021
「何それ?」
教室に入るなり、鞄に入りきらなかった小箱を机の中に突っ込むと、倉持が目ざとく見つけてきた。
「…やる。」
「は?何?」
手で周りの目から覆い隠しながら小箱を倉持に押し付けると、倉持はその可愛らしい手作り感あふれる箱を見て、すべてを察したように俺を睨んだ。
「誰から?」
「知らない1年…」
「どんな?可愛い?」
「知らねーよ」
「知らねーって何だよ」
倉持はニヤニヤしながら箱を開き、中身を見て、おっうまそう、と呟いた。
「お前今年何回告られたよ?」
「数えてねーよ」
「よし死ね」
「なんでだよ」
倉持は箱の中身を一つ口に放り込んだ。
「うまっ!売りもんみてぇ」
「よかったな。」
「お前も食えば?」
「甘いモン苦手なんだよ」
「チッ、デブのくせに…」
ぼりぼりぼり、倉持はクッキーを次々口に放り込んでいく。
「お前は花城さん狙いだもんな〜」
「別に」
「どうなの?最近?」
「うるせーよ」
ニヤニヤすんな、と倉持を睨んで、熱くなる顔を伏せてスコアブックを開いた。まだ倉持のニヤついた視線を感じる。
「なぁ!今1年の廊下でさ…」
「え!?告白!?」
にわかに教室がざわつき、俺も倉持も振り向いた。
「誰が誰に!?」
「1年の男が、花城光に!」
「マジかよ見に行こうぜ!」
え…マジ?反射的に胸の奥が淀んだ。…フるよな?花城…
「もう終わったってよ。」
「え〜!?なんだよ」
「フラれた?」
「フラれたって。」
「なーんだ」
「やっぱりな」
…ほっ、と胸をなでおろし、今度はそんな自分に胸がざわついた。たかがうわさ話に左右されすぎだろ、俺…
「フラれた奴マジ泣きだってよ〜」
「うわー悲惨」
「モテるな〜姫」
「誰かに先越されんぞ〜」
ニヤニヤしながら倉持が言い、俺はうるせえ、と悪態吐くのが精いっぱいだった。
***
「花城光ってすげぇよなぁ〜、1学期中間も期末も全教科満点トップだったんだってよ」
教室に響く噂話。花城の名前を聞くと、ついつい耳が大きくなってしまう。
…全教科満点ってマジ?
「めっちゃ美人だし、頭もいいし、マジヤベェじゃん」
「てか今年の1年すごいらしいよ、もう一人満点トップがいて、新入生代表のもう一人の候補だったって…」
「え?誰?」
「確か生徒会に入ってる。花城さんとそのもう一人、2人ともめちゃくちゃ頭いいから、先生が生徒会に勧誘したらしいよ。」
「え〜ヤバッ」
…周防…か?あいつそんなスゲー奴だったの?いつも花城の付き人みたいに静かに立ってるだけだと思ってたけど…。
「今年の1年ヤベーな」
そいつらはそう笑って、今日の学食メニューの話題に移った。
「…あたしはあの子あんまり好きじゃないな〜。」
するとひそひそと、女子グループの中の一人が言った。声を低くして呟いたけど、その声はしっかりと教室に響いた。
「えーなんで?」
「いやなんでっていうかぁ〜…生理的に?」
「あーうんまぁでもわかる、女には好かれないタイプかもねぇ〜」
「でしょ?」
教室にはにわかに緊張感が漂い始めた。
「私はあんたたちとは違うのよ、みたいな雰囲気だしさ〜」
「あーわかるわかるw」
「自分がモテるのわかってるよね〜」
「まー可愛いけどさ、うちの学校の中ではそこそこ」
「アハハw」
「ただの僻みじゃんw」
「女子コエーw」
「…は?違うしw」
…と、そこへ、先ほどまで花城の噂話をしていた男子が口を突っ込み、教室内は男子VS女子の一触即発状態…。
俺はつい、倉持と目配せだなんて慣れないことをしてしまった。
「花城さんが可愛くて頭いいのは事実じゃねーか」
「別にそれは否定してないし(笑)ただあたしは好きじゃないって言っただけだもん」
「うちの学校ではそこそことか言ってたじゃねーか、そこそこじゃなくてダントツ1位だっての!」
「それはアンタの好みでしょ?」
「自分がチヤホヤされねーから僻んでんだろ、人の陰口言ってる女より可愛くて努力してる花城さんの方が100億倍いいわ」
「は!?鏡見ろよ、お前なんかこっちから願い下げだから!」
「コエーw口も悪いとか最悪w」
「おいもうやめろって!」
倉持が止めに入ったが、罵り合いはますますヒートアップした。
「うるさい倉持は黙ってて!」
「……。」
「キーキー怒鳴るなようるせぇな」
「は!?」
「花城さんを見習えよ!おしとやかでお前より全然大人w」
「あ〜やだやだ男ってすぐ騙されるよね。あんなの猫かぶってるだけなのに」
「猛獣が何か言ってるぞw」
「やめろよw」
「あ〜もうやめろって!しょうもねーな!」
二度目の倉持の制止。よくやるぜ…俺は面倒くさそうだから空気になる。
「何も知らないくせに…あの子ほんとに猫かぶってるだけだから!」
「はいはいwごめんごめんもうわかったからw」
「本当はめちゃくちゃ生意気だし先輩にも楯突くし…性格最悪なんだよ!」
「なんでお前がそんなこと知ってんだよw」
「ミカが言ってたもん!面識なかったのに初対面で無視されたって!」
…ミカ?…って…伊藤さん…だよな?
「知らねーよwどうでもいいわ」
「てかそれでも可愛いのは揺るがねーしw」
「もうマジウザい!男子」
「いーよもう騙されてんだからほっとこ」
険悪なムードを残しながら言い争いはいったん落ち着き、倉持はあきれてため息をつきながら椅子に座った。
「…ったくくだらねー」
「本当にな」
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