003


「キャ〜あったあった!最後の一個!」

花城さんがやっと誘いに乗ってくれた放課後。私たちは穂のお目当て、アイドルの限定グッズを求めてCDショップにやって来た。

「よかったね〜」
「よかった〜!!買ってくる!」
「いってらー」

穂がレジに駆けて行き、環と茜は今流行りのJPOPコーナーを眺めている。花城さんは、穂がグッズをゲットした特設コーナーに飾られているアイドルのポスターを不思議そうに見つめていた。

「花城さんも好きなの?」
「え?」
「コレ。」

コレ、とアイドルのポスターを指さすと、花城さんは困惑気味に首を傾げた。好きなわけではないらしい。アイドルは知らないのかな?

「普段どんな音楽聴く?」
「どんな…?」
「JPOPとか。ロック系とか?あ、洋楽の方が好き?」
「…歌はあんまり…知らなくて」
「えーっ、じゃあインスト系?渋いね〜」
「……?」

なんだかきょとんとされた気がするけど、初めて花城さんと会話らしい会話ができてうれしい。花城さんには興味があったのだ。妖精みたいにキレイで、おしとやかで、新入生代表を務めるほど優秀で。どんな子なんだろうってずっと思ってた。同じクラスになれてラッキーだと思った。

「おっまたせ〜」
「おかえり〜」
「ねぇお腹すいた。マック行こう?」
「いこいこ〜」

いつもの流れで歩き出す私達に花城さんもついてくる。おっと、気を付けないと。私と穂、茜と環はそれぞれ同じ中学出身で、気心知れている。だから、花城さんが孤立してしまわないように気を付けていた。せっかくやっと一緒に遊べたんだから。

「あたしテリヤキ〜」
「穂テリヤキ好きだね〜」
「私チーズ」
「私も〜」

マックに着いてレジに並ぶと、ふと花城さんが難しい顔をしていることに気が付いた。

「どうしたの?」
「え?う、ううん」

そう首を振って、花城さんは熱心に辺りを見渡している。

「バーガーとナゲット、ポテトS、アイスコーヒーSで」
「はい、ハンバーガーナゲットポテトSアイスコーヒーSおひとつずつでよろしいですかー?」
「はい」

「……。」

レジで注文しているおじさんをじっと観察したりして…。挙動不審だ。どうしたんだろう?

「花城さん何にする?」
「……。えっ?」

花城さんは怯えたような顔で私を見上げた。

「ハンバーガー?」
「……。」
「もしかしてお腹空いてない?」
「え、そ…そんなことないよ」

大丈夫、と微笑んで首を振る花城さん。穂たちも異変に気付いて私たちを振り返った。

「どしたの?」
「いや花城さんが…」
「ほ、ほんとに、大丈夫だよ。なんでもない」

そう言いつつ緊張した面持ちでそわそわしている花城さん。

「…お腹空いてないなら、私とポテトシェアしない?」
「…?え?」
「ポテト。一緒に食べない?実は今コーチに買い食い控えろって言われてるんだよねぇ〜」

春休みで太っちゃってさぁ、と笑うと、花城さんはきょとんと眼を瞬いた。

「あ。私バレーボールやってるの!」
「あ…そ、そうなんだ。」
「で、どう?ダイエット協力してくれる?」
「……。」

花城さんは目を瞬いて、安堵したように笑った。

「う…うん。」
「よし、じゃーうちらポテトMと飲み物で…一緒に買お!」
「うん…」

よくわからないけど、花城さんはなんだか安心したように見えた。マックとか普段来ないのかな?

「そういえばさー、花城さんって中学どこなの?」

席に着くと、茜がいつものクールな調子で尋ねた。

「白栄…」
「……。」
「……えっ!?」

ぽろっ、と咥えていたポテトを落とす茜、驚いて声を上げる環、ぽかんと固まる穂。
だって白栄といえば…都内屈指の超エリート進学校で、小学校から大学までエスカレーターだ。

「なんで青道来たのぉ!?」

穂の驚きはもっともだった。偏差値は下がるし、うちの学校は野球部に力を入れてはいるけど、逆に言うとそれ以外に特出したところはない。運動部は軒並みそれなりにレベルは高いけど…。

