックを受けていた。チームメイト達がニヤニヤからかうように見ながら横を歩いていく。クッ…こんなの晒しもんじゃねーか…
「私の兄が稲実出身で…でも試合ではいつも青道を応援してました!」
「はっはっは…そうなんすか…」
「今付き合ってる方とかいらっしゃるんですか…?」
上目づかいで黒目勝ちの瞳をうるうるさせながら見つめてくる星田さん。
「こいつは全くのフリーです!」
「…!!」
「え!本当ですか!嬉しい…!」
なんて答えるべきか考える間もなく、チームメイトの裏切りによって星田さんは目を輝かせた。
「あっ、やだ私…。」
星田さんは顔を赤らめて恥じらいつつも、えへへ、と俺にはにかんだ。
「あの…今度プライベートで会いませんか…?」
きらきら、うるうる、きっとこれで落ちなかった男はいないんだろうな…と思う自信満々の眼差し。
「おう行くよな御幸!ホラ連絡先教えてやれよ」
「あ、ちょ…!」
「きゃ〜ありがとうございます!本当に嬉しい!」
先輩が俺のスマホを勝手にとって、星田さんに連絡先を教えた。
「良かったな御幸こんな可愛い子から連絡先訊かれるなんて〜」
「羨ましいぜこのイケメン!」
「愛実ちゃん御幸をよろしくお願いします!」
「やだ〜。うふふ」
「……。」
…勘弁してくれ…!!!
***
埼玉遠征3日目。今日の試合が終われば、俺たちのチームは明日福岡に帰る。
「今日勝って勝ち越そうぜ!」
「気合入ってんな〜」
「あのルーキー今日投げるかな?」
「なあ、御幸!お前同じ高校でバッテリー組んでたよな」
先輩に呼び止められ、俺はその雑談に加わった。
「沢村ですか?」
「そーそーあの元気のいい奴」
「どんな球投げんの?」
「そっすねぇ…」
「ちょっと待ったー!!!」
突然俺と先輩の間に男が割り込んできて、なんだなんだと目を丸くする先輩たちを睨み、俺を睨んで、割り込んできた男――沢村が抗議した。
「俺の情報を売るつもりか御幸一也ァ!!」
「呼び捨て。」
「だが残念だったな!!俺はこの1年で超パワーアップしてるんですから!!もうアンタの情報は古い!!」
「この間球受けたじゃん」
「……あっ!!」
「まー球速は上がってたけど想定内かな。フォームは変化ないし高校時代一番球受けてた俺からしたら打席に立つのが待ち遠しいぜー」
「ウガアァァァ卑怯者おおお」
「お前が受けてくれっつったんじゃん」
仲良いなー、と笑いながら先輩たちが先にいなくなると、沢村はあっと思い出したように声を上げた。
「そうだこの間の話ですけど」
「どの話?」
「花城の連絡先!」
思いがけない話を掘り返されたものだから、俺はぎょっとして周りを確かめた。…良かった誰もいない。
「東条が付き合い続いてるらしいんで頼んどきました!」
「え?」
「時々飯行ったりしてるらしいっす!花城に御幸先輩が連絡とりたがってること伝えてくれるそーなんで」
「……あ、そ、そお」
「じゃ!礼には及びませんので!」
沢村は張り切った調子で廊下を走って行った。
東条が…ねぇ。そういや仲良かったっけ…。でも今も会う仲とは…。
…まさかそういう関係?
