049


「なんで私だけB組なの〜〜〜!!」

昼休みは食堂で穂と環と茜と待ち合わせる。2年生になり、3人は皆C組で、私だけB組になりはぐれてしまったのだ。

「毎日言ってんねそれ」
「だって私だけ違うクラスなんて〜〜!」
「司ならすぐ友達出来るって〜。」
「やだ〜見捨てないで!」
「別にうちらと友達じゃなくなるわけじゃないからね?」

女子高生にとって友達とクラスが離れるのは死活問題。特に2年なんて、修学旅行もあるのに。

「っていうかさ〜司、あの子と同じクラスになっちゃったね」
「え?」
「ほらぁ、花城さん!」

私は目を瞬いた。脳裏には花城さんの姿が浮かんだ。大体いつも窓際の席で本を読んでいる花城さん。周りの空気ごと綺麗に輝いて見える、綺麗な花城さん。

「花城さんて今も孤立してるの〜?」
「孤立って言うか…。」

孤立と言えばそうなのかもしれない。いつもほとんど一人でいるか、教室にいないかのどちらかだ。でも、そんな花城さんはどこか特別な雰囲気があって、ちょっと憧れてしまいそうにすらなる。

「東条君とは話したりしてるけど」
「えー!!!」
「あ、ごめんごめん穂…でもそういう雰囲気じゃないから」
「でも東条君とまだ仲良くしてるの?御幸先輩と付き合ってるのに?」
「言わないで」
「あ、ごめ〜ん環…」

女子の会話には気遣いと配慮が必要不可欠。面倒くさいけどこれさえ気を付けておけば、友達関係は大体上手くいく。

「でもさ〜いいよね可愛い子は何もしなくてもモテモテで!」

穂が不貞腐れたように言い、オムレツを食べた。

「花城さんレベルなら何もしなくても御幸先輩みたいな人から告られてさ〜!」
「だから言わないでよ〜!!」
「あ…ご、ごめん環!でもどうせすぐ別れるよぉ、だって言っちゃ悪いけど…顔だけじゃん!」
「そうかな〜…」
「そうだよ!環も可愛いし、それに環は優しいしお菓子作り上手だし、女子力高いもん!」
「うう〜…」

早く別れて〜、と手を合わせて念じ始める環に便乗し、穂も手を合わせて笑い出し、茜も一緒に笑いだした。
私はと言うと、口元に笑みを作りながら、胸のモヤモヤ感がぬぐいきれないのだった。



***



「ちだセン体育館の鍵〜!」
「コラ!千田先生、体育館の鍵を貸してください、でしょ!」
「えへへ…貸してくださ〜い!」

放課後、職員室へ鍵を取りに行き、部活へ向かう。すると途中で花城さんを見かけた。生徒会室前で1年生達と話している。そういえば花城さんって、生徒会に入ってるんだよね…。

「え!?いいんですか?」
「うん、今日は私一人でもすぐ終わる量だから。」
「すみません花城先輩!」
「気を付けてね」
「はい!お先に失礼します」

1年生は忙しそうに帰っていき、花城さんは一人で生徒会室に入った。
なんか…ちゃんと先輩っぽいんだな〜…。クラスでは誰かと話しているところをほとんど見ないから、優しい先輩やってるのって新鮮…。
…って、私も早くいかないと部活遅刻しちゃう!



***



部活が終わって日もとっぷり暮れ、鍵を返しに職員室へ向かうと、生徒会室の電気がついていることに気が付いた。窓から中を覗くと、花城さんが一人で机に向かい、紙の束をホチキス止めしている。
生徒会ってもっと華々しいもんかと思ってたけど、意外と地味な仕事もあるんだな…。
変な感心をしながら前を通り過ぎ、職員室で鍵を返してまた廊下を引き返しながら、ふと思い出した。

『今日は私一人でもすぐ終わる量だから』

なんとなく気がかりになって、また生徒会室を窓からのぞいた。花城さんの足元には段ボール箱が二つもあり、五浦も中身はぎっしり詰まっているように見える。さらに机の上には紙が山積みになっていて、とても「すぐ終わる量」には見えない。

え〜…何?どういうこと?

