012
廊下で花城を見つけた。自動販売機で何か買っている。俺はポケットの中の財布を確かめながらそちらへ向かった。
「よっ、元気か?」
「……。」
花城が振り向くとともに、ピッ、と音がした。丸い瞳で俺を見つめて固まった花城は、ガコン、と足元で響いた音で我に返ったようだった。
「…何の用ですか」
素っ気なく言いながらしゃがんでアイスティーを取り出す花城。
「別に〜俺もジュース買いに来ただけ」
「……。」
「ってオイ!去るな去るな!」
ちらり、と花城は俺を振り返る。超不満そうな顔で。
だけど…まあ、いつも通り元気そうだし…。梅本が言ってたようなことはないよな?
「何ですか?」
「最近調子どお?」
「はぁ…?…別に普通です」
「ふ〜ん…」
「もういいですか?」
「オイ…どんだけ俺といるのが嫌なんだ」
フン、とため息交じりにそっぽを向く花城。その拍子に、窓から差し込む日差しに照らされた髪がふわりと揺れて、キラキラして見えた。
「キレーな髪だな。」
「…はい?」
…あれ?なんか今のセリフ、恥ずかしい…
「セクハラですか?」
「なんでだよ!違うって!」
「髪切ろっかなぁ。」
「どんだけ俺が嫌いなんだ!流石に傷つくぞ!」
ふふ、と花城が笑った。可愛い…。憎まれ口をたたかれるけど、案外心を開いてくれてるってことなのかもしれない。俺の反応を楽しんでるんだ。ツンデレか…。
だけど悪い気はしねぇななんて思っていると、花城ははっと笑うのをやめて踵を返した。
「じゃあ…もう行きますから」
「え〜花ちゃんつれな〜い」
「……。」
「無視かよ!」
***
「東条。ちょっといいか?」
夕食のあと、金丸と自主練にでも行こうとしているらしい東条を呼び止めた。あ、はい、と、東条は頭に疑問符を浮かべて駆け寄ってきた。
「お前、花城と仲良いんだって?」
「え……」
「はっはっは。麻生みてーな脅迫はしねーから安心しろ。」
はぁ…、ときょとんとする東条。俺が花城の名前を出したのが不思議らしい。
「最近花城、2年の女子と何かなかったか?」
「え?2年の…ですか?」
東条はひととおり目で辺りを見回して、首を傾げた。
「いえ、俺は知りませんけど…」
「そっか、ならいいや。」
「……?」
***
『――生徒会より、お知らせです。』
全校集会のあと、花城がステージに登壇し、落ち着いた声で読み上げた。それまでざわついていた体育館内の生徒たちが静まり返る。花城の影響力はすごい。
『先日の生徒総会の議題で挙がっていた目安箱の設置について、可決となりましたので、本日より生徒会室入口前に目安箱を設置しました。要望や相談がある生徒は、お気軽に投函してください。』
おおー、いいじゃん、と体育館内は静かに盛り上がった。
『次に…文化祭で使用する機材や教室の使用許可申請の締め切りは、終業式の日の放課後までとなっています。まだ提出していないクラスや部活の責任者は、お早めに提出をお願いします。…生徒会からは以上です。』
花城がお辞儀をし、ステージを降りて行った。
少し前に座っている倉持が、俺を振り返ってニヤニヤしてきた。花城を見ると俺をからかうのだ。俺は顔を顰めて、しっし、と手を振った。
***
部活に行く途中。
「…何してんの?」
「シッ!!」
垣根の端っこに固まって向こう側を覗いている麻生たち。こっちにこい、と手招きされて近づくと、麻生たちが覗いている景色が見えた。あれは…哲さんと……花城?
「今日、委員会だろう?」
「はい…」
「じゃあ、一緒に帰ろう。少し待ってもらうことになるが…」
一人で帰るよりいい、と哲さんが言い、花城は頷くように俯く。
え…一緒に帰るって…なんで?そういう関係…ってこと?
「何時頃終わるんだ?」
「まだ、わからなくて…」
「そうか。じゃあ連絡先…」
え…連絡先?花城と哲さんが?連絡先を交換。
待て、…ちょっと待てよ。頼むから、待ってくれ。……嫌だ…
「あ…。」
「…?」
「すまん。俺は携帯を持っていないんだった」
「……。」
「……。」
「……。」
思わずずっこけそうになった。哲さんどんだけ天然だよ!!
「生徒会室で待っていてくれ。終わったら迎えに行くから」
「え…。いえ、校門で…」
「外は危ないから。待っててくれ、いいか?」
「…はい。すみません」
「気にするな。じゃあまたな。」
「……。」
花城は哲さんに小さくお辞儀をして、校舎に入って行った。哲さんは寮の方に歩いていく。
「…まさか…」
「…哲さんと付き合ってんのか!?」
嘘だぁぁぁぁ、と麻生が嘆き、崩れ落ちた。それをからかう余裕もないほど、俺はショックを受けていた。そう、正直に言う。すごく…ショックだ。
花城が哲さんと連絡先を交換しようとしているのを見て、すごく嫌な気持ちになったことも認める。認めざるを得ない。
嘘だろ。俺…。…花城のことが、好きだ。
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