…いや!今は試合に集中しろ俺。
***
――ピロン
「うるさっ!誰?」
着信音に顔を顰めた鳴が周りを見渡す横で、俺は鞄からスマホを取り出した。
「一也の?音デカくね?」
「ごめん」
…ただの広告メールか。
胸の奥で落胆を覚えながらスマホを鞄に放り込んだ。
沢村から東条のことを聞いてから1週間以上経ってるけど、何の音さたもない。これは…光が断ったってことなのかもな…。
柄にもなく着信音を大きくして、用がなくてもスマホを見たりして。嫌になる。
「うぃーす」
ドアが開いて、今日呼ばれた3人目の男――倉持が現れた。練習からそのまま来たらしい。ラフなジャージ姿で、鳴の隣に座り、スマホを弄り始め、ちらりと俺を見た。
「何?」
「…別に?」
なぜか少し勝ち誇ったような笑みを浮かべられた。倉持はメールを打ってスマホを仕舞い、時計を見上げる。ちょうどその時またドアが開き、スタッフが2名入室してきた。
「どうも遅くなりまして申し訳ありません!」
「どうもどうも、今日はよろしくお願いします」
俺たちも挨拶を返し、5人で長テーブルを囲む。
今日は今度収録するバラエティ番組の打ち合わせだ。
「えー今回の企画はですね、今年注目のフレッシュアスリートの素顔を公開!ということで、第3弾の野球選手特集になります。ゲストとして御幸選手、成宮選手、倉持選手にお越しいただいて、それぞれプロフィールや小話等を紹介させていただきます。」
「はい。」
「普段の練習風景や、今年の活躍シーンなどもVで流しますので!そちらは番組の方でご用意させていただきます。」
「はいはい」
「それで今日はですね、番組で紹介できる面白い話なんかをお伺いできればと思いまして。」
一生懸命説明している方の男は神田といって、番組の責任者らしい。その隣で少し偉そうにしているのは星野といって、プロデューサーだとのこと。
「それで単刀直入にお聞きするんですが、皆さん今お付き合いされてる方はいらっしゃるんですか?」
「え?」
「やっぱり恋愛トークはかなり視聴率に影響しますからね〜!皆さんは女性ファンも多いですし。」
俺たちは順番に顔を見合わせた。
「いません。」
一番最初に首を横に振ったのは俺だった。一抜けた、とばかりに背もたれに寄りかかって、他のふたりを見た。
「俺も彼女はいません。」
続いて鳴がそう答え、倉持を見る。倉持は首をひねり、ニヤけた。
「何、お前彼女いんの?」
鳴がじとりと睨んで言うと、倉持はにやにやしながら頭を掻いた。
「いや、付き合ってるわけじゃないけど…」
「なーんだ。」
「いやでも食事行ったりメールしたり…!!」
ムキになって高校生のようなことを言う倉持に、鳴がブッ、と噴出した。
「なにそれお前カワイ〜!」
「くっ…!」
「いやぁでも初々しくて爽やかでいいですね!高校時代からのお知合いですか?」
「え…、まぁ、そうです…」
…ん?高校時代からの知り合いで、倉持といい雰囲気になるような女の子…?
「え?誰?」
俺が身を乗り出すと、俺と倉持が同じ高校出身だと思い出したように、他の3人も倉持の言葉を待った。
倉持はなぜか俺の顔をじっと見て、挑発するような目つきになった。
「花城さん。」
「……え!?」
声を上げたのは鳴だった。
「お前が光ちゃんと!?やめとけやめとけ!釣り合ってないから!」
「んだとコラ成宮…」
「え!?花城…光って…あの女優のですか!?」
番組スタッフのふたりが血相を変えて、というか、目をキラキラさせて食いついてきた。
「そうっす」
倉持は自信満々に頷いた。
「花城光さんも青道高校だったのか…」
「お付き合いはしていないんですよね?」
「まぁ…連絡とり始めたのも2,3か月前なんで」
「高校の時からお知り合いだったんですか?あ、同級生とか?」
「いや、あっちが一個下で…でもまぁ、そこそこ話したりする程度で」
「ええ〜!すごいですね…!どうして高校の時付き合わなかったんですか?」
「そりゃ…こいつの彼女だったんで」
倉持が親指で俺を指した。スタッフ二人の真ん丸な瞳が俺を凝視した。
「ええええ!!?」
「超ビッグニュース!!」
「おい倉持…」
「いやでもこれ番組で言ったらマズいっすよね?」
「そうだな〜…」
「ちょっと待てよ!」
鳴が身を乗り出して、俺と倉持の間を分断した。
「そもそもお前より俺のが先に光ちゃんと知り合ってたら、付き合ってたのは絶対俺だし絶対別れてもないからね!!」
「はいはい…」
「もうフラれてんだから偉そうな顔しないでくれる!?」
大声で騒ぐ鳴を見て、スタッフは顔を見合わせた。
「…これだ!」
そして声を上げた責任者と頷くプロデューサーに、俺たちは眼を瞬く。
「若き3人のイケメン野球選手が奪い合う奇跡の美人女優!これでいきましょう!」
「…イケメン〜?」
「なんだよコラ」
鳴が倉持を見て、倉持は殺意のこもった目つきで睨み返した。
「ただし以前付き合っていた話はあっちの事務所からNG出ると思うんで、話の流れとしては…」
「そうだな、このコーナー終わったらV入って…」
「いやこれ視聴率ヤバいっすよ絶対!」
スタッフ二人の打ち合わせが盛り上がり、若干置いてきぼりを食らう俺たち3人。
「フーガさんに確認しときます!」
「よしこれでいこう!」
「……。」
「……。」
「……。」
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