015
「昨日は先に帰ってしまってすみません。」
短い髪を耳にかけ、うつむきながら花城は言った。
「いや…無事帰れたなら良かった。」
「……。」
「髪…切ったんだな。」
「あ…はい。」
にこりともせず髪をなでて目を迷わせる花城に、俺は少し疑問を抱いた。
「今日の帰りは?遅くなるなら…」
「いえ、大丈夫です。今日から…遅くなる日は迎えに来てもらうので」
「…そうか。」
残念だ、という言葉を飲み込んだ。それよりも、自分の好意が彼女にとって迷惑なのかもしれない、という落胆が胸を占めた。
「…失礼します。」
お辞儀をして踵を返す彼女の背中に、もう話しかけないで、と言われたような気がした。
***
「哲ゥ聞いたぜ〜〜〜」
「む…?」
「お前花城光と一緒に帰ってるらしいなオイ!?」
「……。」
「ちくしょ〜〜通いの特権…寮生活だと彼女と登下校なんて青春は味わえねーんだぞコノヤロー!!」
「その前に純はそんな相手いたっけ?」
「うるせぇぞ亮介ェ!!」
花城…。
「…家が近所だから、時々送ってたんだ」
「ハァーー!!そーですかそりゃ王道ラブコメだなァ!!」
「でも、もういいと言われてしまった」
「あーーーそうかよ………え?」
純と亮介は興味津々に身を乗り出してきた。
「もういいって?」
「これからは家の人が迎えに来ることになったらしい。」
「そ、それって…」
「……。」
純と亮介が俺を憐れむような眼で見てきた。
「なんだ?」
「いや…強く生きろよ!お前ならそのうち彼女くらいできらぁ!なんたってうちの野球部の主将だからな!」
「ちなみに副主将の彼女の予定は?」
「亮介テメーどーゆー意味だコラ!!」
***
花城を廊下で見かけて、以前のように声をかけていいものかと一瞬戸惑った。だけどすぐに、迷う必要なんてないことを思い出した。なぜ挨拶くらいで後ろめたく思っているんだ。
「花…」
しかしちょうど、花城の後ろから歩いてきた女子生徒の集団が花城にぶつかって、花城がよろけた。女子たちははしゃいでいて気付かなかったのか、そのまま行ってしまい、花城は落ち込んだ顔で腕をさすった。
「大丈夫か?」
「!」
声をかけると、花城を驚かせてしまった。びっくりした顔で俺を見上げた花城は怯えた顔をしていて、俺を見ると拍子抜けのような、安堵のような、とにかく少し緊張が解けたように息を吐いた。
「大丈夫です…。」
それだけ答えて足早に立ち去ろうとする花城。
「花城。」
花城は足を止めて少し振り返る。
「何かあったら、言えよ。」
「……。」
酷くおびえたような様子を見て励ましたいと思ってかけた、何気ない言葉だった。だけど花城が少し驚いたように見えたから、小さな会釈をして彼女が去って行った後も、俺はいつまでも胸の中に何かが残ったままだった。
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