「家から近いし…」
「いやいやいや!白栄やめる理由になってないでしょそれ!」
「白栄って全寮制でしょ?」
「……。」

ぎこちない苦笑いを浮かべてはぐらかす花城さん。

「ま…まぁ色々あるでしょ!」

これ以上聞くのは悪い気がしてそう言うと、環たちもすまなそうに口を噤んだ。

「このあとどうする〜?」
「カラオケ行く?」
「いいね〜」
「花城さん、時間大丈夫?」

花城さんはぎくりとした。あきらかに。

「もしかして門限とかある?」
「……。えっと…」

言葉を濁す花城さんに、茜と穂が顔を見合わせた。

「…ごめん、今日は、そろそろ…」
「そっか、じゃ、うちらもそろそろ行こっか!」
「そだね〜」

別れ際まで、花城さんは申し訳なさそうにしながら、駅とは反対方向に帰って行った。急ぎ足で、焦った様子で。
何あれ、というように茜が肩を竦めて首を傾げた。やめなよ、とそれを咎めたけど、花城さんは私たちと仲良くしたくないのかもしれない、と私も心のどこかで蟠りが燻ぶった。



***



翌朝、花城さんは気まずそうな顔で登校してきた。

「…おはよ!」

お喋りを中断してそう声を掛けると、おはよう、とぎこちない笑みが帰ってきた。穂たちも、おはよー、とどこか距離を置いた挨拶を返す。その空気にいたたまれなくなったのか、花城さんは席に荷物を置くと教室を一人で出て行ってしまった。いつもは朝礼が始まるまで、一人で席に座っているのに。

「ちょっと行ってくる。」

私は3人にそう言って、花城さんの後を追った。

「花城さん!」

花城さんに追いつくと、花城さんは驚いたように振り向いて立ち止まった。

「昨日の帰り、大丈夫だった?」
「…うん、ごめん、先に帰って…」
「え?全然!そんなの気にしないでよ。」

ジュース買いに行かない?と花城さんと自販機の方へ歩きながら話し続ける。

「門限あるの?」
「…そういうわけじゃ…ないんだけど…」
「うん?」
「……。」
「寄り道禁止?親が厳しいとか?」
「う…ううん…えっと…」
「……?まぁ…花城さん美人だからね〜。親も心配だろーなぁ。」
「え…。」

笑ってくれるかと思ったけど、花城さんは困ったように苦笑した。

「…お!」

自販機の前に着くと、ふざけ合っている2年生の男子が二人いて、そのうちの一人…眼鏡の結構カッコいい先輩がこちらを見て目を丸くした。

「よっ!」

先輩は花城さんにそう声を掛けたようだった。だけど花城さんはきょとんとして、後ろを振り向いた。

「コラコラ…花城ちゃん!つい先週会ったばっかでしょーが!」
「え…。…あ!」
「マジで忘れてたのかよ!」
「……。でも私…名前言ってないですよね」
「あれ?そーだっけ?」

へらへら笑いながらも、眼鏡の先輩はイケメンだ。花城さんとどういう関係なんだろう?仲がいい男の先輩がいたなんて意外…。

「じゃーね花ちゃん♡」

ひらひら手を振って、眼鏡の先輩は隣の目つきの悪い先輩にどつかれながら、2年の教室の方に去って行った。

「今の誰!?」

面白くなってうきうきしながら尋ねると、花城さんは困った顔で首を傾げた。

「…知らない先輩だよ」
「えー!?仲良さそうだったじゃん!しかもカッコいいし」
「でも名前知らないし…」

カッコいい…?と花城さんは首を傾げた。あの先輩にあまりいい印象はないらしい。まぁ、ちょっとチャラそうだったしな。間違いなくモテるだろうし。

「花城さんって彼氏いるの?」

モテると言えば花城さんもだろう。こんな可愛い子、男子がほっとくわけがない。

「いない、いない。」

花城さんは苦笑しながら首を横に振った。

「えー、でも、モテるでしょ?」
「全然。」
「うそだ〜。うちのクラスの男子とか、絶対花城さんのこと気になってるって!花城さんめちゃくちゃ可愛いもん!」
「いや…。」
「え〜マジだからね!?私が今まで出会った仲で一番の美少女だから!花城さん!」
「……。」

謙遜なのか本気なのか、花城さんはどこか悲しそうに苦笑するだけで、褒められてもあまり嬉しくはなさそうだった。変わってるな…花城さんって。もっと花城さんのことを知りたい。なんだか本当の自分を、抑え込んで隠しているような気がするから…。

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