023


今日は文化祭1日目。


「はなしろひかりさーーーん!!!」

屋上から響いてくる声に、空を仰ぎ見ながら「おー」「またか」と野次馬の声が上がる。

「あいしてまぁぁーーーーす!!!ぼくとつきあってくださーーーーい!!!」

「12人目」
「数えてたのかよ。」

隣の倉持がニヤニヤ呟き、俺はつい突っ込んだ。
これは青道文化祭の恒例イベント、『青道生の主張』だ。飛び入り参加オッケーの自由な催しで、2日間にわたり午前中に2時間ほど開催している。

「愛しの花ちゃんがモテモテだぜぇ〜どーすんのミユキちゃ〜ん」
「ここまで続くとさすがに途中から悪ノリだろ。」
「んなこと言って、しらねーぞぉ〜?他の男に横取りされても!」
「嘘じゃん。絶対面白がってるじゃんお前。」
「ヒャハハハハ。」

それにしても花城…まさか今頃哲さんと文化祭回ってたりしないよな…?

「花城光ちゃーーーーーん!!俺は何度フラれても!!君をあきらめなぁぁーーーーーい!!!!!」

「13人目」
「もういいって」

「あっ!!見つけた!!」

なんとなく聞き覚えのある声につられて振り向くと、そこには鳴と白河とカルロスがいた。

「お前ら…」
「来てたのかよ」

青道の文化祭に。鳴たちは不敵な笑みを浮かべる。あの敗北から、鳴のことだからきっと塞ぎこんでると思ったけど――

「暇なの?わざわざ他校の文化祭に来るなんて…」
「忙しいけどわざわざ!来てやったの!!感謝してよね!!」
「頼んでねーけどな。」

一也のくせに生意気!と鳴がいつものごとく吠えた。

「花城光さーーーーん!!!僕の恋人になって下さーーーーい!!!!」

…と、そこへまた、次の参加者の叫び声が響いた。

「…さっきから思ってたんだけど、告られまくってる花城光って誰?」

鳴が興味を示し、俺はなんだか嫌な予感がした。

「……女子」
「ブッw」

鳴に掘り下げられたくないと、咄嗟に適当に流そうとした俺に、倉持が噴出した。

「えー何!?そんなに可愛いの!?どんな子!?」
「お前は気にしなくていーよどうせ他校なんだから」
「関係ないじゃん!今日が運命の出会いの日かもしれないじゃん!!」
「なんだそれ」
「鳴はボウヤだから占いとか信じるタイプだもんなぁ」
「くだらない…」
「それに一也がはぐらかすなんて怪しい!!」
「!?」

ぎくりとすると、鳴は目をキラキラさせて俺の顔をじろじろと観察した。

「もしかして一也の好きな子とか〜?」
「ちげぇよ」
「じゃあいいじゃん教えてよ!どこに行けば会える?」
「別にそんな可愛くな…」

「1年A組花城光さあああーーーん!!!あなたほど綺麗な人に!!僕は会ったことがありませええーーーん!!!!」

…なんつータイミングで…。鳴はニヤー、と笑って俺を見た。

「へ〜1Aかぁ〜。よし行くぞ!」
「ちょっ…鳴…」
「確かにちょっと興味あるよなぁ〜。」
「……。」



***



「花城光ちゃんいる〜!?」

1Aの教室の入り口で叫んだ鳴に、クラスの奴らは目を丸くして振り向いた。

「…い、いません…。」

その中の一人がおずおずと答える。
すると、え〜いないんだってよ、と周りの人混みが一気に掃けていった。こいつら皆野次馬だったのかよ…。

「えーじゃあどこにいるの!?」
「さ、さあ…。」
「生徒会の方じゃないですかね…」
「生徒会?」
「総合案内所です…校門のところの」
「マジ!?ありがと!!」
「おい待てって鳴!!」