私はしばらくの間そこでうろうろし、迷いに迷って、ドアを開けた。
ガラララ…、と引き戸が滑らかな音を立てた。花城さんが振り返り、驚いた顔をした。

「部活終わって通りかかって…花城さんがいるの見えたから…。な、何してるの?」

言いながら、私怪しすぎるでしょ、と思った。だって2年生になってまだ一度も花城さんとは話してないし、1年生の時もなんだか気まずい会話が最後だったし…。

「…資料作りだけど…」

どうして鷹野さんがいるの?と花城さんの目が物語っている…。

「それ…全部?ひとりで?いつまでに?」
「…今日中に…」
「え!?無理じゃん!!」

思わず思ったことをそのまま声に出すと、花城さんは目を丸くした。

「私手伝うよ!」

鞄を下ろして椅子を持ってくると、花城さんは慌てて立ち上がった。

「え、いいよ、そんな…帰り遅くなっちゃうし…」
「じゃあ二人でやれば早く帰れるでしょ?」
「……。」

驚いた顔で私を見つめながら席に着く花城さん。やり方を聞き、ホチキスを借りて、花城さんの向かいで作業を始めた。

「実はさー部活に行く前、花城さんと1年生が話してるの聞いちゃったんだよね」
「え…?」
「1年生先に帰してたでしょ?なんで?」
「……。…最近子猫を拾ったらしくて…心配そうだったから」
「へ〜、花城さん優しいな〜」
「…?優しいのは子猫を拾った子でしょ?」
「いやいや、だってそのためにその子の分までこうしてお仕事してるんでしょ?」
「……。」

花城さんはちょっと俯いた。

「それだったら…鷹野さん手伝ってくれてるし…」
「え〜?えっへっへ」

――ガララ、とまたドアが開いた。入り口には、隣のクラスの周防君が立っていて、私がいることに驚いた様子だった。そうだ、周防君も生徒会なんだっけ。

「…1年は?」
「都合が悪くて、先に帰ってもらった」

周防君がポツリと尋ね、花城さんが静かに答えると、周防君はふうん、と頷き、椅子を持ってきて紙の山を一つ自分の方に寄せた。手伝ってくれるらしい。
パチン、パチン、とホチキスの音が響き始め、静かに時間が流れていく。花城さんと周防君って、結構一緒に居たりするけど、いつもこんな感じなのかな…?

「あれある?」
「はい」

周防君の声にすかさずホチキスの針の箱を差し出す花城さん。ほぼ会話ないけど…阿吽の呼吸というか…。なんかすごいな…。

「……。」
「……。」
「……。」

そして流れる沈黙…。私こういう空気苦手なんだよな〜…!!
で、でも早く終わらせなきゃ。

ーパチン、パチン、パチン。

――ガララララ…

「はっなっしっろ〜〜♡」

突然にぎやかに男子が入ってきて驚いた。しかもそれが御幸先輩だったからもう一度驚いた。

「生徒会室電気ついてんの見えたから来ちゃった♡…あれ」

ちらり、と御幸先輩が私を見おろす。

「生徒会新しい人入ったの?」
「…じゃなくて、手伝ってくれてるの」

慌ててお辞儀をすると、へえ、と笑みを浮かべた御幸先輩が、ぺこりと会釈を返してくれた。や、やっぱカッコいいな…。

「へー…。…へぇ〜〜。」
「何?ニヤニヤして」
「花城にも友達ができたか!」
「どういう意味?」
「はっはっはっは!」
「あ…あはは…」

は…反応に困る〜…!!
御幸先輩はひとしきり笑って、何も言わず椅子を持ってきて、自然に手伝いに加わった。

「これとこれ組むの?」
「うん」
「りょーかい」

御幸先輩は花城さんの山から紙を取り、ホチキスで止め始めた。周防君は慣れているのか何も突っ込まない。い、いつもこうなのかな…?
それから真剣に仕事に取り組む三人の中で、なんとなく肩身が狭いような気がしながら、ようやく作業の終わりが見えてきて――

