017


最近花城に避けられている…。
話しかけてもすぐに話を切り上げようとするし、目が合わないし、話していてもそわそわして今すぐここから立ち去りたいような様子で…。なんでだろう…俺、何かまずいことしちゃったかな…。それか、ただ単に迷惑…!?俺嫌われてるのかな…!?

教室に入ると、花城さんは今日も姿勢よく席に座って本を読んでいた。迷惑って思われてるのかもしれないけど…でももうすぐ夏休みだし、1か月以上も間が空いたら、もう話せなくなる気がする…。
…よ、よし…!

「花城、おはよう!」

意を決して声をかけた。花城は本から顔を上げ、俺を見て――

「東条おはよう。」

わ、笑った…!!久々の笑顔!あれ…今日は素っ気なくない…。

「…どうしたの?」

思わずぽかんと立ち尽くしてしまった俺を、花城は不思議そうに見つめた。

「あ、いや…!なんか、いつもと違うなって…」
「……。」

思い当たる節があったのか、花城はちょっと赤くなって苦笑いを浮かべた。

「ごめん、私、変だったよね…」
「いやいや!そんなことないけど、俺が何かしちゃったのかと思って」
「そんなことない。本当にごめん」

よくわからないけど、何か悩みでもあったんだろうか。だけどもう吹っ切れたみたいだから、よかった…のかな?

「ジュース買いに行かない?」

花城は財布を取り出して言った。こんなお誘いまで…!うわー、浮かれてしまいそうだ…。

「うん!行こう!」

俺は急いで財布を持ってきて、花城の後に続いた。

「そろそろテスト返却されるなー。」
「今日は数学と英語と…現国?」
「あ〜怖いな〜。花城はいいよな、頭いいから」
「そんなことない。頑張って勉強しただけ。」
「それでも全教科満点なんてなかなか取れないって!どうやって勉強してるの?」
「…内緒だよ?」
「え?う、うん…何?」

花城が急に声を潜めて俺を見上げてきて、心臓がドキドキ言い始めた。

「教科書とノートを食べるの。」
「…え!?あはは!なんだそれ!」

予想外の答えに噴出して、花城がそんな冗談を言ったことにも、花城の笑顔にもドキドキして、俺は舞い上がった。なんか、急に花城との距離が縮まってる気がする…。なにこれ、夢?
浮足立って足元がふわふわし始めたとき、突然の声によって俺は現実に引き戻された。

「花城ちゃ〜〜ん、何東条といちゃついてんだよ。」
「!」

花城のセーターの裾を引っ張って、御幸先輩が現れた。

「伸びる。」

花城は慣れた様子でその手を払いのけた。

「俺というものがありながら!」
「はい?」
「東条!俺の花ちゃんに手ぇ出すなよ!」
「えっ!?は、はい」
「俺のって何なんですか。」

な、何だ…!?花城と御幸先輩、こんなに仲良かったっけ!?

「な〜花ちゃん試合見に来ない?」
「その日は予定があって…」
「日程も聞かずに断るなよ!東条も来てほしいよな〜?」
「えっ!?は、はい」

俺、試合出ないんだけどな…。

「え?東条も出るの?」
「あ、いや俺は…」
「出ないな!はっはっは」

わ、わざとか…!?わざとなのかこの人!?

「なんだ、じゃあいいや」
「え〜!なんでだよ花ちゃん!」

な…仲良すぎだって…!!



***



「花城いる?」

昼休み、なんだか物々しい雰囲気の2年生たちがやって来た。窓際の席に座っている花城に、クラスメイトたちが注目し、先輩たちは花城に気づくと睨み始めた。

「は…花城さん。」

先輩が呼んでるよ…、と近くに立っていたクラスメイトの女子がおそるおそる囁く。花城が先輩たちに気づいているのは明らかで、その上で無視していることも分かった。一体どういう関係…?見守っていると、緊張感が痛くなってきた頃、花城が唇を開いた。

「いません。」

静まり返った教室に、花城の声がはっきりと響いた。

「……は?」

先輩のいらだった声も響いた。え!?何?どうなってるんだ!?

「…早く来いよ。」

低い先輩の声に、クラスメイトの男子が、こえ〜…、と囁いて茶化しだす。でもそれもこっそりと、先輩たちの気に障らない程度にだ。

「嫌です。」

ぺら、と花城が本のページを捲った音が響いた。

――ダン!!
先輩がドアを叩き、付近の女子生徒が飛びあがって悲鳴を上げた。花城も肩を竦めたけど、意地でも先輩たちの方を見ずに、ずっと本を睨んで黙っていた。

「…チッ」

先輩たちは舌打ちを残し、廊下を去って行った。

「…花城?誰だよ、今の?」
「……。」

花城はやっと本を閉じた。強がっていたのか、目はうっすらと涙ぐんでいた。

「だ…大丈夫?」

花城は鼻を啜り、顔をそむけた。

「大丈夫。」

それ以上何も聞くなと言われてる気がして、俺は言葉を飲み込んだ。

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