さっさと踵を返す鳴を追いかけて、俺たちは校門前に張られたテントにやって来た。
俺と鳴の後から、倉持、カルロス、白河ものんびりやって来た。

「花城光ちゃんどこー!?」
「おいやめろ…!」

鳴を止めながらテントの中に目を巡らせた。花城は……い、いない。

「ねぇ花城光ちゃんって子を探してるんだけど!1年の!」

俺が花城を探している隙に、鳴は受付にいた周防に絡んでいた。

「花城はいません。」
「どこにいるの!?」
「さあ」
「いつ戻ってくる!?」
「お知合いですか?」

キラリ、と周防の細身の銀縁眼鏡が光った。

「生徒個人の予定はお伝え出来ません。」
「友達だよ!友達!」
「でしたら直接本人と連絡をとればよろしいかと。」
「はぁ?お前…ムカつくな〜〜〜…!!」

おお…周防グッジョブ。

「もういい!自分で探す!!」

鳴は踵を返して、白河とカルロスを引き連れて校舎の方へ歩いて行った。探すも何も、見たこともないのにどうやって探すつもりなんだか…。

「周防、さんきゅー。」
「…いえ。」

周防は俺をちらりと見上げ、謙虚に答えると、パンフレットの補充を始めた。

「で、花城どこにいんの?」
「言えません。」

きっぱりと伝えられた言葉に、俺は目を丸くした。

「え?なんで?」
「生徒個人の予定は…」
「何言ってんだよ、お前知ってるだろ!俺と花城が知り合いだって」
「じゃあ、本人と連絡を取ればいいんじゃないですか?」
「……。」

こ…こいつ…

「お前な〜〜〜…!!」
「ヒャハハハ!ごもっともだな。」



***



「…あ!いた!!」
「!?」

事務所や用務員室などがある、誰も来ないような南校舎の1階の廊下で、向こうから花城が歩いてきた。つい声を上げると、花城はビクッとして立ち止まった。

「もおおおーー!!やっっっ…と見つけたぞ!!俺の勝ちだな!!」
「…?別に隠れてませんけど…何の用ですか?」
「はい出た〜〜!何の用ですか!!今日もいい毒舌っぷり!!」
「はぁ…?」

花城が眉を寄せた時、傍に歩いてきた赤ん坊を抱いた女性が、ためらいがちに近づいてきた。

「あ、あの…すみません」

女性は俺と倉持を気にしつつ、花城に小声で話しかける。

「…どうかされましたか?」

花城は俺たちに背を向け、女性を少し先に促しながら尋ねた。

「あの…赤ちゃんに…。」
「…あ…、保健室にご案内しますね。仕切りとベッドがありますから」
「あ…!ありがとうございます…!」

こちらです、と花城は女性を連れて保健室の方へ歩いて行った。なんか…なんか……

「すげーな〜…花城さん」

倉持がぽつりと呟いた。稚拙な感想だけど、今の俺の気持ちに、その言葉はぴったりとあてはまった。

「なんかモテるのもわかるわ」
「んなことない。ほとんどの奴は可愛いから好きなだけだ。花ちゃんの中身まで可愛いって知ってるのは俺だけだから」
「めんどくせーバンドファンみたいなこと言ってんじゃねーよ」