――パチン。

最後の一束を留めた花城さんがそれを山の上に置き、周防君とてきぱき箱の中に詰めると、ふたをして顔を見合わせた。終わったらしい。

「鷹野さん、ありがとう。」
「え?いやいや全然!」
「帰りは?電車?」
「え?あ、うん。」
「じゃあ、周防君と一緒だね。」

え。
花城さんが周防君を振り返ると、周防君は頷いた。

「え?花城さんは?」
「私徒歩で…駅と反対だから」
「え、あ、そうなんだ…」

…え〜周防君と帰るの!?きまずっ…!
…い、いやいや、そんなこと思っちゃ失礼だよね…。
私たちはぞろぞろと校門に向かった。御幸先輩も当たり前のようについてくる。交差点に差し掛かって、花城さんは「じゃあ」と言って、御幸先輩と一緒に歩いて行った。

「行こう」
「あ…うん。」

周防君は黙って歩いていく。周防君って…花城さんと同じで、1年生の時ずっと定期試験満点を取り続けた…んだよね。二人とも私からしたら別世界の人だなぁ…。普段どんなこと考えてるんだろう。花城さんも周防君も物静かだし…きっといろいろ難しいこと考えてるんだろうなぁ…

「…周防君って何組だっけ?」
「C組。」
「あ…!へぇ〜…そっか…」
「……。」

…話が続かなすぎる…!!

「周防君…ってさ、花城さんと仲いい…よね?」
「生徒会でよく会うから。」
「そっか、そうだよね…」
「……。」
「……。」

……話が続かなすぎる…!!!!

「…でも、私…1年の時から花城さんと、同じクラスだけどさぁ…。」
「……。」
「なんか、ほら、花城さんって、高嶺の花って感じで近づきがたいじゃん?」
「……。」
「すごい美人で可愛いしさあ、頭もよくて…でも謎が多いっていうか…」
「……。」
「何話したらいいかよくわからなくて、なかなか仲良くなれないんだよね…。」
「……。」
「…って私、何言ってんだろ。ごめんね周防君、なんか周防君と花城さんは仲いいんだなーって思って、羨ましくなってさー」

あはは、と笑い流すと、それまで黙り込んでいた周防君が口を開いた。

「どうしてわからないんだ?」
「え?だって…花城さんてほら、醸し出してるオーラが違うっていうか…畏れ多いっていうか…姫って感じじゃん?」
「それは、鷹野が考えすぎだと思う。」
「へ?」
「花城を姫だなんて祭り上げて美化してるのは周りの奴らが勝手にしてることだし…高嶺の花なんて自覚は本人にはない。」
「……。」
「花城からしたら、周りに避けられてることしかわからないし、花城の方が鷹野と『何を話したらいいかわからない』と思うけど。」
「……。」

ご、ごもっとも…。目からうろこ、というか、ちょっと耳が痛い…。
同時に理解した。どうして周防君と花城さんが仲良しなのか。他にも、東条君や御幸先輩とも。3人とも花城さんに偏見なく気さくに話しかけたりしていて…そんなの特別なことじゃなかった。私だって、避けられるより気さくに話しかけられるほうが嬉しいに決まってる。壁を作っていたのは私の方だった…。

「そ…そうだね…」
「鷹野、何番線?」
「へ?あ、に、2番…」
「じゃあ、俺こっちだから。気を付けて」
「あ、はい…」

いつの間にか改札口に差し掛かっていて、周防君はスマートに踵を返し、地下鉄の改札口の方へ向かっていった。地下鉄なのにこっちの改札まで送ってくれたのか…。不愛想に見えて紳士だ…。
それに、周防君にはっきりと言われて目が覚めた。私…もうちょっと、花城さんに話しかけてみよう。

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