***



「おねーさん可愛いね〜いつ仕事終わるの?」
「……。」

少し文化祭を回って総合案内所に戻ると、花城が戻ってきていた。冗談交じりに声を掛けた俺に、花城は軽蔑のまなざしを向けた。

「周防君、刺又。」
「はっはっは、不審者じゃねーよ。」
「たいして変わんねーだろが。」

びし、と後頭部に倉持のチョップが落ち、俺の頭がこてんと傾いた。

「ま、それはそうと…ほい。差し入れ」
「?…からあげ?」
「この後ミスコン直行だろ?昼飯食う時間ねーんじゃねーかと思って」
「……。」

いりません、と言われる気がしたが、花城は素直に紙パックを受け取った。

「…いただきます。いくらですか?」
「いーようちのクラスのやつだし。」
「…そうですか」

席を立ってテントの奥でから揚げを食べ始める花城をニコニコ見ていると、ニヤニヤすんなキメェ、と倉持にどつかれた。

「花ちゃん今日自由時間あんの?」

ちらりと俺を見て、もぐもぐから揚げを食べ続ける花城。

「せっかくの文化祭だぜ〜?今日ずっとここにいなきゃならないわけじゃないんだろ?」
「ミスコンに行きます。誰かさんのせいで」
「それは別だろ〜。そうじゃなくて遊ぶ時間はあんのかって聞いてんの。」
「先輩こそ、遊んできたらどうですか?暇なんだから」
「もー花ちゃん…」

「か〜ず〜や〜〜!!」

ゲッ…こ、この声は…。

「誰?この子誰??まさか彼女!?」
「いや違…」
「花ちゃん!花ちゃんこっち向い…」

大声で騒ぐ鳴に驚いて顔を上げた花城と、花城を見て一瞬固まった鳴。後ろで白河も少し驚いたように目を開き、カルロスは「おっ」と呟いて白河に笑みを向けた。

「…一也のくせに!!ムカつく!!」
「なんでだよ」
「花ちゃんこんな奴やめて俺にしない!?」
「おい…」
「名前なんて言うの!?花ちゃんていうの!?はなこ!?はなえ!?はなみ!?フツーに花!?」
「うるせえって、騒ぐなよ!」
「…ん?待てよ、花…ちゃん?」

鳴は何かを思いついたように急に静かになって考え込んだ。

「…もしかして花城光ちゃん!?」

バレた…。

「うわーやっと見つけた!!俺ずっと君のこと探してたんだよ!」
「え…なんでですか?」
「めっちゃ可愛いって聞いて!ってか一也と付き合ってんの?」
「…え?ち、違います…」

花城はほのかに顔を赤くして否定した。え…何そのまんざらでもない感じ…!!

「…光ちゃんコイツはやめときな!ひとでなしの裏切り者だから!」
「人聞きのわりーこというな!」
「しかもさっき光ちゃんのことそんな可愛くないとか言っ…」
「うわーー!!やめろコラテメーー!!」
「……ふうん…」

花城は目を細めて俺を睨むと、素っ気なく周防の隣に着席した。
さっき鳴の興味を逸らそうと咄嗟に言ったことが裏目に…!!最悪だ!!

「光ちゃんメアド教えてよメアド!」
「……。」

花城はなぜか俺を睨んだ。ま、まさか…当てつけに鳴とメアド交換なんかするんじゃないだろうな…

「光ちゃん!」
「……。」
「光ちゃん?」
「……。」

おーい、と花城の顔の前でひらひら手を振る鳴。すると、周防が音もなく立ち上がった。

「…コラコラコラ、無言で刺又を取りに行くな!」
「……。」

周防はテントの奥の刺又に手をかけながら俺たちを振り返った。

「どこか行ってくれませんか。」

すると花城が不愛想な低い声でつぶやき、俺はひやりとする。…マジギレ?

「あのー花ちゃん…」
「仕事の邪魔です。」

花城が仏頂面でそう言い放った直後、すみませーん、とやって来たお客さん。

「はい!どうされましたか?」
「1年D組はどこから行けば…?」
「ここからまっすぐ行きますと正面玄関がありますので、そちらから校舎に入ってすぐの階段から2階に上がっていただき、すぐ左手になります。」
「あっ、ありがとうございます。」
「よろしければパンフレットをどうぞ。校内図も載っていますので」
「わー、ありがとうございます。」

一瞬で満面の笑みになって対応する花城に、俺も鳴も動揺で黙り込んでいると、お客さんが去った瞬間に花城は仏頂面に戻った。

「いつまでいるんですか?」
「す…すみません」

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